兄妹の激突
みんな、制服って着たことあるかな。
中学のとかって、身長伸びること見越して、初めは大きいの買うよね。
クソが、ほとんど成長しなかったから、ズボンの裾がズルズルだったよ。
改造制服って、言われて生活指導部に呼び出されたよ。
やっぱ、服って自分にぴったりの物が良いね。
てことで。
「だから、何故貴様は支給された鎧を着ていない」
「あ〜、さすがにサイズ合わないっすよ」
それより、あれ鎧って言えるの? 胸当てと背中が完全に分離されてたよ。
鎧って、あんたが着てるような物じゃないの?
兜というか皮の帽子、メッチャ臭かったよ。剣道の防具並み。
「それで、着てない鎧は?」
「あれ皮が腐ってましたよ。キモいから隅に放置したら、お偉いさんがその上にゲロのトッピングしちゃったんで、クレームはそ、」
おっと、テレフォンパンチ。
「何故修正を避ける!!」
何故も何も、俺は男に殴られて喜ぶ趣味ないよ。
俺を殴りたいなら、殴られたくなるようなオネータマ呼んできなさいっての。
「見せしめにする必要があるな」
オッさん、男の語り合いに刃物は無粋だぜ。
そうやって、数分間程モハメド・アリごっこを楽しんでいたら、呼集がかかったようだ。おーい、オッさん遊んでいて良いの?
「覚えていろ、真っ先に殺してやる」
ホワイ? 俺味方よ。何、その捨て台詞。
その台詞の意味、後でよーくわかったけどね。
(視点変更)
ジーリョ=ユーリリオンの居城を背にひらけた地にジーリョ軍3,000。
対するは、真っ向位置にアスセーナ軍800。
共に魚鱗の陣、突撃態勢で部隊を展開する。
「アスセーナの兵が前情報より少ないのだが?」
「ジーリョ様、兵数が圧倒的ですと逃散する者もでます。奴ら末端まで管理ができていないんですよ」
(なるほどな、普通の戦は数と士気で決まる。
妹は、それに頼らぬ何かで勝負に来たか。さて、それは新しい魔術か装備か)
「こちらの士気は大丈夫か? 寄せ集めでは上手く士気が上がらんだろう」
「それについては、もちろん手は打っております」
ジーリョは考えている、おそらくこちらは負けるであろうと。
だが、後ろの城に籠もれば、アスセーナも必ず攻めあぐねるはずということも、承知しているとも予想される。
「兵は拙速を尊ぶ。お互い電撃戦か」
「ええ、兵数に劣るアスセーナ姫は大将の貴方を狙って一点突破を仕掛けてくるでしょう。それを我々が押しつぶせば勝利です」
簡単に言うがと思うが、それを押し殺してジーリョは軽く息を吐いた。
この地の戦は非常に単純である。
普通の戦では、傭兵団が敵味方相対し、傭兵団同士の裏取引で勝った負けたの勝敗が決定してしまうためである。
そのため、単純に兵数を雇った方、雇った傭兵団が交渉を有利に進めやすい方の勝利となり、勝った方が利益を得てより兵数を雇うことができる。
また、兵数を確保できない側が徹底抗戦をしても、雇っていた傭兵団が逃散し、数の暴力でねじ伏せられてしまう。
つまりは、茶番か突撃しかない単純な戦になってしまっていた。
しかし、まだ知られていないが、一部の諸侯が自領で軍備を増強し、これまでにない戦で勝利を掴む者が現れはじめた。
そうした従来通りに突撃を行うジーリョ軍の最前線。
そこは地獄絵図となっていた。
「逃げるなぁ!! 突撃だ、突撃!!」
「どっちにも逃げられないんだよ。前行け、前!!」
「後ろの方にいると矢が当たりやすいぞ、ほら最後尾、死にたいのか!!」
督戦隊、退く兵を処分することで士気を上げるための兵。
彼らは、逃亡者だけでなく、散発的に味方に矢を射かけて突撃を促していた。
対する最前列。両軍が激突した時、アスセーナ軍は陣形を変え、守りに入った。
ロクな装備も与えられていないジーリョ軍は、敵の守りを中々崩せず。戦線が膠着した。
ここで、矢の雨に加えてアスセーナ軍から魔術が放たれ、爆発が起こる。
一撃一撃は大砲程度の威力だが、過密になっているジーリョ軍は一発で多くの犠牲が出る。
しかし、数の差は如何ともし難いか、ジーリョ軍側の魔術もあり、徐々にアスセーナ軍は押し込まれていく。
(視点変更)
ちょ、これ、満員電車状態。
いたっ、おいちょっと槍の先刺さったぞ。
馬鹿ですか、指揮官さん。こんなんでどう戦えと。
やってられん、とうっ。
ふう、上には誰もいなくて良いな。
あ、足場の人ありがとう、ん? 怒ってる、やだな心は広く持って、
「なんとぉ!?」
両方向からの一斉射撃ですか、おいっなんで味方側からも。
おっと、足場が崩れた。
うん、やっぱり地面が良いね。足場になってくれた人安らかに眠って下さい。
「勝手に、こ、ろす、な」
ありゃま、しぶとい。んじゃ、そのまま寝とって下さい。
多分、そっちの方が助かる確率高いですよって、聞いてないね。
死んだか、気絶したか。・・・・・・どっちでも良いけど。
ちょっと、ムカついちゃったな。あれ?
「これ、やつあたりっていわんよな。まあ良いか」
(視点変更)
「後少しだな、もう少し督戦隊と寄せ集めが開いてくれれば」
大岩のような男が、自分に言い聞かせるように呟く。
彼が率いる200は、戦場となっている開けた地の外縁、森の中に潜んでいる。
彼は、飛び出すタイミングを計っている。
早すぎると、督戦隊と領民兵との混戦になり、督戦隊の始末が遅れて黒鍵傭兵団が到着すれば蹴散らされる。
しかし、悠長にしていて、自軍が壊滅してしまっては意味がない。
「アスセーナ様、もうしばらくお忍び下さい」
「あの、何か敵軍、混乱してません?」
「どういうことだ。戦線が乱れているようだが」
「一部の領民兵が反抗したのでしょう。すぐに鎮圧して、良い見せしめになることでしょう」
しかし、伝令からは芳しい情報が入って来ず、最前列の乱れの継続、拡大の続報が幾度も伝えられる。
(アスセーナめ、何かしたな)
「すぐに、鎮圧されるでしょう。黒鍵傭兵団も向かわせました。もうしばらく、お待ち下さい」
「希望的観測はもう良い。現地に向かう」
ジーリョの言葉に周囲がどよめく。当然であろう、総大将を矢面に出すなんて、負け戦も同然のことである。
「お、お待ち下さい。総大将は迂闊に動いてはなりません」
「ならば、お前が行くか?」
ジーリョの言葉で、臣下は周囲の他の臣下団の無言のプレッシャーを一身に浴びた。
お前が行け、と。
「わかりました。督戦隊の立て直しもあります故」
すまんな、とジーリョは心中で臣下に詫びた。