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AKIBAALIVE -overture-  作者: 一々葉(PSYCHOFRAME)
第3話 『Humanoid Information Processing (人型情報処理端末)』
27/27

1 prologue


【view:桜井葦人】




 春。

 春は出会いと別れの季節という。

 春は厳しい冬を耐え切った先にある希望に満ち溢れた季節だという。


 その言葉を裏付けるように、桜並木の通りを制服を着た学生たちが希望よ溢れろとばかりに明るい表情で歩いている。


 新学期と入学式の季節がやってきていた。

 歩いている学生の多くは今日から高等部に通うことになる1年生なのだろう。

 その姿は制服に着られている感があり、1年生に相応しく初々しいものだった。


 ちなみに俺は今日から高等部の2年生だ。

 中途半端な時期に転入してきたからか、自分自身にとっての感慨深さとか思い出を振り返るとかそういった感傷は沸いてはいない。


 しかし、1年生の希望に満ち溢れた明るさと桜並木の風景を見ていると、情緒が揺さぶられるのもまた事実で。

 微妙にセンチメンタルな気分で桜並木を眺めながら登校しているのだが。


「は、腹減った」


 綺麗な風景では腹は膨れない。

 ここ最近まともなものを食べていない。

 このままでは近いうちに倒れてしまいそうだ。


 身体が不調を訴えてくることを無視していると自販機に眼が留まった。

 150円を取り出す。


(どうする……? 確かにこのままではやばいのは事実)


 しかし……150円は大金だぞ……!

 などと考えている間にも、くらりと眩暈がした。

 本当にこのままだと倒れかねない。


 危機感を覚えた俺は150円を投入しコーヒーを買うことにした。


 ボタンを押す。


「…………」


 だが、自販機からの反応はない。


 ボタンを押す力が弱かったか、と思い、今度は何度か強く押してみる。

 だが、自販機からの反応はない。


 自販機の電子光はさっきから点灯しているが、ボタンを押しても反応してくれない。


「冗談きついな、自販機よ」


 現在の所持金のほとんど(全財産)を使った決断だったというのに!

 購入ボタンを押しまくるも、反応はない。


「そっちがそう言う態度をとるなら、コチラもそれ相応の報復準備はあるのだが? なんとかいったらどうだ、自販機!」


 パニック状態で自販機に語りかけながら、バシバシと自販機の返却ボタンを押しまくる男1人。

 当然のように金は帰ってこない。


「自販機よ。人の金を取るってのは泥棒ということを知らないのか?」


「世の中には等価交換っていう言葉があるのだがな、貨幣経済も基本的には貨幣という共通の価値を与えられたモノを基準に成り立っているんだ」


 いや本当の意味の等価交換では経済は成り立たないが、設定された金額に適切な価値のものを提供するという意味では等価交換だ。

 ちなみに貨幣経済の間隙を縫って利潤を得るのがマネーゲームと言われたりするビジネスシーンだが、そんなことよりも俺と自販機の間で交わしたビジネスが成り立っていないことが問題だった。


「その基準ルールを守ってもらわなければこちらとしても困る。俺は何か間違ったこといっているだろうか? なのにお前は俺がお前を信用して出した金を内に溜め込んだまま、商売をするでもなく金を返すでもなくただだんまりを決め込んでる…。

人の金を勝手に取ってハイそれまでよというのは筋が通らないだろう?」


 そろそろ真面目に焦りだした俺はとにかく何か出て来いとばかりに様々なボタンを押しまくっている。

 が、当然の如く反応はない。


「そうか……、俺はお前といい取引ができると思ってたんだが、それは俺の勘違いだったってことだな。では仕方がない。こちらとしても最終手段をとらせてもらう」


 憎き自販機を前に構えを取る。

 祖母よ……アレを使うときが来たようだ……。


「ばーちゃんから教えてもらった万能機械治療術奥義!! 斜め45度からの打ち下ろしの右手刀……!!」


「対応します。退いてください」


 自販機に祖母直伝究極奥義を叩き込もうとしたとき、女性が制止するように間に割り込んできた。


「……ん?」


「少々お待ちください」


「……?」


 女性は俺の不審な視線など意に介さず、自販機に手を触れた。

 俺は掲げた右手をそのままに、女性が何をするのか凝視している。


 女性が自販機に聞かせるように、何事か聞き取れないような言語を発する。

 言語というが、どちらかというと音に近く、より近いものに例えるなら機械による高速音声だろうか。


 女性が言い終わると同時に。



 ガコンッ。



 自販機の排出口から俺が望んでいた缶コーヒーが出てきた。


「おお!! すごい!!」


 たかが150円、されど150円。

 俺はかつてないほど安堵した。


「ありがとうございます!! 助かりましたああああああああああ!!」


「いえ、構いませんよ。これは私の使命事項の1つですので」


「……? まぁ、とにかくありがとう」


「いえ、では失礼します」


 極丁寧に頭を下げ、その女性は何事も無かったかのように学生の波に紛れていく。


 捨てる神あれば拾う神あり、と言うが、なんにせよ金を無駄にせずにすんでよかった。

 先ほどの女性に感謝しながら、缶コーヒーのプルタブを開ける。


「……苦っ!!」


 コーヒー豆からの抽出が濃すぎてとんでもなく苦いコーヒーだった。

 これがなけなしの150円の味……。

 苦いな。






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