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やつあたり  作者: smallstream
第2話 青い髪の少女
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片鱗

 迷子の迷子の駄犬ちゃん、あなたのお家はどこですか?


「言った! 言った! さっきから言ってるだろう!!

 サイプレス! 隣のサイプレス領だ!!」


 お家を聞いても、答えない。


「頼むきいて、グギッ」


 所属を聞いても、答えない。


「言った。さっき言った。もう一度言うから待っ、

 ギャア、ギャア、ギャギャア!!

 ギャア、ギャア、ギャギャア!!」


 泣いてばかりの駄犬ちゃん。


 犬のお巡りさん、困ってしまって。


 ダン! ダン! ダダン!!(釘を打つ)

 ダン! ダン! ダダン!!(もう一度元気に)


 むう、困った。もう釘を打てる指関節がなくなってしまった。

 こらこら、大の大人がメソメソするんじゃない。漢がそう簡単に涙を見せちゃいけないぞ。


「あんの、それ位で勘弁されては。

 幸い、ここらで死んじまったモンはいねえですし」

 おお、不眠症A。なんと、心の広い。

 おい、お前らこんな人達の村でノーリード散歩したんだぞ、わかってるのか?


「お願いします。助けて、もうしません。もうしません」


 俺が、犬の飼い主を連れて、集落に戻ったのが先程。

 集落にも、10匹程度のガルムスドッグが村人を監視するようにしていたので、面倒だが駆除するはめになり、結局朝になっちまった。俺ってばちょっとご機嫌ナナメ。


「あの、あなた方は早く避難した方が良いかと。

 もうすぐ、ここにサイプレスの様子見の兵隊達が来るみたいなんですよ」

 小動物が不眠症Aに、目の前の駄犬のお友達から聞きとった情報を伝えると、不眠症Aは慌てて集落の皆に避難を呼びかけに行った。おーい、転ぶなよ。


「そうそう、今まで聞いたことって、さっき聞いたことばっかりだったな。

 単なるやつあたりだと思って笑って許して、ゴメン」

 オラ、笑えよ。駄犬。


 さて、ここからが本番かな。

 ジャーン、隣のお友達を見てみよう。

 人間って、木片に指を打ち付けて吊るしても、体重を支えられるんだ。

 人体の神秘だね。


「今から本当に知りたいこと聞くから、お友達みたいに吊るされて、色々されたいMの方なら喋らなくて良いよ」

 犬の飼い主がブルンブルン首を横に振る。



「あの駄犬どもの、本当の飼い主。知ってること洗いざらい吐け」





(視点変更)


 間諜からの報告を受け、軍議中の家臣団はざわめいている。


「ゴブリン、オーク、オーガ、トロル、流石に巨人種はいないようだな。

 はてさて、サイプレス卿め。領民を使って亜人種どもを養殖したか?」

 一般的に亜人種を飼い慣らすことは不可能と言うより、禁忌である。

 一般的に亜人種は、繁殖に獣人を含む人近縁種の雌を母体とするので忌み嫌われている。なお悪いことに、亜人種は年中発情しており、去勢をしても生殖欲の抑制がほとんどできないため、その行動を制御できた例が今までに存在しなかった。


「妙ですな。亜人種の混成群とは。

 集団を作るゴブリンやオークは兎も角、単独で行動するオーガやトロルが集まっているとは」

「そうだな。しかも、集まったゴブリンがそれらに喰われてないようだ」

 セコイアの疑問は、アスセーナも感じた違和感と同じ。

 つまり、あるはずのないことが、現実に起こっているということである。


 アスセーナの口角が吊り上がる。

 不可思議な状況には原因があり、逆に原因を除けば状況が沈静するとアスセーナが考えたからである。


「本陣だな。そこにサイプレス卿がいれば」

「どうするお積りで。まさか本当に敵軍に突撃なさると」

 口元をへの字に結んだ家臣の内の1人が、アスセーナの浮かべた気色を見て、その真意を尋ねた。


「ならば、真っ向から突っ込む必要がなかろうかと、自分は思います。

 幸いにも、恐らく敵が野営に使うであろう村の情報を得ました」

「夜襲か? いや、野営中は如何に油断するとしても、数の差が違いすぎるか」

 家臣の言葉に、まずアスセーナは夜襲を考えたが、彼女はいまいちピンとこないのか、眉を八の字に寄せている。


「自分は、まだ万を超える大軍を見たことがございません。

 ですが、1,000の行軍の頭と尾の全てが動きはじめるまでに25ミンツ(30分)以上かかるとしますと」

「ふむ、先陣が本陣の救援に向かおうとしても、かなりの時間を要するか」

「某はそのように長い列の統率を、どのようにとっているかが気になりますな。

 しかも、亜人種を使っておりますからな。

 上手く撹乱できれば、我が方が相手取るのは敵本陣近辺の敵のみにできそうです」

「さらに自分の考えでは。敵は、こちらが敵軍の集結に気付いていないと考えている可能性もあります。

 攻め込む前に我々の勢力圏内に拠点を確保しようとしています。

 我々が気付く前に兵数差で砦を落とし、すぐにその拠点に入るつもりなのでしょう」

 アスセーナは窓から差し込んできた朝日の眩しさに、目を細める。

 気持ちの良い陽光を受け、この危機的状況の中でかなりリラックスしている自分に、アスセーナは戸惑いを覚え、そして彼女は目の前の地図に手を置き、彼女の家臣団を見渡した。


「領境の集落から10キルツ(10km)離れた窪地に集結。ただし、陣を敷くことは無用。

 間諜は本陣にサイプレスの戦馬鹿がいるかを確認し、50ミンツ(1時間)ごとに、先陣と本陣の位置をこちらに伝達せよ。

 村人は後方に退去させろ。ああそうだ、村人の中で領境の山林に詳しい者を数名徴発してくれ」





「斥候隊の先見兵が行方不明だと?」

 サイプレス卿に睨まれ、伝令兵が縮こまる。


「アスセーナの小娘めにこちらの動きが察知されたというか?

 貴様ら、それを確かめるための斥候だろうが!!

 もっと具体的な敵軍の動きがなかったというのか!!」

「多分、ユーリリオンの奴らじゃないな」

 激昂するサイプレス卿に敬意を見せず意見を言う男を見て、今まで叱責されていた伝令兵は、その男の首が飛ぶところ想像した。

 しかし、その想像に反し、彼の主の激昂が治り、信じられないことにその男の話に耳を傾けている。


「先行させてた犬が何匹か戻ってきた。

 どうやら、村人か、それとも通りすがりのような会話をしていた」

 細い体格の奇妙な男だった。伝令兵は、初めて髪が橙色の人間を見た。

 その男は、ほとんど平らな所が無いような肩を竦め、着ていたローブを揺らす。


「その口ぶりだと、あの犬畜生と話せるみたいだな」

「会話よりももっと直接的に思考をリンクできるんだ。

 最も、リアルタイムとはいかないけどね」

「ということだ、斥候隊は予定通り村の連中を確保して、ウラを取れ。

 アスセーナの小娘にタレ込まれても、面白くねえ」

 主からの命令を受け、斥候隊に向かおうとした伝令兵を橙の男が呼び止める。



「村人に混じって青い髪の女の子がいるはずなんだ。

 好きにしても良いけど、次の伝令でついでに持って来てくれない?

 別に死体でも良いから」





(視点変更)


「ねえ、あなた達。その手、痛むの?」


 私が集落の人達と一緒に避難したのは、この村の隠れ畑だった。

 そして、尋問が終わった男達は、あの黒い男によって厳重に拘束されて、農器具が保管されている小屋に閉じ込められている。


 涙を流しながら、なんども首を縦に振る男達。


「質問に答えたら、痛み止めがわりの葉っぱをあげます」

 男達に顔を寄せて、囁く。



「あなた達が犬を使って探してたのは、私、ですか?」

 男達が凍りつく、返事は無い。だが、私にはダンマリは通じない。


「そう、敬虔な信徒なんですね。あなた達も犬を使ってた人も」

 私の言葉に、大の大人の男の人が怯えて、後退りする。

 もはや、指の痛みも忘れているかの怯えっぷりに、同情心が首をもたげる。

 男達は黒い男に嘘は言っていない。

 彼らは、尋問で答えたサイプレスの斥候で先行の任務を任されていた兵隊、それにある程度教会の内部と通じている末端、というのが付け加えられる。


「ふうん、本当はその橙色の髪の人が私を捜索するはずだった。

 でも、上から優先順位の高い仕事を受けて、代わりにあなた達と犬を使ったんですか」

 多分、ユーリリオンの混乱が沈静したから、修正しようとしてサイプレス領に戦力を提供したってことね、自分の考察に自信ないけど。


「そして、犬を操っていた人が・・・、え? 1万を超える亜人種を兵としてる」

 サイプレス本陣にいるって、もしかして領民ごと私を一掃するつもり?

 この人達の本当の目的は・・・・・・、私を占拠した集落に閉じ込めて、そのまま略奪に巻き込まれて死んでもらう、って。



 ああ、私のやっぱりせいで、村のみんなが、そんな。


 私はへたり込み、涙を流した。

 しばらくしたら、小屋の外から金属がぶつかる音が響いてきたので、私はノロノロとその音がする方向に向かう。





(視点変更)


 中天の前。

 間諜の長は、敵斥候隊が村に着く前に村人を退去させようと村に入った。

 しかし、すでに村は無人で、所々に避難した跡が見受けられる。


「長」

「ああ、この村の人間が隠れるとすると、恐らくは隠し畑のある場所だ」

 飢饉の時の命綱になる隠し畑だが、もちろん脱税なので処罰対象になる。

 しかし、租税の微増よりも農民が死んで減少した方が損になると、ユーリリオンでは昔から黙認されていた。

 そして、そこには隠し食料も備えてあるので、緊急時の避難場所としても機能する。

 間諜の長は、そこに見当を付け、部下を率いて向かった。

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