12 友好と敵対と
「ほうれ! どうしたのじゃ!?」
「く……」
相手の棍棒を具現化したインペリアルシールドで防ぐ。
が、防いでも少しとはいえ体力が削られる。
やはり低レベルの混じった2人とある程度ゲームをこなしているであろう3人とでは戦力に差がでるのは当たり前だった。
そもそも数の差というものは絶対的な戦力差だ。
3人の攻撃によって俺たちの体力を削っていく。
スワロウからもらったカードによってステータスが多少上がったとはいえやはりレベル1では厳しい。
戦闘始まって間もないがすでにきつい。
「ぶっひっひ。こいつらならばワシらでも余裕じゃ!」
「ぐっぅ!!」
相手プレイヤーの攻撃を何とか防御する。
「俺はレベル1なので手加減してもらいたい!!」
「そっちから襲ってきて何言ってんだ」
「そこを何とか!!」
「ぶひっひ!! そんなこと言ってもダメじゃ!!」
「自身の美しさを磨かなかったこと……後悔しなさい」
3人は低レベルである俺を先に片付けることにしたようで、集中的に俺を狙ってくる。
相手の攻撃をただひたすら避けることと防御することでなんとか凌ぐが……。
幸いといえるのは相手もそこまで高レベルではないらしく、まだ俺でも耐えられている。
「これでも喰らいなさい!! 『杖に導かれし波濤』!!
「ぶひいいいいいいいいいい!! 痛っ、痛いのじゃ!!」
スワロウは俺が3人を相手にしている間に詠唱を済ませ、杖カードによるアルカナで相手の1人を狙い撃つ。
「相手は『杖』使いか。一旦下がるぜ」
それにより相手はスワロウが後衛デッキであることに気がつき、効果範囲外まで一時的に距離を置くことにしたようだ。
「サクライ!! こっちに!!」
俺もスワロウの指示でスワロウのラインまで下がる。
「『賢者に寄り添う白き杖』」
スワロウは『杖』アルカナを使い、俺のHPを回復してくれる。
「おお……! 300も回復した……!」
「感謝してもいいわよっ」
「サンキュ、かなり助かる」
「でも……。このままじゃ厳しいわね」
「俺がもう少しレベル高ければよかったんだが……」
「そこは気にしたらダメよ、誰だって低レベルからはじめてるんだから。サクライは頑張ってくれてるわ。そもそもそのレベルでそこまでやれてることが驚きよ。そういう意味ではウルトラレアの所持者っぽいわ」
それはスワロウの補助あってのことなので俺個人の実力というわけでもない。
「サクライも頑張ってくれてるし、あんなヤツらにやられるのは我慢ならないし、なんとかしたいんだけど……」
スワロウはあの3人に出会ってから不機嫌そうに見える。
亜人狩りの3人ということで気が立っているのかもしれない。
「何か打開策はあるか?」
俺には相手を殲滅できるほどの火力がなく、頼るとしたらスワロウの火力になる。
「一応……ひとつだけあるにはあるけど。でもサクライにかなりの負担を負わせることになるわ」
「打開策があるなら是非もない。どうせこのままだと負けてしまう」
「そっか。アナタが納得するなら、私の切り札を教えておくわ。『聖杯』カードは知ってるわね?」
スワロウはPDAからカードの拡張現実を投影する。
そこには蝶の羽に人の姿をした異形の生物の立体映像が表示されている。
「これは……。使い魔を召喚するのか?」
「ええ、『月光蝶・パピヨンローズ』。私が唯一持ってる『聖杯』カードよ。召喚には時間がかかるからこんな小規模PTで使うのは難しいのだけれど……」
「でもそれをやらないと全滅するってことか。オーケー、俺にできる限り時間を稼ぐよ」
俺とスワロウの役割は変わらず、前衛である俺の耐える時間がより長い時間になるということか。
どれほど時間がかかるかはわからないがスワロウが回復してくれたし、さきほどの3人の攻撃もある程度は耐えれていた。
十分勝算のある作戦だ。
「負担をかけるかもしれないけど、頼むわね」
「最大限頑張らせてもらう」
俺とスワロウの会話を待っていたというわけでもないのだろうが、相手も減ったHPの回復が終わったようでちょうど臨戦態勢をとるところだった。
「自然回復でこれだけ早く回復するのか……本当にオレたち不死に変わっちまったんだな」
「ぶひー…………えらい目にあったわい。もう許さんぞい!」
スワロウのスペルスマッシュを食らった相手は怒り心頭といった様子だ。
こうなってはもう交渉とか無理なんだろうな。
もともと戦闘になった時点で諦めてはいるが。
「さっきので仕留めきれなかったのは失敗だったな。杖カードは詠唱時間があるため前衛が倒れれば機能しない」
「そして私たちには三位一体の美しき技がある。それをお見せしましょう」
つまり前衛をさっさと片付けてしまおうということらしい。
スワロウが杖カード使いであることがわかったためそういう作戦を立てたのだろう。
だが、それは俺たちにとっては好都合だ。
さきほどまでのように散発的にスワロウにも攻撃されては召喚も中断されてしまいかねない。
「よし、ならばそれを受けてたつ。遠慮なく俺を攻撃してみるといい」
「ぶっひっひ。馬鹿な初心者じゃぞい! ワシらのこの技を受けて立っていられた低レベルプレイヤーなぞおらんぞい!」
高レベルプレイヤーはどうだったのだろうかと思ったが、俺は高レベルプレイヤーでもなんでもないので聞いたところで意味はない。
要は低レベルでは耐えられないほどの攻撃がくるということだ。
「マッシュ!! オルテガ!! いくぞい、ジェットストリームアタックじゃ!!」
「おう!!」
「ふっ……」
この動きを何度もやってきたのであろう滑らかな動きで3人は隊列を組む。
前世紀の遺物である電池の直列繋ぎを彷彿とさせる一直線。
それは隊列を乱さずそのまま俺へ向かって突撃してくる。
そこで初めて気がついた。
これでは後ろのヤツの動きが見えない……!
乱れることのない隊列によって後ろのヤツがどこから攻撃してくるかわからない。
(だが…………)
俺に見えるのは最前列のヤツだけだが、それで十分だった。
これは3人による一斉単体攻撃……畳み掛けるような波状攻撃でないなら問題ない。
3人が迫る。
「ぶっひっひ!! 食らうのじゃ!!」
よし、ここだっ……!
「運命交換っ!!」
ザ……ザザ……――――
「ぶひっ!? ぶひいいいいいいいいいいいい!! ワ、ワシを身代わりにしたぁ!?」
運命は交換され、俺の代わりに最前列で突撃してきたヤツが攻撃の集中砲火を受ける。
「ガイア!!」
「なんと……」
「ちょ、何でワシがお主らの攻撃を受けねばならんのじゃ!!」
「どういうことかはオレにもわからないが……、どうやらこいつは特殊なアルカナ能力を持っているようだ」
「しかもこのような理不尽さから言って、それはおそらくスーパーレア以上のもの」
「こりゃあ、一筋縄ってわけにはいかねぇようだぜ」
実際は俺の認識が追いつかないくらい畳み掛けるように攻撃されれば無力なのだが、相手はいい感じに俺を警戒してくれたようで、おいそれと攻撃を加えてこなくなった。
相手の牽制的な攻撃をなんとか耐えていると、
「サクライ!! よく耐えたわ!!」
スワロウの歓声があがる。
どうやら召喚詠唱は終わったようだ。
俺の役割はなんとかこなせたか。
「月の光を浴びて夜を舞う蝶よ!! 毒々しき羽ばたきを以って我らの前に立ちふさがる者に裁きを!! 『月光蝶・パピヨンローズ』!!」
スワロウの喚び声が響いたと同時に、スワロウの前方に幾何学模様のような魔方陣が描かれ、そこからPDAの立体映像で見たカードの使い魔が現れる。
それは禍々しくも美しい羽をもった毒蝶。
「まずいな……!! アイツ『杖』だけじゃなく『聖杯』のアルカナも持ってやがったのか!?」
「これは初心者に構ってる余裕なぞなくなったのじゃ……!!」
「ふふん!! もう後悔したって超遅いわ!! パピヨンローズ、あいつらに『月夜に誘いし鱗粉』よ!!
スワロウの召喚した使い魔が羽ばたき、その羽からこぼれた毒々しい血の色のような鱗粉が3人を覆う。
「ぶひいいいいいいい、やめるのじゃー!!」
それはまるで魔方陣を描くように3人を包み込み……、
「ん……? なんともないぞい?」
何の効果ももたらさなかった。
「何故だ……?」
「なっ、なんで!?」
スワロウはその予想外すぎる結果に衝撃を受けている。
「どういうことかわからないが、好都合だな。今のうちに使い魔を叩くぜ」
「ふ……美しさは私のほうが上だったということ……」
戸惑いもあったのだろうが、これを好機と見てスワロウのほうへ駆けていく。
「スワロウッ!!」
「…………!?」
スワロウはあわてて使い魔に指示を飛ばそうとするが、反応が遅れすぎた。
このままでは3人の総攻撃を受けてしまう……!
俺もスワロウのほうに駆けているが、これは間に合わない!!
「離れていたまえ!! 君のレベルでは彼らを対処しきれない!! これは審判である!! 『ジャッジメント・レイ(Lv4)』!!」
どこかからか聞こえてきた男の声が響くと共に極大の白金色の雷が3人を貫く。
雪崩のような光波と瀑布のような音の衝撃によって俺は立ち止まる。
いや立ち止まらざるを得なかった。
世壊を貫くように眩い光が大地に突き立ち、
永遠を思わせるほどの刹那が連続し、
その白金色の光が収まった後には3人の姿はどこにもなかった。
文字通り、影も形もなく。
それはつまり彼らがデッドし、ログアウトさせられたということなのだろうが……。
光が収まった後に残っていた蒸気もなくなり、雨が降るときのようなあの独特な匂いがあたりに漂う。
光が落ちたところでは地面が融解し、むき出しとなった土はところどころで硝子化しているのが見える。
ここはゲームであり、大丈夫だとわかってはいるが、一瞬彼らが本当に死んでしまったのではないかと思ってしまった。
「『ジャッジメント・レイ』って……『杖』アルカナのスーパーレアじゃない……。このカードを持ってるってことは……」
助けられた形となったスワロウは呆然とそんなことを呟いていた。
「正義・完了!!」
いつの間にそこにいたのかスワロウの近くでアルカナカードを掲げた男が決め台詞と思しき言葉を叫んでいた。
その男は全身を白金のように煌びやかな装備で固めており、俺のようなまだ何もわからない初心者から見ても高レベルプレイヤーなのだろうと確信させるオーラを持っている人物だった。
「だいじょうぶでしたか? 何か状態異常はありますか?」
その男は呆然としていたスワロウに声をかけ無事を確認している。
「え、あ、状態異常は大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」
「彼らは無謀にもシブヤに向かい、不死となってしまったようです。不死に対して魅了は効かず、不死は生あるものを不死に変えてしまう」
「プレイヤーが不死化っ!?」
「ええ、最近になって確認された現象です。不死はこの世壊の住人にしか影響はないと思われていましたが、どうやら不死化はプレイヤーにも適用されるようです」
「そんなことが……」
「スワロウ!! だいじょうぶか!?」
「あ、うん。私はなんともないわ。彼が助けてくれた……って、そうだ!! もしかしてアナタ、白金卿じゃない!?」
「一般的にはそう呼ばれていますね」
白金卿……? 有名なのだろうか。
「まぁ初心者だし知らなくても仕方ないけど、有名なギルド『ディバインクルセイダー』のギルドマスターよ」
俺が不思議顔していたのに気がついたスワロウは補足するように説明を入れる。
「なるほど。っと、助けてくれてありがとう」
「ああ、構いません。『ディバインクルセイダー』の使命は彼女の遺したこの世壊を守ること。その目的のためには容赦するつもりも手加減するつもりもない」
「確かに容赦なかったなー……」
こちらから仕掛けた上に、あそこまで無慈悲に瞬殺では罪悪感を感じる。
「……不満そうですが、何かありましたか?」
「いや……助けてくれたことには感謝してるのだが、あの3人には悪いことをしたと思っている。結果的に、襲ったのは俺たちからになってしまったし……説得も結局できなかった」
「説得……? ああ、亜人狩りをしているプレイヤーがいるという話ですか。それなら余計に倒すべきでしょう」
「だが、それでは根本的な解決にはならないだろう。相手はプレイヤーだし、またプレイしに戻ってきたら亜人狩りがその度に起こることになる」
「ならば何度でも叩き伏せればいいだけのこと。あのようなプレイヤーは言ってもわからない場合が多いのです。何より彼らは不死。それだけで、もはや我々とは相容れない」
言ってもわからないやつは叩いてわからせなければならない場合があるのもわかる。
「少なくとも彼らはまだコミュニケーションが取れる範囲だった。その考え方はちょっと排他的すぎるというか危険に思う」
「なっ……!!」
俺のその言葉を聴いた白金卿は信じられないことを聞いたとでもいうように。
あー……、助けてもらっておいてこの言い様はまずかったか。
「何を言っている……? 彼らは不死なんですよ? 不死の相手は高レベルプレイヤーでも大変なものなのです。放っておけば不死を感染させるかもしれず、まともに倒すためには瞬間的な高火力が必要なのです」
白金卿の表情は全身鎧で隠されている。
それでも彼の戸惑いは感じられた。
「しかも積極的に亜人狩りをするような連中で、しかもその狩りは亜人の中でも弱いものがメインという者たちだ」
「それについては俺もどうかと思う」
「君は彼らが変わる可能性を言っているのか……。だが、彼らは既に不死だ……! それは変わらぬ事実っ」
「彼らはまだ理性的だった」
このままだと意見が平行線で終わらないと思ったのか、白金卿はいったん無言になる。
「そうか、君はそういう考え方をするのか」
「……白金卿?」
「気に入らない……気に入らないな……っ!!」
白金卿は意外なほど激昂した様子で、俺の意見を気に入らないという。
「君の意見はそれはそれで尊重しよう! だが、それで彼女の遺したこの世壊を壊すようなことを僕は決して認めないっ。普通のゲーマーからしたらその考えは思ったとしても無視する事柄だ。いや、そもそも思うことがないだろう」
ゲーマー的には敵対マーカーついてる相手はスコアだからなぁ。
「不死となったものに対して説得を試みようなどと……。それは君が普通とは違う視点を持っているか、何もわからぬ愚か者かのどちらかなのだろう」
何も知らないのは確かだ。
「君は先ほど僕のやり方が危険だと言ったが、君のその考えこそ危ない。それはこの世壊を根本的に変えてしまうかもしれない考え方だ。この世壊にとって劇薬となる可能性がある」
「それは彼女の世壊を壊してしまうかもしれない……! 僕は君と相容れることはないだろう!!」
白金卿は強固な意志を込めた視線で俺を見る。
「僕は君を認めることはない!! 次にあったとき、僕にとって君は敵で、君にとって僕は敵となる!!」
そう言って、白金卿は俺たちを……いや、俺を意図的に無視するように踵を返し去っていった。
「……アンタ、すごいのに嫌われちゃったわね。白金卿に嫌われるってかなりきついんじゃないかしら」
置いてけぼりになったスワロウがぽつりとそんなことを言う。
「そこまでのことなのか?」
「まぁ……頑張ってね。レベル上げればきっと大丈夫よ」
スワロウは俺を慰めるように気休めを言ってくれた。
「……といってもな。白金卿のやり方はやりすぎだと思うのだが」
「そうかしら? 私は白金卿のやってることは正しいと思うわよ」
俺も白金卿のことを完全に間違っていると思ってない。
単純にあの3人がコメディっぽくて悪いやつに思えなかったということもある。
そういう意味では感情で善悪を判断してる俺のほうが間違っていることになるか……。
「そもそもあんなヤツら相手に交渉とか意味が無いわ」
「確かに交渉は難しかったかもしれないな」
「でしょ? だったらこれでいいのよ。世の中には不真面目な人が多すぎなのよ。そもそも言葉が意味を成さない人が多すぎるわ」
さっきのヤツらに出会ってからスワロウは微妙に不機嫌そうに見える。
「さっきから不機嫌なような気がするけど、どうしたんだ」
「ネットでリアルの話をするのはタブーといえばタブーなのだけど。ちょっとリアルで色々あってね」
リアルのごたごたを思い出していたのか。
「今日、学校でも不真面目な人に色々言われたし。確かに八つ当たり気味だったかもしれない。世界はどうしてこうもままならないのかしら」
愚痴り始めた。
「どうにもならないことってのはどこにでもあるもんだろ。いちいち気にしてたらしんどいぞ」
「そうなんだけどね。間違っていることを正したいと思うのは間違いかしら?」
「いや……それは正しい」
と思う。
「でしょ!? アンタ白金卿に反感もってたみたいだけど、正しいことは正しいってわかってるじゃない!! やっぱわかってる人はわかってるのよね!!」
「それに、そういうどうにもならないことをどうにかしようと努力することは自分にとって何かしらのプラスになる」
結果、どうにもならなくても、努力したという経験は残る。
スポーツなどの勝負の世界だとそう甘いことも言ってられないのだろうが。
「ならやっぱり間違いは正さなきゃね! そう言ってもらえて、なんだか気が晴れたわ!!」
同意を得られたことにスワロウテイルは満足したのか、機嫌が良くなった。
こんなことで気が晴れたのなら良しとするか。
「なんにせよ、これでクエストはクリア……でいいのかな」
即席PTも解散だ。
「そうねこれでクエストは終わりだけど……、あ、アナタさえよければ、また何かあったらPT組んであげてもいいわよ」
「おお、それはありがたい。そのときは是非ともよろしく頼みます」
「ふ、ふん。そのときまでに少しはレベルとスキルを磨いておきなさいよ」
「ああ、それまでには多少うまくなるようにしておく」
「期待しておくからねっ!」
そういってスワロウはログアウトしようとする。
「と、スワロウっ」
「……ん、何?」
「今日は回復やサポートや色々なことを教えてくれてありがとう。本当に助かったよ」
「……そ、それくらい、構わないわよ!! じゃあね!!」
「ああ、またな!!」
PTを解散する間際、アナタの仲間にもよろしく言っておいてと、そういってスワロウテイルは去っていった。
その後、セバスチャンたちと合流し、一応はクエストクリアしたことを伝え、俺たちもログアウトした。
カードも増えたし、知り合いも増えた。
今回はネトゲらしいことをした気がして、かなり面白さを感じた。
このままハマってしまうと、金がなくなりそうで心配である。
ま、そのときはそのとき考えようか。




