サーチアンドデストロイ
上、上。下、下。もっと打て。
リバーに、テンプル、楽しいな。
あ、フック、フック。ジャブ、ジャブ。スト、レー、トッ。
「あぶぉ〜」
おっと、もうダウンですか?
寂しいな、さっきはあんなにアリさんごっこに付き合ってくれたのに。
もう、先に寝ちゃうなんて、これじゃ欲求不満が溜まるばっかりよ。
しょうがないわ、私だって我慢の限界よ。
こうなったら、もう他の人で解消するしかないわね。
あら、目を逸らさなくて良いのよ。さっき、矢みたいなアプローチで私を射抜こうとした癖に。ホント、意気地が無いわね。
オエ、自分で遊んでて気分悪くなって来た。
おや、射ってきた。
とりゃ、二指真空把。とと、無理無理、受け止めるので精一杯。
「何やっとんじゃお主は?」
味方に射かけた馬鹿共が爆発した思ったら、爆炎の中からジジイが出て来やがった。
くそぉ、なんか格好良い登場だ。
「ジジイ、なんか面白い遊びない? こんなにいっぱいオモチャいるし」
「何を言っとるんじゃお主は。
じゃが、このような外道共、どうやって処理したものかの。単純に競争でどうじゃ」
「オッケー。スコアは耳? 親指?」
「面倒じゃから右耳で良かろう」
味方を震え上がらせることが仕事の督戦隊は、味方だった2人の言葉に戦慄した。
(視点変更)
「あの、何やら、敵軍が恐慌状態に陥っているように見えますが」
「言われんでもわかっておる。仕方がない、突撃だ」
苦々しく大岩が命令を発する。
おそらく、既に黒鍵傭兵団が向かっているであろう。
だが、このまま座視したところで、督戦隊の統率が回復するのは目に見えている。
「むっ、あやつが動いたか。だが、少し早いか。」
伝令からの報告に、アスセーナは眉を歪める。
しかし、策は動き、止めることは不可能だ。
「砲撃、一時中断。工作員に敵の領民兵を扇動させろ」
彼女の命令により、アスセーナ側の動きが活発化した。
「何、側方からの襲撃だと」
「は、しかも領民兵共が騒ぎ出しました」
しかし、彼とて自らの働きでこの地位を得た者。無能な者では無い。
「領民兵の鎮圧よりも、敵襲に対処だ。
黒鍵傭兵団が既に向かっているであろう。到着まで持ちこたえてから、戦線を整え、」
ブチっと音を立てて、伝令兵の耳が引きちぎられる。
耳を引きちぎられてのたうちまわる伝令兵を踏みつけて、黒い男が悲鳴を上げている彼を物理的に黙らせた。
「おっ、偉そうなやつ見っけ。ボーナスポイントになるかな」
黒い男は、朗らかに笑いかけて来た。
「おかしい、順調過ぎる」
大岩の呟きに彼の副官も同意を示す。
襲撃をかけてから、組織だった反撃がなく、混乱が続いている。
彼も、元同僚だった者が無能であるとは思っておらず、すぐにでも態勢を整えて反撃してくると思っていたのだ。
しかし、大岩の部隊の快進撃はそれまでだった。
それらが現れた瞬間、戦場の空気が張りつめたように感じた。
経験豊富な戦闘集団、約500。
大岩の戦力の2.5倍。
予想よりも遥かに早く、黒鍵傭兵団が戦場に出現した。
「ふむ、蹂躙だけの仕事って話だったけどな」
大岩は、おそらく団長であろう男の威圧に歯噛みする。
大岩も一対一では、奴に負けることはないだろう。
しかし、部下の人数も質も黒鍵傭兵団の方が勝ると、彼は直感的に悟った。
(せめて、同人数。クソ、本隊と合流できていれば)
心中でアスセーナに作戦失敗を詫び、少しでも敵を減らすよう決意する大岩。
ほぼ同時に、突撃の合図をしようとする2人だが、それは遮られることになった。
「き、り、も、み! 稲妻! キーック」
覚悟を決めた大岩の前で、黒鍵傭兵団の団長はすっ飛んで行った。
(視点変更)
敵増援発見。サーチアンドデストロイ。
ほらほら、ぼーっとしてると転がっちゃうよ。
こうやって、1人、2人。
おや? ほうほう。やるね、もう態勢立て直したか。
やべ、こいつら結構面倒臭い。
うおっと、後ろの奴らも突撃してきたか。
敵、じゃないみたいだね。良かった、やつあたりしなくて。
(視点変更)
何なんだ奴は、いきなり突っ込んで、敵のボス吹っ飛ばしやがった。
見てる間に、2人も斬り倒す。
だが、こっちもぼーっと見てる間抜けじゃねぇ。
「チャンスだ、突っ込むぞ」
鬨の声を上げて、某も敵傭兵団に突撃を仕掛けた。
(視点変更)
何だ、あやつめヘマしおったか。
本来なら、本隊が前に出るのはもっと後の予定だった。
だが、騎兵のみで駆けてきて正解だった。
黒鍵傭兵団があれほど動揺していたなら、ここで殲滅できる。
「アスセーナ=ユーリリオン、参る」
「姫様!?」
あの、馬鹿大男が。何度言ったらわかる。
「私を姫と呼ぶな!!」
(視点変更)
一方的な戦闘だった。
数が勝るはずの黒鍵傭兵団は、251の歩兵と50の騎兵に蹂躙された。
後に生き残った黒鍵傭兵団の団員はこう語る。
-目を離した奴から死んでいくんだ。他の敵に気をとられた奴の前にいつの間にか立っているんだ。
オレァ、目を離さなかった。だから、他の敵に斬られて助かったんだ。
アレァ、本当に人間か? 俺たち殺しすぎて罰が当たったんじゃねぇのか-
(視点変更)
どういうことだ。全滅。
横からの攻撃、そんなのルール違反だ。
「卑怯だぞ。アスセーナ姫!!」
(視点変更)
「よし、出陣だ」
ジーリョが発した言葉に、周りものは諌めようと、自分の大将に声をかける。
しかし、次に彼が発した言葉で誰もが呆気にとられる事となる。
「敵は督戦隊と、その非道を命令したものだ」
臣下の1人が意を決して、主君に問う。
「・・・貴方様は、自分のために戦った臣下を殺すと」
「そうだ」
「見殺しになさるわけではなく、殺すと!!」
「そうだ」
「あんまりな言葉でございます。
あの者もここで貴方様が籠城するため、時間を稼ぐとなれば本望でしょう。
ですが、反逆者として汚名をきせると? 貴方様が手打ちになさると?」
「そうだ」
「・・・私を殺すか? それでも良い。
重要なことは、一刻も早くこの馬鹿騒ぎを収めることだ。
確かに籠城すれば、兵数の差でアスセーナも攻めあぐねるだろう。
だが、混乱が長引き、他の諸侯より侵攻を受けるようでは、話にならん。
言っておくが、お前らも生き残る必要があるからこそ、ここで出る必要があるのだ。
お前らがいなくなってしまえば、この領の武力が半減してしまうからな」
「若、」
「すまんな、しばらく固いパンを齧る生活かもしれん。
だが、あのお転婆のことだ、お前らに厳しい処罰はせんだろうし、働きによっては認めてもらえる」
ジーリョは、自分の愛馬にまたがり、うっすら微笑を浮かべた。
「ジーリョ=ユーリリオン、出る」
(すまんな、本当はただのやつあたりなんだ。
私も処断は免れぬだろう。詫びは向こうでする)
「そうか、あの方が決断されたか」
黒鍵傭兵団壊滅後、ジーリョの臣下はアスセーナに罵倒された。
曰く、卑怯ではなく『策』というものだ。
曰く、貴様らが行った外道も『策』ではないか。
曰く、戦の前は『策』を用いて、戦で用いると非難するか。とんだ卑怯者だ。
臣下の男は、自分が間違ったとは思っていない。
だが、アスセーナとの激突で潰走し、助けかと思った味方から首を狙われている。
「ジーリョ様」
味方がいなくなった彼の前に、彼の主君が現れる。
「成長、・・・なさいましたな」
第二次ジーリョ=ユーリリオンの反乱。
わずか1日もかからず鎮圧されたこの乱は、あまりにも短く損害が小規模だったため、他の諸侯がユーリリオン領に手出しする暇もなかった。