残念系イケメン
臭い、臭い、臭い。
男、男、男。
ああ、昔のトラウマがフラッシュバック。
ちょっと書籍を買いに、ちょっとディープな専門店に入った。
その日が運悪く、大きなお祭りの翌日だったことは後で知りました。
ははは、汚物みたいな匂いさせてると焼却されちゃうぞ。
「次、名前は」
「あん?」
「名前だ、言葉通じねえのか」
後ろから、何やってんだとか、早くしろだとか野次が飛ぶ。
ですよね、どこぞのネズミの国の休日みたいな列ができていらっしゃる。いや、男ばかりでということは、どこぞの祭典か、行ったことないけど。
お、もふもふ、じゃなくてベタベタ。獣人だね、あいつら農耕しないからこんな所によくいるみたいだね。
うーん、どこぞのファンタジーだと獣人を撫でくりまわしてたが、ここにいる奴らみんな汗と雨でカペカペの毛皮ばかりだよ。ぶっちゃけ触りたく無い。
「クロウ」
ここじゃ一般人は姓が無いのが当たり前だからねとか考えて、無言で出されたボロい皮鎧と重心の狂った槍を受け取って列を離れる。
しっかし、この鎧?明らかに壊れていて着れなさそう、というか絶対サイズ合ってないし。
ウン、どっかスミに捨てとこう、虫湧いていても嫌だからね。
あ、今何してるかって? そりゃ人生、勝ち馬に乗っていくのが正解でしょうが。
(視点変更)
「それで、我が軍は勝てるというか」
男の問いに、胸に拳を当てて臣下の礼をとった男が答える。
だが、男は窓から、下に見える集まった男たちをぼぅっと見て、自分が問いかけた臣下の男を視界に入れていない。
「は、我が方は約3,000、しかしアスセーナ姫には約1,000しかおりませぬ。
また、我々はかの黒鍵傭兵団を雇いました。騎士団中心の姫方とは比べようなく戦力が充実しております。間違えても前回の様には行きますまい」
「そうか」
主君の心ここにあらずと行った返事を受け、内心ため息をつく臣下の男。
奇しくも、両者の心中は同じく『何もわかっていない』だった。
(あのお転婆が私の上に立つのは受け入れ難い。
だが、前回の戦ではっきりしたではないか、私ではあやつに勝てん)
男は気の無い顔で、意気揚々とした臣下を見る。
(傭兵団を雇い入れた金の出所は想像がつく、どうせ私の方が領主に相応しい、これからも変わらぬ誼をと、隣領の何処かから受け取ったものであろうが)
男は前回の結果を忘れていない。身内で争って得をするのは、結局外だけだということを。しかし、目の前のたわけは、いや男の下に集ったたわけたちは間違った男性のプライドを満たそうとすることに盲目になっている。
(借りた力で力押し、その上の神輿である私はただのハリボテだ)
「ジーリョ様、もう後戻りできませんぞ」
そんなことはわかっていると、ジーリョは叫びたくなる。先日、あちらに潜り込ませていた臣下が先走って失敗しており、こちらの挙兵の準備が整いつつあることは予想されるのは当然だった。
感情を見せずにジーリョは窓から離れ、階下に向かう。
「どちらへ?」
「兵の様子を見てくる」
「では、すぐに護衛を、」
「気遣いすまぬな。
だが、不要だ。下の有象無象に意気地が無いと見られるが、今最も危ういことであるから」
(全くわかっておらぬ。私も含めたわけばかりだ)
ジーリョはイラつきながら、員数の確認が行われている城門前に降り立つ。
「くつ、ひどい臭気だ」
ジーリョが吐き気を覚えたのも無理はない。ここで員数を確認されているのは正規兵や統率された傭兵団ではなく、よくて食い詰めた流れの傭兵、街のゴロツキ、そして徴兵された農民である。その数およそ1,500で、ジーリョ側の約半数を占めている。
「ハハ、私もハリボテだが、まさか兵までもとは」
彼ら寄せ集めでは士気も上がらず、統率が乱れもすると逃散や略奪の危険もある。
また、それで敗戦色が濃くなった時、黒鍵傭兵団も戦線を離れて略奪者に変貌する場面がジーリョの脳裏に浮かぶ。
勝っても負けても大混乱、誰が喜ぶかは考えればすぐにわかる。
胃のむかつきが治らないジーリョは、人目のない城門の影になるスペースに、自身の内容物を出しに向かう。
足元は覚束ないが、誰かに助けを請うことは彼のプライドが許さなかった。
(視点変更)
うぅわ、きったねえ。
酔っ払いか、二日酔いか。
いきなり目の前でゲロしやがった。
えんがちょ。これが小学校だったら、絶対ゲロ関係のアダ名がついてイジメの対象になるね。
しかし、俺もこの場を退くわけには行けない理由がある。
何故なら、この俺はスタンディングスタイルで主砲を発射しているのである。
しかし、長い。かく言う俺も二日酔いで、朝に酔い覚ましに水をこれでもかと飲んできたためである。
う、ゲロ臭が漂ってきた。早く止まってくれ、俺の主砲!!
あ、ゲロ太君と目が合った。
向こうは、やっと先客に気付いたみたいだ、遅いぞ。
と言うわけでサッサとどっか行って、って笑いやがった!?
なんだ、コラ。主砲比べたってのか? そんな自信あるってか?
・・・・・・すみません、自分が自信ありません。
「ミジメだな」
あ、こいつケンカ売ってる。うん、絶対売ってる。
主砲が止まったらズボンひん剥いて、俺と同じ大きさに切りそろえてやる。
「ユーリリオンの後継として、その名に恥じぬよう研鑽してきたが、軽んじてきたあやつに追い落とされ、挙句は我が領を滅ぼすよう動かされる傀儡」
ふう、スッキリ。
「感情を抜きにすればあやつの方が名君よ。前の戦に負け、その後の施政を見て苦々しいが私は認めた。
だが、その感情に左右される者が多過ぎる」
ぐぅ、俺の皮鎧、ファスナーにギロチンされやがった。くそ、この鎧は防具じゃないのか? なんで痛覚あるんだ。
「たわけ共を御するこができず、これからおこる事の重大さに耐えきれず、このような場所で汚物にまみれる。似合いの姿かと思わんか?」
え? 俺に喋ってたの。すまん、聞いてない。
ゲロが似合うかって?
う〜ん、こいつって俺から見てもイケメンだから鼻の一つや二つ削ってやりたいところだな。その、イケメンは嘔吐してる姿も絵になるかってことだよね。
くやしいのぉ、俺が女性の前で嘔吐すればゲロごと汚物扱いだろうが、こいつだったら心配されて、汚れも気にされず介抱されるんだろう。
結論、イケメンにゲロはアクセサリー。
「ええ、よくお似合いですよ」
仕方なかった、下半身のダメージが重すぎて足にきていたんだ。いや、醜い言い訳はよそう。
久し振りに、良い一撃貰ったぜ。
つまりだ。ゲロ太は自分の事を卑下していたが、それを否定した言葉が欲しかったんだ。
「女子か、お前は!!」
「・・・・・・面目ない」
と言うわけで愚痴を聞くことに。
よ〜喋るはゲロ太君、よっぽど溜まってたんだよね。
責任感強すぎなんだよね、このタイプ。こりゃ、こいつの妹が家督を継いで正解、絶対重圧で潰れる。
今も反すう思考で思考力低下してるのに、なんとかしようって焦燥感が強くて空回りしてる。
「お前さんが一生懸命なことはわかった」
「そうだ、私は研鑽を続けてきた。続けてきたんだ。
それに家督を継ぐことを望むのは、野心ではない。我が領のため、外敵から守るため、身を粉にするんだ。そうしなければ、このユーリリオンも蹂躙されるだろう。
だが、あいつは我が妹ながら、要領良くこなす。この差はなんだ」
ああ、ダメなんだよ。
「あのよ、お前さんは問題解決のためには、真面目に一生懸命やるのが良い方法と思っているのか、それとも上手いことなるべく労力を使わない方法が良いと思ってんのか」
カウンセリングにおいて、相手を批判するのは悪手なのは承知している。
だけど、口を挟まずにはいられなかった。クソ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「とりあえずだ、まずはストレス解消が必要だな」
「何をしろと、遊戯のみならず美食や色も心から楽しめたことなど無いぞ」
あらゲロ太君、それって自慢? もう一回ゲロ吐かされたいのかしら。
全く、真面目人間はわかっていない。
そういうのは、普通の人間のストレス解消法なんだよ。
(視点変更)
「戻られましたか。どうです、あの数、例え少々質が悪くとも、アスセーナ姫を飲み込むことは容易いことかと」
臣下は何やら話し続け、自身の功績を誇っている。
(狩らぬ狸の皮算用、功績も何も勝敗後の話だろうに)
ジーリョは白けていた。
それよりも先程の黒い男のことが忘れられなかった。
本当に黒かったと彼は思う。外見はもちろん黒かったが、彼の吐いた言葉が何よりも黒く感じた。
『やつあたりしましょか』
-なぁに、あんたなら壊せるモン、仰山もっとるんやろ-
あの言葉の続きが聞こえたような気がして、ジーリョは寒気を覚えた。
うーん、なかなか文章が難しい。かなり拙いです。