城の中
どうやらこの世界で勇者は特別な存在である、と知った俺は、気が大きくなって、衛兵に、
「ど、どうも」
と挨拶した。
だが衛兵はムスッとしたまま、何のリアクションも無い。
「ま、任務中だしな・・・・」
俺は内門をくぐって、広場に出た。
いや、中庭と言うのか?
ここに至ると、勇者らしき連中をチラホラと見かける様になる。
俺にも勇者の見分け方が判った。
この世界は中世、良くて17世紀頃のヨーロッパが『モデル』なのだろうが、明らかに浮いた格好の連中、それが勇者だ。
俺の格好は、とあるJRPGの勇者をモチーフにしており、これは中世ヨーロッパが舞台のファンタジーだから、それほど浮いた格好じゃない。
それでも日本人が考えた西洋なので微妙に違う。
今、俺の目の前にいる男ときたら・・・・視界を邪魔する前髪のライオンヘア、黒いロングコートを引きずって、背中にはベルセ○クに出てきそうなドラゴン殺しを背負っているが、どうやらグレートソードが重すぎるらしく、へっぴり腰を騙し騙し歩いている。
本人はキメたつもりなので、より滑稽だ。
俺が背中に背負った普通のロングソードでも結構重いのに、よくやる。
「君、整理券は貰ったのかね」
作曲家のバッハそっくりな男に声をかけられた。
「いや、まだですが」
「そうか、ではこれを受け取りたまえ」
バッハは俺に木の札を渡した。
俺がじっと28と書いてある番号札を眺めていると、
「あそこから大広間に入って、番号を呼ばれるまで待機していたまえ」
バッハは庭の奥にある入口を指差した。
「あ、どうも」
俺は卑屈なお礼をする。
「まあ、頑張り給え」
そう言ってバッハは、へっぴり腰で徘徊しているクラ○ドのコスプレ男に接近して、同じく木片の番号札を手渡していた。
「はて、何者なのか?まあ良いや、広間に行ってみるか」
俺は中庭を奥に進んだ。