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やつあたり  作者: smallstream
第1話 ユーリリオン動乱
7/70

サーチアンドデストロイ

 上、上。下、下。もっと打て。


 リバーに、テンプル、楽しいな。


 あ、フック、フック。ジャブ、ジャブ。スト、レー、トッ。


「あぶぉ〜」

 おっと、もうダウンですか?

 寂しいな、さっきはあんなにアリさんごっこに付き合ってくれたのに。

 もう、先に寝ちゃうなんて、これじゃ欲求不満が溜まるばっかりよ。

 しょうがないわ、私だって我慢の限界よ。

 こうなったら、もう他の人で解消するしかないわね。


 あら、目を逸らさなくて良いのよ。さっき、矢みたいなアプローチで私を射抜こうとした癖に。ホント、意気地が無いわね。


 オエ、自分で遊んでて気分悪くなって来た。

 おや、射ってきた。

 とりゃ、二指真空把。とと、無理無理、受け止めるので精一杯。


「何やっとんじゃお主は?」

 味方に射かけた馬鹿共が爆発した思ったら、爆炎の中からジジイが出て来やがった。

 くそぉ、なんか格好良い登場だ。


「ジジイ、なんか面白い遊びない? こんなにいっぱいオモチャいるし」

「何を言っとるんじゃお主は。

 じゃが、このような外道共、どうやって処理したものかの。単純に競争でどうじゃ」

「オッケー。スコアは耳? 親指?」

「面倒じゃから右耳で良かろう」


 味方を震え上がらせることが仕事の督戦隊は、味方だった2人の言葉に戦慄した。





(視点変更)


「あの、何やら、敵軍が恐慌状態に陥っているように見えますが」

「言われんでもわかっておる。仕方がない、突撃だ」

 苦々しく大岩が命令を発する。

 おそらく、既に黒鍵傭兵団が向かっているであろう。

 だが、このまま座視したところで、督戦隊の統率が回復するのは目に見えている。




「むっ、あやつが動いたか。だが、少し早いか。」

 伝令からの報告に、アスセーナは眉を歪める。

 しかし、策は動き、止めることは不可能だ。


「砲撃、一時中断。工作員に敵の領民兵を扇動させろ」

 彼女の命令により、アスセーナ側の動きが活発化した。




「何、側方からの襲撃だと」

「は、しかも領民兵共が騒ぎ出しました」

 しかし、彼とて自らの働きでこの地位を得た者。無能な者では無い。


「領民兵の鎮圧よりも、敵襲に対処だ。

 黒鍵傭兵団が既に向かっているであろう。到着まで持ちこたえてから、戦線を整え、」

 ブチっと音を立てて、伝令兵の耳が引きちぎられる。

 耳を引きちぎられてのたうちまわる伝令兵を踏みつけて、黒い男が悲鳴を上げている彼を物理的に黙らせた。


「おっ、偉そうなやつ見っけ。ボーナスポイントになるかな」


 黒い男は、朗らかに笑いかけて来た。




「おかしい、順調過ぎる」

 大岩の呟きに彼の副官も同意を示す。

 襲撃をかけてから、組織だった反撃がなく、混乱が続いている。

 彼も、元同僚だった者が無能であるとは思っておらず、すぐにでも態勢を整えて反撃してくると思っていたのだ。


 しかし、大岩の部隊の快進撃はそれまでだった。


 それらが現れた瞬間、戦場の空気が張りつめたように感じた。

 経験豊富な戦闘集団、約500。

 大岩の戦力の2.5倍。

 予想よりも遥かに早く、黒鍵傭兵団が戦場に出現した。


「ふむ、蹂躙だけの仕事って話だったけどな」


 大岩は、おそらく団長であろう男の威圧に歯噛みする。

 大岩も一対一では、奴に負けることはないだろう。

 しかし、部下の人数も質も黒鍵傭兵団の方が勝ると、彼は直感的に悟った。


(せめて、同人数。クソ、本隊と合流できていれば)

 心中でアスセーナに作戦失敗を詫び、少しでも敵を減らすよう決意する大岩。


 ほぼ同時に、突撃の合図をしようとする2人だが、それは遮られることになった。


「き、り、も、み! 稲妻! キーック」

 覚悟を決めた大岩の前で、黒鍵傭兵団の団長はすっ飛んで行った。



(視点変更)


 敵増援発見。サーチアンドデストロイ。


 ほらほら、ぼーっとしてると転がっちゃうよ。

 こうやって、1人、2人。


 おや? ほうほう。やるね、もう態勢立て直したか。


 やべ、こいつら結構面倒臭い。

 うおっと、後ろの奴らも突撃してきたか。

 敵、じゃないみたいだね。良かった、やつあたりしなくて。



(視点変更)


 何なんだ奴は、いきなり突っ込んで、敵のボス吹っ飛ばしやがった。

 見てる間に、2人も斬り倒す。


 だが、こっちもぼーっと見てる間抜けじゃねぇ。

「チャンスだ、突っ込むぞ」

 鬨の声を上げて、某も敵傭兵団に突撃を仕掛けた。



(視点変更)


 何だ、あやつめヘマしおったか。

 本来なら、本隊が前に出るのはもっと後の予定だった。

 だが、騎兵のみで駆けてきて正解だった。

 黒鍵傭兵団があれほど動揺していたなら、ここで殲滅できる。


「アスセーナ=ユーリリオン、参る」

「姫様!?」


 あの、馬鹿大男が。何度言ったらわかる。


「私を姫と呼ぶな!!」



(視点変更)


 一方的な戦闘だった。

 数が勝るはずの黒鍵傭兵団は、251の歩兵と50の騎兵に蹂躙された。


 後に生き残った黒鍵傭兵団の団員はこう語る。


 -目を離した奴から死んでいくんだ。他の敵に気をとられた奴の前にいつの間にか立っているんだ。

 オレァ、目を離さなかった。だから、他の敵に斬られて助かったんだ。

 アレァ、本当に人間か? 俺たち殺しすぎて罰が当たったんじゃねぇのか-



(視点変更)


 どういうことだ。全滅。

 横からの攻撃、そんなのルール違反だ。


「卑怯だぞ。アスセーナ姫!!」





(視点変更)


「よし、出陣だ」

 ジーリョが発した言葉に、周りものは諌めようと、自分の大将に声をかける。

 しかし、次に彼が発した言葉で誰もが呆気にとられる事となる。


「敵は督戦隊と、その非道を命令したものだ」


 臣下の1人が意を決して、主君に問う。

「・・・貴方様は、自分のために戦った臣下を殺すと」

「そうだ」

「見殺しになさるわけではなく、殺すと!!」

「そうだ」

「あんまりな言葉でございます。

 あの者もここで貴方様が籠城するため、時間を稼ぐとなれば本望でしょう。

 ですが、反逆者として汚名をきせると? 貴方様が手打ちになさると?」

「そうだ」



「・・・私を殺すか? それでも良い。

 重要なことは、一刻も早くこの馬鹿騒ぎを収めることだ。

 確かに籠城すれば、兵数の差でアスセーナも攻めあぐねるだろう。

 だが、混乱が長引き、他の諸侯より侵攻を受けるようでは、話にならん。

 言っておくが、お前らも生き残る必要があるからこそ、ここで出る必要があるのだ。

 お前らがいなくなってしまえば、この領の武力が半減してしまうからな」

「若、」

「すまんな、しばらく固いパンを齧る生活かもしれん。

 だが、あのお転婆のことだ、お前らに厳しい処罰はせんだろうし、働きによっては認めてもらえる」



 ジーリョは、自分の愛馬にまたがり、うっすら微笑を浮かべた。


「ジーリョ=ユーリリオン、出る」

(すまんな、本当はただのやつあたりなんだ。

 私も処断は免れぬだろう。詫びは向こうでする)





「そうか、あの方が決断されたか」


 黒鍵傭兵団壊滅後、ジーリョの臣下はアスセーナに罵倒された。

 曰く、卑怯ではなく『策』というものだ。

 曰く、貴様らが行った外道も『策』ではないか。

 曰く、戦の前は『策』を用いて、戦で用いると非難するか。とんだ卑怯者だ。


 臣下の男は、自分が間違ったとは思っていない。

 だが、アスセーナとの激突で潰走し、助けかと思った味方から首を狙われている。


「ジーリョ様」

 味方がいなくなった彼の前に、彼の主君が現れる。



「成長、・・・なさいましたな」





 第二次ジーリョ=ユーリリオンの反乱。

 わずか1日もかからず鎮圧されたこの乱は、あまりにも短く損害が小規模だったため、他の諸侯がユーリリオン領に手出しする暇もなかった。

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