肌寒い夜風
こんばんは、あなたの頭の上には星が輝いていますか?
今、俺は満天の星空に包まれています。
今日は新月ですが、星が明るすぎて闇夜になりません。
少し肌寒くなってきました。けど、俺には温めてくれる人がいません。
寂しくなってきました。
こうして耳を澄ましていても、・・・ズゴー、ガゴーと・・・、いびきの大合唱が。
やってられるか!!
俺も毛布に包まりてぇよ、明日体動かすから早く寝たいのよ。
でもよ、この毛布、虫だらけのボロ布だぜ。
うわー、こんなのに包まれたら、虫さんお持ち帰りだよ。
ノミ「ちょっと、飲み過ぎた見たい」
・・・何をですか。
南京虫「もうあなたと離れられない」
・・・ええ、トップクラスにしつこいですね、あなたは。
シラミ「ほら、あなたの子よ」
・・・わぁい、こんなに子沢山。
気持ち悪くなってきた、寒いが水浴びでもしてこよう、そうしよう。
「あんたも、寝れないんか。
オラもだ。こんなに震えちまって、なしてみんな寝れるんじゃ。
明日の戦じゃオラた、」
「うるさい、早く寝ろ」
何か勘違いした不眠症の農民Aのジョーを適確に捉えるジャブ。
うん、よく寝てる。やはり睡眠は大事よ。明日に眠る時は安眠とは限らないんだから、今日くらいゆっくり寝ときなさい。
そういうことで、スヤスヤ眠る不眠症Aを起こさないように、そっとその場を離れるのだった。うん、俺って優しい。
(視点変更)
星空を物憂げに見ているが、彼女が憂いているのは、やさしい悩みごとでは無い。
彼女の兄の死は、最早彼女の中では決定事項。
むしろ、そのあとの始末について頭を悩ませている。ただ、少しだけ、そこまで家族に対して冷淡に割り切っている自分について、何も悩まない自分について悩んでいる。
少しだけ、果実酒を口にする。
彼女も、野営中、それも戦前に酒を入れない方が良いとわかっているが。
この星空がいけないようだ、と責任転嫁して、もう一口、杯を舐める。
「アスセーナ様、夜風は身体に障ります故」
「無粋だな、私はこれでも女だ。美しい物を愛でる女性を振り向かせる言葉では無いぞ。
それに、酒の火照りに夜風が心地良いのだ」
そのように彼女は口にするが、後ろに控える男には、気の利いた台詞を期待したこともない。
大きな男である。縦も横も大きく、掌も足も大きく、腕も腿も太い。
その風貌は角ばっており、影では大岩と揶揄されているのも納得である。
「・・・・・・お前も裏切るか?」
「そのようなこと、考えたこともありません」
アスセーナの言葉に大岩は即答する。しかし、彼女の中の靄は晴れることがない。
叛意した者、その全てを断罪すれば、領の戦力は瓦解する。それ故、この戦いで完膚なきまで叩きのめし、誰が主人かを身をもって教えて従える必要がある。
だが、叛意した事実、裏切られた感情は消えることがない。
「まあ、良い。清濁併せ呑むのも器量の内よ」
彼女はまだ知らない。これから飲み込む物の中に、自分の想像以上に濁りきったモノがいるとは。
そして、想像できない。濁り方にも色々あるということを。
男もまた、星空を物憂げに見ている。
彼が考えているのは、やさしい悩みごと。
今まで悩んで、彼自身を苛んできたものは、あの黒い男の毒気に当てられ、少しだけ棚上げしていた。
生意気な妹とは仲が悪かったが、同腹の妹とは仲が良かった。
実の母親は厳しくて少しだけ苦手で、生意気な妹の母には随分甘えさせてもらっており、2人とも嫌いではなかった。あのお転婆のことも、今思うと憎んではなかったと思う。
彼は、これまで、夜、いや時間があると酒で気を紛らわせていたが、今夜は酒を口にする気分ではなかった。
「ジーリョ様、もうそろそろお休みになられた方が良いかと」
「そうだな。総大将が鼻声では士気も上がるまい。
夜風が心地良かったので、思わず長居した」
ジーリョの言葉に違和感を覚える臣下。この主はもっと他人を気にした台詞を使うのではないか、と。
彼の見立ててでは、ジーリョは優秀であるが縮まった男である。自分の価値基準を他人の顔色で測っている男、この臣下がジーリョを観察して出した結論だった。
「・・・・・・お前は私に忠誠を捧げているんだな」
「もちろんでございます。我が主のためなら、この命投げ出す覚悟であります。覚えていらっしゃいますか? あの忌々しいアスセーナ姫に投降したあの、」
ジーリョの言葉に臣下は即答して語る。そして、彼自身の腹が決まった。
叛意した者、その全てを断罪すれば、領の戦力はボロボロになる。それ故、なるべく早く敗者を決め、この領の絶対的な主人を決める必要がある。
「まだ、私に壊せるものは少なくない」
彼はまだ想像できない。今まで自分が溜め込んだ物を吐き出した時の気分を。
だが、彼は思い出している。あの黒い男に自分の心を吐き出した時の気分を。
(視点変更)
キーワード
・夜
・水浴び
・先客
・脱ぎ捨てられたローブ
何を思い浮かべましたか?
そうですよね。普通健全な男性女性の皆さんは、同じこと考えますよね。俺もバッチリ考えていました! すいません!!
ええ、もう完全に気配消してましたよ。
(こちら蛇、潜入に成功した)
(こちら蛇、指示をくれ、頼む)
藪を掻き分けて進むが、我ながら素晴らしい。一切音を立てずに、匍匐前進を行うことができた。
クク、どうするか。そうだ、事故ということで工作すれば良い。
もしかすると、今夜が生きている最後の夜ってことでな。
ローブってことは、ゴツい可能性は低い。多少の造形は我慢できるはずだ。
あと10・・・・・5・・3・2・1
可能性が低いって、可能性があるってことなんだよね。
しかもね、完全に想定外だったんだ。
というか、普通そっちは想定しないだろ。
おっきなお胸(筋が入ってます)
引き締まったお腹(割れています)
ちょっと太めの手足(毛が生えてます)
口周りのチャーミングなお髭
ぶらんぶらんと立派な(もういい!!)
(蛇、あなた疲れてるのよ)
「うっさいわ!! だぁっとれ!!」
やつあたり、反転キーック!! って、なんと?
「なんじゃ、いきなり」
このゴリラジジイ、ツッコミとはいえ、俺の不意打ちを障壁で防いだ。
「カッカッカ、若いのう。確かにこんな夜じゃて。
じゃがな、数少ない女性兵はいつもより警戒しており、隙なんぞ見せんぞ」
クソ、人語を介するゴリラめ。こういう奴って、師匠を思い出すから嫌になるんだ。
「まぁ、実際こういう夜じゃからのう。
軍規では規制されとるが、お盛んな者、特に男女とも見目が良いのは引っ張りだこじゃな」
うん、この部隊全滅させよう。待て、他の同志にも声をかけていけば良いか。明日まで待つ必要なかったな、ここで開戦しようか。
「カカカ、お主の考えとることはわかるぞ。
かく言うワシも若い頃は、戦の前の逢瀬を楽しみに戦を渡り歩いとったモンじゃからな」
前言撤回、全然師匠と似てないわ。むしろ、師匠と呼ばせてください。
しっかし、このジジイそんなにモテるのかねと、もう一回このジジイを観察してみる。
ハゲ、ヒゲ、ダサいローブはともかくとして、鼻が高くて、顔の作りは整っているな。
な、なんだと。身長はかなりジジイの方が高いはずなのに、こうして向かい合って座っていると、俺とジジイの座高が同じだ、と。
んで、さっきからちっともブレない体軸、はっきりしない気配、有るのか無いのかわからない隙。
うん、逃げよう。
「まあ、急ぐな若いの」
立とうとしたらこれかよ。降参、まな板の上の鯉ってこんな感じだったんだね。
「聞いて良いかい? あんた魔術師なんだろ。まさか、格闘家ってわけじゃ無いよな」
「いかにも、じゃがな在野の魔術師なんぞやっとるとこの位はできんとな。昔は前衛がおったから楽させてもらっとったがの」
嘘コケ、ボケジジイ。フリーランスの魔術師が全部てめえみたいだったら、この世から前衛職無くなるわ。
「細かいことは良いではないか、若いの。
して、ワシはこんな物を持っているのだがな」
「こいつは、ご禁制の」
「カカカ、蛇の道は蛇と言うことじゃ」
「お主も悪よのぉ」
なんてことのない単なる酒だが、見つかれば懲罰もの。
しかし、世の中隠れながらコソコソしていただくと、また違った美味しさがあるのも事実。
「フハハ、何それ。ジジイの前衛そんなにヘタレ」
「おう、今日みたいな野営の夜に女に夜這われたら、女みたいな悲鳴あげおってな。味方が夜襲と勘違いして大騒ぎよ。
そやつ、誤魔化すために騒ぎに乗じて敵の野営地に突貫しての、夜中なのに開戦してしもうたわ」
書いていて身体が痒くなって来ます。
害虫本当に嫌い。