8 epilogue
その後、混乱は収まったが、犯人らしき人物の特定は出来なかった。
十中八九、混乱に乗じて逃げたのだろう。
「……ぅっく……うぇ……っく……」
「ほら、もういい加減泣き止めって」
「…………姫様……まだどこか痛いのでしょうか?」
あれから鈴音は、泣いた。
安心したのかどうなのか、この年にそぐわない子供のような大泣きを披露した。
真砂と俺でなだめなければならないはずなのに、真砂はこういう事態に弱いのか、鈴音が泣いているからなのか、
おろおろと錯乱しはじめて、俺が、鈴音と真砂の2人の面倒を見るはめになった。
事件よりもむしろ、2人をなだめるのに苦労したように感じる。
「じゃあ、俺は万世署に行ってくる。だが……なんて事情を説明したもんか……」
「お2人で大丈夫ですか……?」
「ま、なんとかなるだろう。信じてもらえなかろうが、こっちは被害者だ」
「んぅ…………っく……ん、大丈夫。なんとかなると思います」
「姫様! もう大丈夫ですか?」
「ん、もう大丈夫。2人とも迷惑かけてごめんね」
泣き止んだ鈴音が会話に加わる。
「それより、葦人君」
「なんだ?」
「今日は、ありがとうございました」
「……ああ、まぁ、俺の力だけで解決したわけじゃないしな」
鈴音に感謝されることに慣れておらず、なんだか気恥ずかしい。
「ましゃごんもありがとね」
「いえ、私のほうこそ守るべきときに傍にいられず申し訳ありませんでした」
「ううん、そんなことない。2人ともありがとう」
いつもの鈴音らしくもなく妙にしおらしく感謝をしてくる。
友人からの真摯な感謝。
それに対してとるべき態度は。
「では。なんか今度奢ってくれ」
いつも通りな対応が妥当だろう。
「………………」
鈴音はきょとんとした表情でコチラを見ているかと思ったら
「おまかせてっ。なんでもいいのですよっ。なにがいいです!? 宝石とか貴金属類!? 別荘とかマンションとかです!?」
妙に息巻いて尋ねて来た。
「そこまで高いものは望んでないというかぽんと渡せるお前が怖い」
「だって命を救われたのですよ!?」
「いや、元をたどれば俺の事件に鈴音が巻き込まれただけなのかもしれないし……」
「それでも私は感謝してるのです!」
「じゃあ、今度夕飯を頼む」
「そんなことでいいのです?」
「そんなこととは何だ。ご飯は大切だぞ……あ、高級料理店とかじゃないところで頼む」
「えー、どうせならすっごいところ連れて行こうと思ったのに……」
「ドレスコードあるような店は正直俺が困る」
学生服でいくことになるぞ。
「そういうわけで、真砂。事情説明に行ってくる」
「あ、葦人君っ。私も行きますっ」
「承知しました。お気をつけてくださいませ」
「ああ」
鈴音と2人で連れ立って万世橋の方角へ歩き出す。
「……………………」
「どうした? 身体のどこか違和感でもあるか?」
歩き出してから妙な沈黙を保っていた鈴音を不審に思い、尋ねる。
「ううん。身体は大丈夫。ただ、なんていうか」
少し先に駆けてくるりと鈴音は振り向き、
「2人がいればホントに危険なんてなかったね」
ってそう思ってただけなのです。と、なんでもなかったことのように笑う。
その笑顔はいつも通りで、どこか安心しきった表情のようだった。
第1話:END




