なつとかず いち
「一也、今日の帰り一緒に遊びに行こうよ」
「ごめん。今日は約束あるから…」
「えー、昨日もだったじゃない」
「ごめん」
一也はそう言って、同級生の女の子の頭をポンポンと叩いた。
「私もポンポンされたいる」
遠目でその姿を見ていた友達の裕子は羨ましそうに言った。
「そうかな?」
「そうだよ。夏輝がおかしいんだよ」
と裕子はなぜか怒ったように言った。
「でも、裕子はあのカフェの人が好きなんでしょ?」
「それはそうだけど、一也君は別バラって言うか観賞用で…」
と裕子は言った。
実は私と一也は赤ちゃんの頃から一緒の幼なじみ。
親同士が友達で小さい頃は
「大人になったら二人は結婚するんだよ」
なんて言われていたから、私も一也もそうなんだと思っていた。
けど、中学くらいから一也は女の子にスゴくモテるようになってみんなの一也になった。
一也のまわりにいる女の子と比べて、どちらかと言うと地味な私は徐々に一也といる時間が減って、半年前からは会話さえもしなくなった。
「橋本さん。あの、話があるんだけど」
一也と同じクラスで一也の友達の中川君が話しかけてきた。
「何ですか?」
「いや、放課後話がしたいなぁって思って…。もし予定無かったら一緒に帰らない?」
「……。」
「一也も一緒だからさ」
「一也?」
私が怪訝そうに言うと、突然裕子が突然勢いよく
「私一緒でもいい?」
「良いけど」
と驚いた様子で中川君は答えた。
「本当!夏輝行こうよ」
「でも、今日は裕子あのカフェ行こうって言ってたじゃない」
「それは明日でも大丈夫でしょ?こんなチャンス二度とないよ」
と裕子は興奮ぎみに言った。
「じゃ、放課後迎えに来るから」
と言って中川君は教室を出ていった。
一也も一緒。
嬉しくないと言ったら嘘になるけど、しばらく話をしてなかったから戸惑いもあった。
半年以上話したこと無いのに今更何を話したらいいんだろう。
半年前、私は一也の冗談が許せなくてケンカした。
いつもなら次の日には何事も無かったように話が出来たんだけど、あの日のケンカは違った。
今思い出しても胸が痛くなる冗談。
だから、本当なら一也と一緒になんて帰りたくない。
けど、私の隣で嬉しそうにはしゃいでメイクしてる裕子を見てたら断ることなんて出来そうもない。
「お待たせ」
と言って中川君が教室に入ってきた。
「あれ?一也君は?」
と裕子が言うと、
「あー、あいつは今職員室に日誌起きに行って玄関で待ってるって」
と中川君が言うと、裕子は
「そうなんだ。じゃ、早く行こうよ」
と言って教室を出ていった。
「裕子ちゃんって一也の事好きなのかな?」
「え?」
「いや、パワーがあるって言うか…。スゴいね」
と中川君は笑った。
「そうだね。あのパワーは羨ましい気もするよ。私はどちらかと言うと、そうゆうの苦手だから」
と私が言うと、
「橋本さんもなんだぁ。実はさ、チャラチャラして見えてるけど一也もそうなんだよね…」
「嘘だぁ」
「内緒だけど、あいつは好きな子にはヘタレなんだよ。あんなにモテるのに好きだって言えないんだって」
「本当に?」
と私が笑うと
「本当だよ。それにムダに一途だから今まで誰とも付き合った事が無いんだよ。もったいないよね」
「本当だね。ムダにモテてるけど意味ないね」
と私が言うと、
「本当にそうだよね」
と中川君も笑った。
「何?二人して楽しそうだな」
と言う一也の声が聞こえてきた。
一也は裕子とともにすでに靴を履いて私たちを待っていた。
「別にたいした話してないよね?」
と中川君が言うから私も
「うん。裕子待たせてゴメンね」
と言った。
一也が私の方を見てるのに気付いたけど、いつものクセで知らん顔してしまった。
4人で歩いている時も裕子は一也と話をしていて、私は中川君と話をするって感じで私と一也は会話をしなかった。
一也と一緒にいるのははっきり言って嫌だけど、裕子の嬉しそうな顔を見たら許せるかなとも思えた。
4人でカラオケに入った時に、中川君が
「実はずっと橋本さんと話してみたいって思ってたんだけど、話すきっかけなくてさ」
と言ってきた。
「そうなんだ。いつでも話しかけてくれて良かったのに」
と私が言うと、
「マジ?だったらもっと早くに話しかければ良かった」
と中川君は笑った。
いつも一也と一緒にいるから中川君の事は知っていたし、この人もモテるの知っていたから今まで自分とは縁のない人だと思っていたけど、話してみるといい人だって分かる。
「何二人で笑ってるの?ねぇ一也君、二人していい感じだと思わない?」
と裕子が言うと、
「……どうかな?」
と一也は私の事を見た。
「いや、別に俺はそう言うんじゃなくて、話をしてみたいってずっと思ってただけで…。裕子ちゃんもヤキモチ妬かないで、ほら一緒に歌おう」
と中川君は慌てた様子で言っていた。
裕子と中川君が歌を歌っている時に、一也が隣に座ってきた。
「中川と楽しそうだな。なつは中川が好きなの?」
と一也が笑いながら聞いていたけど、私は何も答えなかった。
「お前いつまで俺のことシカトすんの?」
とため息をつきながら一也が言った。
そのため息が何だか悲しくて、私はカバンと肩にかけて
「裕子ごめん。私、先帰るね」
と言って部屋を飛び出した。
いつまで?そんなの分からない。
私だって一也と普通に話せてたあの頃に戻りたい。
けど、あの日のケンカは出来事がどうしても忘れられなくて許せなくて…どうせなら嫌いになりたい。
なのに、今でも嫌いになれないどころか今でも一也以外の男の子を好きになんてなれない。
なのに、一也はあの日の事をもう忘れたの。
あれは一也にとってはふざけただけだから、何とも思ってないの?
そんなことを考えながら私は泣きながら街のなかを歩いた。
「君1人?泣いてるの?大丈夫?」
と男の人が話しかけてきた。
「大丈夫です」
と言ってその場を離れようとすると
「待ってよ」
と肩を捕まれかけたとき
「彼女、俺のツレだから大丈夫です」
と一也が言ったら、男の人はすぐに立ち去って行った。
「なつ、何泣いてんだよ!あの男に何かされたのか!」
と一也は驚いた顔をして私の顔を除きこんで
「あの野郎!」
と、ものすごい形相で男の人を追いかけようとしたので、
「違うの!大丈夫たがら!」
と言って私は一也の腕を掴んで止めた。
「じゃ、何で泣いてんだよ!」
と一也は怒った顔で私に聞いてきた。
「べ…別に何でもないわよ」
「何でもない訳ないだろう?何なんだよ!」
「何でもないって!ほっておいてよ!」
と言うと、私はその場を立ち去ろうとしたけど、今度は逆に一也が私の腕を掴んで離さなかった。
「話すまで帰さないからな」
と一也は言って近くのベンチまで私を連れていき座らせた。
私は早く一也から離れたいのに、一也は腕を離してくれないのでしばらくお互いに何も話さないまま時間が過ぎていった。
夕暮れの空はいつの間にか夜空に変わってしまっ時に、
「なつさ、あの日から俺の事を避けるようになったよな。俺、スゲー後悔してるんだよ」
「……」
「本当はさ、ふざけてキスした訳なんかじゃなかったんだよ。でも、なつが泣きそうな顔したから冗談って言って無かった事にしようと思ってた。だけど、それが悪かったんだよな。嫌がることしておいて、冗談なんて言って余計に気分悪くさせたよな」
「かず…」
「今日はさ、どうしてもなつと元通りに戻りたくて中川に頼んでお前を誘ったんだよ」
「元通りって…」
「お前がもし俺の事を許してくれるなら前みたいにそばに居させてくれないか?」