1 prologue
【view:unknown】
目の前に黒い人影が佇んでいた。
その格好からイメージするのは騎士だが……、その全身鎧は黒を基調としている。
まっとうな騎士のイメージからは離れている上に、彼?の身に纏う雰囲気が騎士のように清廉なものとは違っている。
ファンタジー物にあるような暗黒騎士や黒騎士といわれるものなのだろうが、それとも違うと感じる。
……しかし、見るからに怪しい上にイメージも定まらないその存在に奇妙な親近感のようなものを覚えた。
その存在を受け入れている自分を不思議に思う。
現実感が乏しく、果たして俺は起きているのか眠っているのか。
夢は記憶の整理を行う脳の活動により起こる現象だと思っていたが、こんな人物の記憶はない以上そればかりでもないのかもしれない。
頭の中もぼやけているように思考がはっきりとせず、なんとなく夢だろうと決めてかかっていると。
「久しいな」
目の前の黒騎士(便宜上黒騎士と呼ぶことにした)が口を開いた。
久しい……?
「久しい……というと語弊があるか? いや、この場合は私の体感として彼我の関係の断絶時間を現すものであり、その観点からみるにやはりこの場合は久しいというのが妥当だろう」
俺は貴方とあったことがあるのか?
「それはいずれわかることだ、気にするな。今はただあるがままを受け入れろ」
いまだぼやけた頭の中で記憶を探すが……やはり会った記憶もなければ、その声を聞いたこともない。
「これから、貴様は激しい運命の波に翻弄されるだろう。それは厳しく、辛く、理不尽なものだ」
それは……どういう意味だ。
そんなものは、できれば遠慮したい。
「遠慮できるものならしてみるがいい。貴様はそれを見て見ぬふりなどできぬはずだ」
なぜそこまで断言できる。
「私は貴様のことをよく知っているからだ」
これ以上は聞いても無駄だろうという拒絶を含めた断言だった。
だが、運命とかいうよくわからないものに翻弄されるのはご免だ。
「そうだな。それには同意しよう。だからこそ私がここにあり、貴様には『これ』がある」
そう言って、黒騎士は右手を見せてくる。
一瞬。
光の飛沫が走ったかと思うと、その右手から1枚のカードが現れる。
「受け取れ」
俺は……そのカードに目を奪われていた。
別にそのカードのこと知っているわけでも、欲しいわけでもないのに、俺の意識は完全にその『存在』に奪われていた。
黒騎士の右手から突然カードが出てきたことなど疑問にも思わない。
全細胞、全意識、全神経すべてがそのカードに向かう。
「これは桜井葦人……貴様が持つべきもの」
右手が自然とカードに伸びる。
いや、知らないというのは違うかもしれない。
俺は……これを、
知って……いる?
カードに触れた瞬間。
カードは出てきたときと同じように光の飛沫を残し、俺の右手に消えていった。
「それが貴様の『運命』だ――――」