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AKIBAALIVE -overture-  作者: 一々葉(PSYCHOFRAME)
第1話 『運命交換』
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4 回遊巡回

「さすがは桜井様です。初回プレイであそこまで上達されるとは。私も驚きました」


 自分で言うのもアレだが、そこそこゲームは得意なほうだ。


 操作は単純だが、奥が深いゲームだった。

 製作者の計算され尽くしたステージ作りに感嘆を禁じえない。


「それを言ったら、俺は真砂の熟練者っぷりに驚いた」


 クリアとまでは行かないにしても、意外にも真砂はそこそこ上手かった。

真砂はあまりゲームは得意でなかったはずだが。


「私、レトロゲーと呼ばれるボタンが少ないゲームはわりと得意です。最近のゲームはボタンが多すぎでございます……」


 俺と真砂は一通りゲームを堪能したあと、別のゲームをやりに行った鈴音を探していた。


「っと。あれじゃないか?」


「あのえげつないコンボはおそらくは姫様です」


 格ゲーコーナーの一角でギャラリーを背負いつつ、30人抜きを達成しているプレイヤーがいた。


 プレイヤーは人垣で見えないが、ライブで流されている大きめのスクリーンでハメ技ともコンボともつかない技を連発しているキャラクターがいる。鈴音の持ちキャラの1人だ。


「あはっ。そんなことでこの私を倒せると思っているのですかぁ? ほらほらそんなのではだめだめなのです」


 相手に隙を与えず、お互いの硬直差でフレーム有利が取れる攻撃ばかりを選んでいるな。


「そんなにガードを固めてると投げちゃうのですよ?」


 えぐいっていうかまぁ戦術の組み立てとしては正しいのだが煽り台詞がすべてを台無しにしている。


「私はノーガードなのにぃ~。女の子の方から無防備に誘ってるんですから、男の子が応えなくてどうするのですぅ?」


 無防備(攻撃中)という矛盾……!


「このままじゃ、掲示板にヘタレヘタレ書かれちゃうのですよ~?」


 周りにお構いなしにゲーム中でも現実でも挑発をしまくる鈴音。

 勝負事のゲームをやっているときのあの子は性格が腐っている。


「ブヒィーッ! こ、こんな屈辱を3次元女に味合わされるとは……。もう我慢ならんのじゃ!」


 痺れを切らしたのか相手プレイヤーは鈴音のキャラクターに攻撃を仕掛けようとする。

 しかも一発を狙ってか大技に持ち込む構えだ。

 あぁ……まずいぞ、それは。


「あはっ! そんなので、私の鈴を鳴らそうとか思っちゃってるのですか? 私はそんなに安くは…………ないのですっ!」


 待っていたかのように鈴音のキャラクターがカウンターを決め、そのまま空中コンボに持っていき、トドメとばかりに超必でシメる。


 勝負あり、だ。


「男を焦らすのも女の嗜みというものなのです」


 勝ち誇ったかのようにのたまう。


「ブヒイイイイィッ! 負けてしもうた…………」

「まぁ、お前は良くやった方だ。あの『クイーンズベル』相手にライフの3分の1も減らせりゃ上出来だ」

「ふっ……、相変わらず美しいコンボ……。この秋葉原広しと言えどあそこまでの使い手は中々いません」

「そうじゃの。ここまで相手になったのはワシくらいじゃしの」


 相手プレイヤーが意気消沈している中、周りのやつらが慰めている。

 クイーンズベルとかいうのは鈴音のプレイヤーネーム兼通り名……らしい。

 なんという…………いや、いいや。


「ふぅ……。これだから負け犬根性が染み付いてる男はダメなのです」


 立ち上がり、芝居がかったしぐさで肩をすくめ頭を振って嘆息する鈴音。

わざわざ相手の筐体に近づいてくる。


「ブヒっ!?」


「この駄犬が! 負けること前提にゲームをやるなんてゴミ虫以下なのですっ! プライドはないのですかぁ?」


「な……なんじゃと……!」


「あっ、そっかぁ! ゴミ虫以下の生物にそんな高尚なものあるわけないのでしたぁ。さっき駄犬なんて言っちゃいましたけど、それじゃ駄犬の皆さんに失礼なのです」


 おいおい、まじか。

 鈴音の行動に衝撃を受けるんだけど。


「この…………おデブ! そもそも私を相手にしたければ、まずはその体型をなおしてから来るのです。それじゃ相手にする気も起きないのです」


 もはやゲームと関係ない暴言だ。


「ブ、ブヒヒイイイィィィ!! ブヒッ! ブヒ、ブヒブヒブヒ!」


 相手は、もう人語を喋れてない。


「もうどこにも、私の鈴を高鳴らせてくれるプレイヤーはいないのです……」


 鈴音は自分の強さに陶酔しきっている。

 この子あかんわ。


「お前なぁ、いい加減にしろ。体型なおせってゲームと関係ないじゃないか」


「あっ、葦人君とましゃごん!」


「姫様は淑女としての落ち着きを多少はお持ちになられたほうがよろしいかと」


「もしかして……さっきの見てたの?」


 鈴音は俺を見上げて問いかける。


「しっかりと見ました」


「あちゃー……」


 やってもうたー、みたいな顔をしている。


「そんな顔してもダメなもんはダメだ。相手に謝れ」


「むくぅ。葦人君が言うなら……」


「俺が言わなくても」


「ふぁぁい」


 相手を見るとやっぱりまだ怒っている。


「ブヒッ!! ブヒブブヒ!!」


 こちらの方はもう、人語を忘れてしまったのかもしれない。


「調子にのってどうもすみませんでした」


「いや、ほんと、すいません。この子、勝負事になると性格が腐りきってしまうもので」


「この度は姫様が大変失礼なことをしてしまい、申し訳ございません」


 三者三様に頭を下げる。


「ブヒッ! ブヒブヒ!」

「いや、こっちも世界のトップレベルを相手にできたのはいい経験だった。調子に乗るだけの実力はあるぜ、その嬢ちゃんは」

「私は美しいものが見られたことで満足です……。美しい戦いは勝利よりも価値がある」


「いや、でもそっちの人?は頭が無残なことになってしまって……」

「桜井様も大概ひどいこと言ってます」


「ブブブブブブヒヒヒヒヒヒ!」

「大丈夫だ。いつものことだ。ほっときゃ治る」

「美しきものは美しさを磨くことだけを考えればよいのです」


 後ろの2人が肯定的な反応を返してくれ、安心する。

 残りの1人はもう何を言っているのか俺にはわからない。


「コイツもなんだかんだで満足してるし、あまり気にしなくていい」

「ふっ。 美しくないものはただ消え去るのみ……」


 翻訳してくれたのか、どうなのか、

 そう言うと2人はブヒブヒいっているのを連れて行った。


「妙にキャラの濃い3人だったな……」


「あれ? 葦人君は知らないの? あの3人は結構有名だよ?」


「そうなのか?」


「ええ。この街では少し名の知れた3人です」


 太ってブヒブヒ言ってるやつと病的な感じに細いやつと金の長髪で白いタキシードのようなものを着ているやつはたいてい3人で一緒にいるらしい。

 まったく違った個性の3人だが、オタク関係のイベントやら何やらでよく見かけるという。

 あの3人が固まってたら確かに目立つか。


 迷惑な厄介さんとして有名なのかとも思ったが、イベントなどでは意外と礼儀正しかったりするらしい。


「へー、あの3人が……」


 人は見かけによらないもんだ。


 ちなみに、この後は鈴音に挑んでくるような根性のあるプレイヤーはおらず、そのまま鈴音がラスボスを倒してゲームクリアとなった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




『――秋葉原区内において事件事故などが頻発しており、最近では爆弾を使った事件なども――』


 街頭ディスプレイでアナウンサーが事件のニュースを流している。


 昔の秋葉原は治安が悪かったらしい。

 らしいと言っているが、実は俺も昔秋葉原に住んでいた。

 ただ小さかったころであるためか昔の秋葉原の治安については印象に残っていない。


 今ではそれも落ち着いて治安もよくなったという話だったが、最近では爆弾事件もあるようで、まだまだ治安がいいとは言えないのかもしれない。


「にゅーすが気になるのです?」


「いや……そういうわけではないけど。ここも事件とか事故とか多いんだな」


「そですねー、最近は多くなったかもしれませんね。でも、ふつーに生活してたら大丈夫ですよー」


 別に心配していたわけではなかったのだが、安心させるようにこんなことを言われてしまった。

無駄に心配させてしまったかな。気をつけよう。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その後、俺たちは業界最大手と呼ばれる同人委託を主な業務内容としている某同人ショップやその他諸々へと足を運んだ。


 いわゆる1つの巡回コースというヤツだ。

 これは彼女らの巡回コースであり、秋葉原に来て間もない俺はまだ自分の巡回コースは決まってない。


 この巡回コースが出来上がれば、オタクとして1つランクがあがるとかあがらないとか。

 どうでもいいことか。


「さぁ! みんなでお宝を探しましょう!」


「では、私はこちらへ……」


 色鮮やかに店内はポップや書籍等々が配置されている。

 そんな中真砂は躊躇いなくやや色彩の偏った方向へ向かう。


 肌色成分多目なそこはまぁいわゆる成人向けコーナーだった。

 年齢的には確かに問題はない……問題はないのだが。


(仮にも女連れで、ためらいなく行くところではないな…………)


 されど、その後姿は漢らしくもあった。


「私たちじゃ、年齢制限に引っかかるかもしれないです。あそこはましゃごんにしか漁れない領域なので仕方ないのです」


 ていうか鈴音の命令か。

 真砂も大変だな。


「しかし……、この前もお前ら行ってなかった? そんなしょっちゅうラインナップが替わるとは思えないんだが……」


「甘いです、葦人君。そんなことでは本当に良いものは手に入らないのですよ?」


「確かに、事前の情報収集も大切なのですけど……。それでもやはり見逃しや、予期せぬ委託など可能性が少しでもあれば巡回するに越したことはありません」


「イベントも巡回も足が肝って?」


「その通りなのです。やはり自分の足で苦労して探し当てたものの方が、喜びも倍増するのです」


「予定通りに予定通りのものを買うのは最低目標。それ以上の何かに出会えるかもしれないからみんな巡回するし、イベントで歩き回るのです。葦人君もこれくらいやったほうが良いのですよ?」


「とはいってもな……、同人誌とかはお気に入りのサークル以外はさして興味ないしな……」


「これだからライトオタは中途半端で困ります」


 はー、ヤレヤレとばかりに肩をすくめる鈴音。


「いや、お前……俺の経済状況を考えてそんなに買えないことわかってくれ」


「えー、それでも見てまわるだけでも楽しいのですよ?」


「ウィンドウショッピングはあんまり好きじゃない」


 好きじゃないというか……。


 男の子としてはやはりモノを見てしまうと手に入れなくては我慢できなくなり、生活が困窮することが何度もあったため根本的な解決法として見なければいいよという選択肢を選んでいる。


「ふーむ……そうですねー。じゃあ葦人君はガシャガシャポン係で。お店の前でシークレット引けるように祈って回してるといいのです」


「何その微妙な係。俺は素直に立ち読みしたり、ラノベでも漁ったりするよ」


「それじゃいつもどおりでつまんないですよー。なけなしのお金を握ってガシャガシャポンやってダブリまくる葦人君が見たいのにー」


「お前は俺を破産させるつもりか」


 金がないときにダブったときの絶望感はきつい。


「それくらいで破産なんて大げさなのです」


「………………」


「あれ…………? マジです?」


「……………………」


 視線を逸らす。


「うわぁ…………」


 気の毒な方を見るような目で見てくる。


「そんな目で俺をみないでもらいたい」


 落ち込む。


「お金貸しましょうか?」


「それはお断りします」


 お金の貸し借りは信頼関係を損なう可能性があります。

 気をつけましょう。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 とりあえず一通りラノベを漁って新刊も出てないことを確認した。


 当たり前だが、ラノベとか一般流通に乗っているものは予期せぬ入荷などはあまりない。

 話題になった作品が品切れを起こし、再入荷の時期が変わるということはあるにはあるが。


 オタク趣味には造詣の深くない俺だが、ゲームは昔結構嗜んだし、ラノベや漫画は今でもそこそこ読む。


 小説のハードカバー……いわゆる厚モノは結構お高いものも多いが、基本的にラノベは文庫本として出るため値段も六百円から七百円ぐらいと手頃であり、費用対効果を考えた結果としてラノベを漁ることが多くなっていた。


 書き手にもよるが俺の場合、ラノベ1冊辺り4時間くらいで読了する。

 4時間に対して600円…………単位時間あたり150円の支出と考えればお買い得な気がするのは俺が貧乏性なだけだろうか。


 文庫本でいいなら一般小説でももちろんあるし、昔の文豪が残したものを読んでもいいのだが、そこは読みやすさというか……まぁ、俺もオタク趣味なんで。


 その後、雑誌の立ち読みを済ませ、店の前で鈴音たちを待つことにした。


「やっ、おまたなのです」


「ああ、って真砂は?」


「レジ前で大量に買ってたお客さんがいたので、足止めを食ってるのです」


 これだから、金持ちは……。


「そんな……あからさまに『これだから金持ちはよぉ』って顔しなくても……」


「そんなにわかりやすかったか?」


「葦人君はかなりわかりやすいのですよ? 表層的な部分では。まぁ、本心は全然読ませてくれないのですけど」


「本心はそうそう簡単に読まれたくないな」


「さっきも、ホントに落ち込んでるのかどうか判断に困ったのです」


「とかいって気にしてないだろう、お前」


「もちろんなのです。むしろ、だからこそ、好きなだけ欲しいものを買ってきました」


 鈴音は見せつけるように紙袋いっぱいの同人誌やグッズを掲げた。

 ホント、こいつは……好き勝手生きているな。

 でも、そのことに一生懸命なのもまた確かだ。


「鈴音も好きだよな、同人とかオタク関係」


「葦人君も嫌いじゃないでしょ?」


「それはそうだ。ただ、鈴音のハマり方見てると、俺はそんなにハマれるのかなぁと思ってな」


「んー? 私は気がついたらこんなだったのです。だから、ハマろうと思ってハマったわけでもないのです」


「葦人君も気がついたらハマってるかもしれないのですよ?」


「あー……それは、適度に抑えてほしいところだが……」


 金がいくらあっても足りない。


「あは。今でもかなり切り詰めてますもんね?」


「これ以上は死ぬ」


「そのときは、私が飼ってあげるので安心してくださいな」


「死んでもゴメンだ」


「えー、大切にするのにー」


「金はなくとも誇りはある。同年代の女子に養われるってどんだけダメ男だ、俺」


「それでこそ葦人君なのです」


 何が可笑しいのか、鈴音は妙に上機嫌で俺を飼うときの細かな設定を聞かせてくれた。

 詳細を聞いて、俺は後悔したんだが。



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