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解体工の話

作者: ドングリ

解体工の話


N君はその日も現場で汗を流していた。

N君は解体工事の現場で働いている。

最近は高齢の家主が亡くなり、遠方の親族が空き家をそのまま処分して欲しいとの依頼が増えてきており、当然家財道工はそのまま、仏壇や遺影なんかも残されたままだったりなんて事もある。

今回の現場もそんな依頼だった。旧農家で家も大きく、更に納屋や離れまであり、解体にはいつもより日数を費やす様だった。

N君は重機を使い一人で納屋を解体していた。解体中には現金や掘り出し物を見つける事もあり、そのまま懐へ入れても良い契約になっている。今回の現場は旧農家、しかも豪農だった様子、金目の物でなくとも何か面白い物がないか期待していた矢先、崩した天井から何かが大量に落ちてきた。

コケシだった。


大量のコケシはただただ不気味だった。

住人が集めた物に違いないが、なぜ天井裏にコケシが?しかも大量に。恐らく20体以上ある…。

N君は他の仲間に手伝ってもらい、気味悪いコケシを全てバッカン(回収用のコンテナ)へ放りこんだ。その後、嫌な気分は薄れ順調に今日の作業を終えた。

自分のアパートへ帰ったN君は、埃にまみれた身体を洗うため、脱衣場で作業着を脱いでいると、「ごろん」と何かが床に落ちた。

コケシだった。


床に転がったコケシを見てN君は全身に鳥肌がたった。今日現場で処理した物がなぜ!?。N君を見つめるコケシの笑顔が余計に不気味だ。しかし、N君はすぐに平常心に戻った、S先輩のイタズラに違いないからだ。S先輩は年も近く気軽にプライベートでも遊べる人で、N君を可愛がってくれる反面、心臓に悪いイタズラを時々するからだった。

翌日、N君はS先輩に冗談混じりにコケシの事を言った。しかしS先輩は「全く知らない」「そんな気持ち悪い物触りたくもない」と全く相手にしてくれない。逆に「普通、ポケットにそんな物入れたら重みで直ぐ気付くだろ?ウソでっち上げて騙そうとしても無駄だぜ」と笑われてしまった。確かにS先輩の言う通りポケットに入っていたら普通気付く事だ、しかし昨日の事は事実、だけどS先輩以外イタズラをする様な人はいない。N君はどうする事も出来ず、暖を取るドラム缶の焚き火に昨日のコケシを投げ入れた。


数日後、N君は引っ越しの準備をしていた。近々彼女と結婚して一緒に住むため、アパートを引き払うのだ。

押し入れの衣装ケースを持ち上げた時、「ごろん」と聞き覚えのある音がした。

胴体の一部が黒く焦げたコケシだった。


N君の背中は冷や汗で濡れている。

今回はイタズラなんかじゃない、最近仕事仲間はアパートに来ていない、N君自身押し入れを開けるのは久しぶりだった、このコケシは確実に自らここへ来ている、何とかしなければ…。

N君は、キッチンで荷物の整理を手伝ってくれている彼女の背中を見つめた。


休み明け、N君は会社の事務所で社長に先日の農家について聞いてみた。依頼主は、亡くなったお母さんが独りで住んでいた家を娘の自分が相続したが、遠方に住んでいて維持出来ないので解体の依頼をした様だった。期待した事は何も解らないため、正直にコケシの事を話してみた。

社長は笑っていて相手にしてもらえず茶化されたりしたが、深刻な顔で話すN君がなんだなか可哀想になった社長は、仕方なく依頼主の連絡先を教えてくれた。

通常、契約では全ての物をこちらの判断で処分する事に合意して貰っているが、さすがに処分するには忍びない物なんかは依頼主に連絡する事がある。N君はそんな内容を装い依頼主に連絡をした。

N「と言うわけで大量のコケシが何処からか出て来たんすけど、思い出の品だったりしますか?」。

N君はあえてコケシの出所をボカして質問をした。

依頼主「多分母や祖母がお土産で買って来たり貰ったりした『物を押し入れ』にしまっていた物だと思うんです、思い出があるとは思うけど必要無いから処分して欲しいのよ」。

案の定依頼主は嘘をついた、何か知っているのは間違いない。確信を持ったN君はストレートに話をした。

N「実は…。ってゆう訳で困ってんすよ、あのコケシはお土産とかじゃないっすよね、何か知らないっすか」。

カマを掛けられた依頼主は少しムッとしてため息をつきながら「知らない」、「判らない」と突っぱねた。しかしN君も必死だ、何度も食らい付いていると依頼主は折れ、コケシの事を話してくれた。


依頼主の家は古くからの農家。農業は収穫時にしか現金収入はなく、副業をする家が多かった。この家は女性が代々産婆をして貴重な現金を得ていた。そして、昔は「間引き」も産婆の役目で、命を絶たれた赤ん坊の供養にコケシを「ヨリシロ」にして祀っていたらしい。依頼主の生まれる前の事なので詳しくは知らないが、定期的に祈祷をお願いしていた神社があるのでそこに相談してくれ、そしてもう関わらないでと電話を切られた。

早速神社に連絡を取り事情を説明、N君はコケシを持って神社を訪れた。

対応してくれた神主は事情を把握していて、謝礼も依頼主から頂いているとの事で早速コケシの祈祷に取りかかった。神主の話しでは、間 引かれた子は生への執着が強く、時間をかけて祀っていたが、特にこの(コケシ)は特別で、「力」が強かったのを覚えていたらしい。屋根裏の暗闇から解放してくれたN君を慕って付いてきたんじゃないか?、そう話しながら祈祷の準備をしている途中、神主の手が止まった。


神主「御霊がない。」

N「?」

神主「このコケシに祀っていた御霊が無くなっている」

N「それはどうゆうことっすか?」

神主「昇華(ここでは成仏の事)したか他の依り処へ移ってしまいこのコケシは脱け殻、ただのコケシに戻っているんだよ」

N君は直ぐに事の次第が理解出来なかったが、神主の「もうコケシが付いてくる事はない」との言葉に拍子抜けて、ここ数日の緊張が一気に緩んだ。それを見た神主も笑顔で話しを進めた。多分、御霊の昇華にはまだ至らないので他に移っていると思うが、悪さをする子ではないから問題無いだろう、万一霊症が出たらまた相談にのる、との事だった。

一気に事が進みN君はの非日常はあっけなく終わった。コケシを神社に奉納し、ついでにお札を貰い、N君は軽やかに帰路に着いた。


後日談


結婚、入籍、彼女の妊娠と、N君は順風満帆の日常を送り、心配した霊症も起こらなかった。

しばらくして娘が生まれ、体の一部に黒い火傷の様なアザはあったが…。

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