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恋物語  作者: まきまき
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なつとかず さん

橋本さんの友達の今井さんとカラオケボックスに取り残された僕は、

「何で二人はいなくなったのよ!」

とブツブツ言っている今井さんに話していいのか悪いのか分からないけど、二人の事を話始めた。

二人が幼なじみの事。

一也はずっと橋本さんを好きな事。

半年前に一也は橋本さんを傷付けてしまい、それ以来二人が話をしなくなった事。

一也がどうしても橋本さんと仲直りしたくて今日はカラオケに誘った事。

僕が知ってる範囲で話せる事を話した。


「二人が仲直りしてもいいの?…中川君って夏樹の事が好きだったんじゃないの?」

と今井さんは僕が誰にも気付かれないように隠していた気持ちを見透かしていた。


僕が橋本さんと初めて会ったのは中学生になったとき。

2年の時に同じクラスになった橋本さんはスゴく友達も多くて気さくな女の子だった。

体育の授業の時に足首を擦りむいた僕にウサギのついた絆創膏をくれた。

誰も気付かない僕のケガに気付いてくれた、それだけで僕は橋本さんを好きになった。

だから本当は興味無かったけど、橋本さんと一緒になれるならと委員会にも入った。


けど、委員会活動に参加すると橋本さんは隣のクラスの長谷川一也って奴に話しかけられる事が多くて、あまり僕の方を見てくれなかった。

一也は男から見てもイケメンで女にモテてそのうえ勉強も運動もできるし優しいから友達も多いし、空手では全国大会で入賞するほどの腕前で何もかも持っていてそのうえ橋本さんと仲良くしてムカつく奴だった。


そんな一也と話をするきっかけをくれたのは橋本さんだった。

一也と遊びに行く話をしていた橋本さんが僕の事も誘ってくれた。

「多分、二人は仲良くなれるよ」

と橋本さんは笑った。

次の休みに3人で遊びに行くと、確かに一也とは話が合った。

好きなマンガやミュージシャンなど共通するものが多かった。

でも、まさか好きな女の子まで一緒だとは思わなかった。

「俺さ…なつが好きなんだよ。でもあいつが俺の事をどう思っているかずっと分からなくて…。他の事は頑張ればなんとかなるんだけどなつだけはダメでさ。あ、恥ずかしい空手もこの話は俺たちだけの秘密な」

と一也は笑った。

一也が勉強も運動も空手も頑張っているのは橋本さんの為だってその日知った。

橋本さんに相応しい男になりたくて、橋本さんを守れる男になりたくて毎日一也が頑張っていると聞いて僕は今までムカつく奴だと思っていたけど、この日を境に一也を見る目が変わったし一也には敵わないと思ったから、僕は橋本さんを好きな気持ちは自分の中にしまっておいて誰にも言わないと決めた。

そして何より、僕は自分の恋よりもこれほどまでに一途な一也の恋が成就することを願うようになった。

と、言っても本人たちは気付いてないかもしれないけど、橋本さんと一也は誰が見てもお互いが好きなのは見え見え。

近くに居すぎて見えないだけ。

それを一也に伝えた事もあったけど、

「そんな事言われても、なつに好きだとか言って気まずくなったらどうすんだよ…」

と言って自分からは告白するつもりはないまま時間が過ぎて、いつの間にか僕たちは高校3年になっていた。


こうやって考えると橋本さんを好きになって5年だけど、一也と親友になってからも4年。

そして、あの二人が進展しないまま4年…。

長いよな…。


「俺は橋本さん好きだけど、一也の好きには勝てないしあの二人にはくっついて欲しいってずっと思ってるからさ」

と僕が笑うと

「良くわからないけど、それで中川君は平気なの?」

と今井さんは僕に聞いてきた。

「いいんだよ。俺はあの二人が幸せになればいいんだから」

と笑った。

僕の正直な気持ちだった。

だから、もし二人が付き合い始めてもショックは受けないむしろ嬉しい。


カラオケボックスを出て今井さんの買い物に付き合っていたら夜になってしまい、二人で駅に向かって歩いていたときに、一也と橋本さんがベンチに座っているのが見えた。


一也は頭を下げていて、その頭を橋本さんさんが優しく撫でていた。


「あ、夏樹じゃない!」

と今井さんが言うので僕は慌てて

「し、静かに。」

と口をふさいだ。


「かず、好き…」

小さい声だけど確かに橋本さんの声だった。

「俺もずっと好きだった」

一也の声も聞こえた。


僕は今井さんの口をふさいでいた手を離すと今来た道を引き返した。


心の中で何かが割れた音がした。

泣きたくないのに、涙で目の前が霞んで見えなくなってきた。


「中川君!」

今井さんの声が後ろから聞こえて僕は立ち止まった。

「中川君大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ。やっと二人が両想いになって何だか俺も嬉しくてさ…」

と言いながら僕は泣くのをこらえて笑った。

「…」

今井さんは何も言わず僕の背中を母親が赤ちゃんをあやすように優しくポンポンと叩いてくれた。


「ごめん。嘘。本当はツラい。今日だけ泣いてもいいかな?」

と僕が言うと

「今日はいっぱい泣いてもいいよ。泣いて夏樹の事を忘れて二人の事を祝福してあげようよ」

と今井さんは優しく背中を叩いてくれた。








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