宿屋
おばちゃんに言われた通り、俺は城門を入ったところにある宿屋へやってきた。
入り口は・・・・開いている。
日中だし、過ごしやすい気温だから当たり前か。
しかし今、季節は何なんだ。
春かも知れないし秋かも知れない。
ちょっと中を覗いてみる。
宿屋と言っても、入り口は大衆食堂だか何かになっているらしくて、表では見かけなかった男たちが屯しているのが見える。
意を決して中へ入る。
男たちは俺の方をチラッと見ると、それっきりで、パンを齧ったり、スープを啜ったりに戻った。
ふう・・・・何か絡まれるかと思ったが・・・・
「食事・・・・出来ますか?」
俺はカウンターの太り過ぎたおばちゃんに伝えた。
「あんた、勇者だね?城には行ったのかい?」
「いや、まだですけど・・・・」
「先に城へ行っておくれよ。寄り道する勇者が多くてね。役人からも城に誘導するように言われてるんだよ」
「いや、腹が減っているので・・・・」
「じゃあ、こいつをあげるから、食べながら城にむかっておくれ」
宿屋のおばちゃんは、そう言って俺にサッカーボールを半分に切った大きさの、黒いパンらしいものを渡してきた。
「あの、代金は?」
「後で良いからさ」
「あ、どうも」
俺は卑屈に何度もペコペコしながら宿屋を出た。
「これが本場の黒パンか」
手に持った感触からして固そうだ。
「水が無いと・・・・」
俺は頭陀袋を弄った。
コイツはパーソナルサイズなのに何でも入ってしまう。
あった。ひょうたんがあった。
振ってみる。水が入っている。
どれ、立ち食いしながら城に向かうか・・・・ふと宿屋の入り口を見ると、地図が貼ってあった。
「これは髭文字ってやつか・・・・何故か読めるな」
この場所から城までの道順が書いてあった。
こんなもの提示して良いのか?
よく見ると注意書きに、
「勇者は教会の夕刻の鐘が鳴る前に拝謁する事」
とある。
太陽を確かめるとまだ余裕があるようだが、少し急ぐことにした。