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恋物語  作者: まきまき
8/14

なつとかず ご

橋本夏樹。


新入生歓迎コンパで初めて見たときの彼女の印象は、彼氏と一緒にサークルに入った女くらいだった。

中川と言う男といつも一緒にいて、守られてる感じ。

まだ付き合いが短いのか?初々しい感じの二人に

「中川と橋本、みんなの前でキスしろ」

と先輩が言うと、仲間みんなからキスコールがかかった。

二人は本当に困ったと言う顔をしていたが

「あの…皆さん勘違いしてるみたいだけど、俺たち付き合ってませんよ。橋本さんは俺の親友の彼女ですよ。僕も彼女いるし」

と中川は笑った。


何でも中川の彼女は高校の同級生で夏樹の友達らしく、夏樹の彼氏は一也と言う名前でかなりのイケメンで頭が良くてT大学に通う奴らしく読者モデルもやってるらしいけど、彼氏がどんな奴かって言うのは自分と不釣り合いだから他人に知られたくないって夏樹は誰にも言わないらしいから秘密にしてほしいと中川は言った。

「じゃ、なんで俺に話したの?」

と中川に聞くと

「佐伯先輩はきっと橋本さんの事が好きになると思ったから」

と中川は笑ったけど、そのあとすぐに真顔になって

「だから先に二人の事を話した方がいいと思って」

「意味わかんねぇ。俺は彼氏いる奴と付き合いたいとか思わないよ」

と言うと、

「だったらいいんですけど。でも、一応伝えておこうと思って」

と中川は笑って夏樹の所に戻っていった。


中川の言葉のせいかどうか分からないけど、その日から僕は夏樹の事が気になり始めた。

中川がそこまで守ろうとしてる二人はどんなカップルなのかも気になって夏樹の彼氏が出てる雑誌を見てみた時もあった。

確かにモデルだけあって男の僕が見ても悔しいけどイケメンだと思う。

「佐伯先輩、何見てるんですか?」

と夏樹が声をかけてきた。

「あ、このモデル…。私ファンなんですよ」

と言う夏樹の顔は笑っていたけど少し寂しそうだった。

「…彼氏だろ?」

と言う僕の言葉に驚いた夏樹は、何かに気付いた顔をして

「中川君から聞いたんですか?」

と言った。

「まぁ、俺がなっちを好きになってもこんなに格好いい彼氏いるから無駄だって」

「え?」

「いやいや、未来形でこれから好きになっても無駄だってさ。訳わかんない奴だよな」

「そうですね。佐伯先輩みたいに素敵な人が私みたいの好きになるわけないじゃないですかね」

と夏樹は笑った。

「でも、彼氏がモデルとかって女の心配しなきゃいけないし大変だな」

と僕が言うと、一瞬悲しい顔をしたけどすぐに笑顔に戻り

「大丈夫ですよ。私は彼氏の事を信じてますから」

と夏樹は右手の薬指の指輪を撫でながら言った。


普通だったら見逃してしまいそうな一瞬の悲しい顔、きっとこれが夏樹の本音なんだと思う。


ブブッ

夏樹のスマホが鳴った。

夏樹は慌ててスマホを取りだしメッセージを読んで、今まで見たことのないようなスゴく綺麗な顔をした。

思わず見とれてしまい、夏樹の

「先輩?」

と言う声で我に帰った。

「あ、ごめん。なっちに見とれてた」

と言うと、

「誰にでもそうゆうこと言うんですか?」

となっちは笑い

「彼氏が迎えに来てくれたので帰りますね」

と言って夏樹は去っていった。


もともと可愛い顔をしていたけど、突然誰もが振り替えるようなスゴく綺麗な顔をして夏樹。


僕はストーカーじゃないけど、夏樹が気になり後を付けていくと、正門の前にさっき雑誌で見た一也と言う男が立っていて、夏樹はスゴく綺麗で嬉しそうな顔をしてその男と手を繋いでいた。


僕にもあの笑顔を向けてほしい。


中川の忠告通り僕はこの時夏樹に恋をした。

それからは、いつも夏樹の事を考えていた。

彼氏に向けたあの笑顔が頭から離れなくなった。


「中川、お前の言う通り俺はなっちに惚れたよ」

と言うと、

「だから言ったじゃないですか?でもダメですよ。二人は一緒に暮らしてるし婚約もしてますからね」

と中川は言った。

同棲…婚約…?

「でもまだ結婚はしてないだろ。だったら俺にだってまだチャンスはあるだろ」

と強がりを言うと、中川はやれやれと言った感じでため息をついた。


けど、それからの僕は夏樹を振り向かせるためにあの手この手といろいろ頑張った。

サークルの仲間もいい加減諦めろと言い出すほど頑張った。

ちょっとおかしいかもしれないけど、相手にされないのは分かっていても夏樹と話すだけでも僕は嬉しかったし、夏樹を困らせるのも楽しかった。

どんどんどんどん僕の中でも夏樹の存在が大きくなって、他の女なんてどうでも良くなって…。

そんな日々を2年も続けていた。


そんなある日、ある出来事が起きた。


サークルの飲み会の帰り道、一也が他の女とキスしてるところを夏樹が見てしまった。


その場を見てしまった夏樹の心を思うと僕は一也にムカついて、身体が勝手に動きだし一也の肩を持つと片方のの手で一也の頬を思いっきり殴った。

「モデルだからっていい気になるなよ!なっちを悲しませるような奴を俺は許さないからな!」

と言うと、僕は多分その場にいることが耐えられなくなって去っていった夏樹を探しに走り出した。


僕の前を泣きながら歩いてる夏樹を見つけた時、僕はその姿が、あまりにも小さく見えて今にも消えてしまいそうに思えた。

僕は夏樹を抱き締めた。

夏樹は僕の胸の中で大声を上げて泣いた。


こんな夏樹を見たのは初めてだった。

きっと今までもいろんな不安を隠し自分に大丈夫と言い聞かせて笑っていたんだろう。

だけど、不安が目の前で現実になって…僕は夏樹の気持ちを考えると切なくて可愛そうで自分も泣きそうになってしまった。


家に帰りづらいだろう夏樹を自分の部屋に連れていった時は、本当に下心なんて無かった。

泣きはらした後にまた何もなかったかのように振る舞い、家に帰ろうとする姿があまりにも可哀想だったから泊めただけだった。


「ちょっとだけ玄関で待ってて」

と言って僕は部屋に入りベッドに置いてあったエロ本を見えないようにクローゼットの奥に慌ててしまった。

部屋に入ると夏樹は珍しそうにいろんな物をキョロキョロと見ていた。

実は、自分の内面を見られるような気がして嫌だから今まで女を部屋に入れた事は無かった。

高校の友達と今でもやっているバンドの事を知られたくなかったし、いつもチャラチャラしてる俺が哲学書読むのも知られたくなかったし、いろいろ質問されるのも面倒だから誰も入れなかったんだけど、

「印象が変わった」

と言うだけで夏樹はそれ以上何も聞かなかった。

…矛盾してるかもしれないけど、僕に興味が無いから何も聞かないのが分かっていたからちょっと悔しかった。


ベッドを、夏樹に貸して僕は床に寝ることにしたんだけど、無防備と言うか人が良くて何も考えてないと言うか夏樹は床で寝るが寒いから一緒に寝ようと言い出した。

僕は夏樹を好きなんだぞ。何もしないでただ寝るなんてできるわけ無いだろうと、思い断っても夏樹も引かないから脅すつもりで僕は夏樹にキスをして、これ以上の事をする覚悟あるのか聞いたら、夏樹は薄暗いベッドの上で小刻みに震えながらも、僕が風邪をひいてしまう心配をしていた。

こんな意地悪されてまでまだ僕の心配をするなんて…。

押さえていた愛しい気持ちが押さえきれず溢れてしまい僕は夏樹にもう一度キスをしてベッドに押し倒した。

このまま夏樹を抱いてしまいたい。

そう思ったけど、…けど夏樹の震える肩に触れているとそれ以上の事は出来なくなってしまった。


「やっと夏樹にキスできたし。今日は一緒に寝てやるか。あー寒い」

と夏樹を抱き締めて

「夏樹は子供体温だな。暖かい」

と言って僕は寝たふりをした。


僕が寝たのを確かめて夏樹は声を殺してまた泣いていた。


どのくらい泣いていたのだろうか?泣きつかれて寝た夏樹を強く抱き締めると

「かず…」

と言って夏樹は僕に抱きついてきた。


残酷だ。

夏樹に悪気は無いのはわかっているけど、僕の胸の中で寝てるのに他の男の夢を見ているなんて、それも自分を傷付けた男の事を考えているなんて残酷だ。


僕はそっとベッドから抜け出し床で寝た。


朝、実家に帰ってきていたかのと錯覚するような味噌汁と、魚の焼ける匂いで目を覚ますと、キッチンに夏樹が立っていた。


新婚ってこんな感じなのかな?


なんて思いながらそっと夏樹に近付き背中から抱き締めると、

「せ、先輩起きたんですか?」

と夏樹は驚いた声を上げて、僕の腕を振りほどいた。

「夏樹、ご飯作ってくれたの?俺の為に?」

と言うと、

「昨日お世話になったら…。味の保証は無いですけどね」

と、笑った。

夏樹とテーブルを囲み夏樹の作った朝食を食べるなんて夢みたいだった。

このままこの夢が覚めなければ良いのに…なんて思ったけど、着実に夢から覚める時間は迫ってくる。


朝食を食べ終えて洗い物をしている夏樹の背中を抱き締めて

「俺は泣かせない。あいつの所に帰らないで俺の側にいろよ」

とありったけの気持ちを夏樹に伝えたけど、結局

「ごめんなさい」

としか言われなかった。


夏樹は傷ついても不安になっても今までも今もこれからも一也と言う男が一番だと言った。

ずっと分かっていたはずの真実をまざまざとまた突きつけられたのに、なぜか悔しさは無くて逆にここまで思える相手と出会った夏樹が羨ましくも思った。


夏樹が帰ったあと、僕は中川に連絡をして中川と一緒に一也に会いたいと伝えた。

はじめは嫌がっていた中川も僕があまりにもしつこいからしぶしぶ一也に連絡を取って3人で会うことになった。


待ち合わせ場所につくと中川は既に来ていた。

「先輩、一也に何をするつもりですか?」

と聞く中川に僕は

「中川は今でもなっちが好きなんだな」

と言うと、中川は驚いた顔をして

「そんな事を言うために来たんですか!僕はあの二人が幸せになるのが僕の…」

「だからだよ。俺もお前と同じ。なっちの事は好きだけど俺じゃ幸せに出来ないのわかったよ。」

「だったら何で今日一也呼び出したりしたんですか?」

「一也って男が本当になっちの事を幸せに出来るか確認するためだよ」

「どうゆう意味ですか?」

と嫌な顔をする中川に僕は

「一也ってやつが来たら全て話すよ」

と笑った時に、一也と言う夏樹の彼氏が僕たちの前に現れた。


走ってきたのか?一也は息を切らしながら中川の隣に座って僕の方を見た。

「!お前昨日の…」

と一也が僕に気付き驚いた顔をしていると

「何?二人は昨日会ったの?」

と中川がお互いににらみあっている僕と一也の顔を交互に見ていた。

「夏樹の彼氏のかず…君だよね」

「かずって読んでいいのはなつだけなんだけど、あんた何なの?」

「か、彼はサークルの先輩で」

と間に入ろうとした中川を遮って

「彼氏候補の佐伯です」

「彼氏候補?」

「せ、先輩。やめて下さいよ」

「中川黙ってろ。俺はこいつと話がしたいんだよ」

と僕が言うと、中川は一也の顔を見て水を飲んだ。

「まぁまぁ、かず君。そんなに熱くなるなよ。ま、殴ったのは俺が悪かったと思うよ。だけどさ、お前夏樹の彼氏なんだろ?昨日仕事って嘘ついて女と食事して公道でキスして…モデルって何しても良いのかな?って思うとムカついて昨日は殴ったんだよね」

「一也!お前そんな事したのか!」

一也は怒った顔で

「違う、あれは…」

と言い訳をしようとしたので

「言い訳か?見た目だけイケメンで中身は全然男らしくない奴だな」

と僕が言うと、

「事情があったにしてもそんな事していいわけないだろ。なっちがどれだけ我慢してるか知ってるだろ」

「分かってる」

「あのさ、二人で話してて俺は置き去りにされてるんだけどさ。かず君はどうして僕が君が嘘をついたことやあの場にいて君を殴ったのか気にならないの?」

「…」

「夏樹さ、昨日サークルの飲み会だったの知ってるよね?」

「…!まさか!」

中川が青ざめた顔で僕に聞いてきた。

「そうだよ。なっちその現場しっかり見ちゃったんだよね」

「…」

一也は頭を抱えてテーブルに顔を埋めた。

「自業自得じゃないの?夏樹に嘘ついて女と会ってたりしたから」

「一也、事情ってなんなんだよ!俺も説明してやるからさ」

「夏樹、スゲー泣いてたよ。多分俺も中川もかず君も知らないところで今までも夏樹は泣くの我慢してきたんじゃないか?」

一也は顔を上げて僕の事を睨み付けて

「お前に何がわかるんだよ」

と自分は夏樹の事がいかにも全て知ってますって感じで言ってきたのがムカついて

「じゃ、お前は何が分かってるんだよ!昨日夏樹が先輩の家に泊まると連絡したときお前はおかしいなとか思わなかったのか?どこの先輩の家に泊まったか…」

と言いかけたとき、一也は立ち上がり僕の胸ぐらを掴んで

「お前、なつに何かしたんじゃないだろうな」

と物凄い形相で言ってきた。

中川が慌てて一也を止めたけど、一也は手を話そうとしないでいたので

「離せよ」

と言って一也の手を離し

「知りたきゃ夏樹に聞けばいいだろ!」

と僕が言うと一也は少し落ち着いた顔をして椅子に座った。

「俺はなつを傷付けたくないのにまた傷付けてたんだな…」

と言って一也は肩を落とした。

「一也、昨日の話は聞かせろよ」

と言うと、一也は話を始めた。

昨日は本当に仕事で、雑誌の特集記事のロケと取材であの店に行っていたらしい。

店から出てきてキスしてる写真を店の中から覗いてるアングルから撮るって事になって撮影していたらしくて、実際はすんどめでキスはしてなかったらしい。

「けど、あんたが殴りかかってきてスタッフも驚いてみんな集まって来たんだけど、すぐにあんたはいなくなってて」

「そうだったんだ。一也はいくら綺麗なモデルとはいえ他の女の子とキスしたり出来ないよな」

と中川が納得した顔をしていたが、僕はそんな話をなぜ信用するのか分からなくて

「おい中川!何でそんな出来すぎた話を信じるんだよ」

と僕が言うと、中川は笑って

「一也は中高生の頃もすげぇモテたけど、誰一人として手を出さなかったんですよ。…いや、手が出せないって言うか」

と笑いだした。

「は?」

と僕が不思議がると、中川は下を向いてる一也を見て

「こいつにとって、女はなっちだけでそれ以外の女とは手を繋ぐのでさえ気持ち悪いって言う変な潔癖症なんですよ。モデルのくせに変でしょ?」

と笑った。

「ま、あんたが俺の話を信じるか信じないかはどうでもいいって言うか、あの場にいたサークルの仲間にでも聞けば本当の事はすぐにわかることだし…。それから」

と言うと一也は見つめられると背筋が凍りついてしまいそうな程の顔で

「なつの彼氏候補なんてバカな事は今後一切言うな。もし手を出そうなんて考えたらマジであんた殺すから」

と言ったあと、

「ま、そうゆう事だから。俺はなつの誤解解かなきゃいけないから帰ります」

と先ほどの背筋の凍る表情とは一変笑顔で席を立って帰っていった。


「中川、チャラチャラしてるモデルかと思ったけど、あいつ怖いな」

と僕が言うと、

「一也は産まれたときからずっとなっちの為に生きてるから必死なんですよ。あんなに何でも持ってる奴なのに、なっちの事になると自信が持てなくて、勉強もスポーツもなっちと釣り合う男になりたくてなっちを守れる男になりたくて小さいときから誰よりも努力してきて、モデルの仕事もなっちとの結婚資金を自分で貯めるって頑張ってて…。あ、この話はなっちには内緒ですよ。なっちにバレたら一也に怒られるから。とりあえず、一也はなっちの為に生きてるんですよ。だから、僕や先輩がどんなに頑張っても一也には勝てないんですよ」

と笑い、

「それに、自分が一度でも心底惚れた女には幸せになってほしいじゃないですか?なっちの場合、幸せに出来るのは一也だけだから僕は二人が幸せなら自分の事のように嬉しいんです」

と言った。


僕にとっても夏樹が一番で夏樹の為なら何でも出来る。

けど…もっと早くに出会っていたとして過去も未来も全てを夏樹の為だけに生きる事が出来るだろうか?

中川みたいに、自分の気持ちを殺して夏樹の幸せだけを考えてあげれるだろうか?


僕はこの時、一也と中川の二人には敵わないと思った。
















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