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恋物語  作者: まきまき
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旅立ちのうた 2

バタバタと廊下を走る足音をたてて、息を切らしながら賢が慌てて部室に入ってきた。

「今、文化祭実行委員会の奴に文化祭でライブして欲しいって言われたんだけどうする?」

どうする?なんて聞いてるけど、賢の中ではやるって答えが返ってくるのがわかっているような嬉しそうな顔で言った。

「もちろんやるよな?」

「当たり前だろ」

と僕と佑規が盛り上がっていると

「綾子はどう思う?文化祭なんかでやるのは嫌?」

と武志は綾子に問いかけた。

「私?もちろん出るよ。…でも、学校でも人気者の男ばかりの中で1人だけ女でどんな目で見られるか…」

「なに言ってんだよ。音楽やるのに男も女も関係ないだろ?」

と僕が言うと

「でも…」

と綾子は少し暗い顔をした。

「お前の作ったら曲聞いたら皆スゴすぎた驚くし、ギター聞いたら誰も文句をなんて言えなくなるぞ」

「そうだよ。今お前の事を妬んでる女たちを驚かせてやろうぜ!」

と僕たちは言った。


綾子は僕たちに直接には言わないけど、転校生だから親しくなった友達もまだいないみたいだっし、自分たちで言うのもなんだけど僕たちのバンドメンバーはそれぞれ女の子に結構モテてるから、新しく入った転校生のクセに近付いて…って感じで妬まれたりもしてるみたいだった。

だから、全校生徒に綾子を妬んでる奴に綾子の演奏を聴かせて綾子のスゴさを見せ付けてやりたいって僕たちは思っていた。

だから、文化祭に出れるのは絶好のチャンスだった。


その日から僕たちの練習は今までに増して気合いが入ったし、

「せっかくだから、綾子とヒデに新しい曲をもう1つ作ってもらおうぜ」

って話にもなった。

「綾子今週中に作れそう?」

と僕が聞くと、

「とりあえずやってみる」

と言って綾子はギターに向かった。


その日から綾子は部活が終わると、時間を気にして急いで帰るようになった。

「あいつ、最近何急いでんだ?」

と僕が言うと

「…なんかさ、曲が出来ないみたいで焦ってるみたいなんだよ」

と武志が言った。

「あんなにスゲー才能あるやつでも出来ない事ってあるんだな」

と僕が言うと

「な、綾子の様子見に家に寄っていこうって思ってたんだけど、ヒデも行く?」

と武志は僕の事を誘った。

「でも、突然俺まで行ったら迷惑じゃない?」

と僕が言うと

「大丈夫。でも、綾子の部屋に行ったら驚くぞ」

と武志笑った。


武志の言う通りだった。

綾子の家は高層マンションで、入口にフロントがあってロビーと言うかラウンジみたいのもあって、庶民の俺にはマンションじゃなくてホテルに来たのかと錯覚してしまう所だった。

「おい、あれってunderのアユムじゃね?」

と僕が小声で言うと

「本当だ。ここに住んでんだな」

と武志は言った。

昔、武志の親父と綾子の親父が一緒に働いていたって言ってたけど、芸能人が住んでるようなこんなマンションに住んでるなんてあいつの親父はどんな仕事してんだよって思った。

エレベーターで38階の綾子の家の前まで着くと武志はインターホンを鳴らした。

「はい?」

「あ、武志だけど。ヒデが綾子の家に行きたいって言うから連れてきたんだけど…」

「…ヒデ?……ちょっと待って」

とインターホン越しにいかにも迷惑そうな声をした綾子がドアを開けてくれた。

綾子はドアを開けると僕を見るなり

「あんたやっぱり女なら誰でも良いわけ?やらしい」

と言った。

「な…」

「まぁまぁ、とりあえず入らせてもらおうぜ」

と言って武志は僕の腕を掴んで部屋に入れた。


「お邪魔しま…」

僕はリビング入るなり驚いた。

「スゲー広い。夜景もメチャクチャキレイだし」

と恥ずかしながらはしゃいでいると

「子ども」

と言って綾子は笑った。

「うるせぇな。どうせ庶民の俺には縁の無いような所だよ」

と言うと

「庶民…いいじゃん。羨ましいよ」

と綾子は少し悲しそうな顔をした。

いつの間にかキッチンに立ってる武志が冷蔵庫を開けて

「晩飯食った?俺たちメチャクチャ腹へってるんだけど、何か作っていい?」

と言った。

武志、料理するのか?と一瞬不安になったのに気付いたのか

「大丈夫。俺、料理得意なんだよ。綾子も俺の料理結構食べたこといるよな?」

と言って冷蔵庫から玉ねぎを取り出した。

「うん。武志の料理は下手な店で食べるより美味しいよ」

と綾子が言うと

「だから、二人はほら話でもして待ってて」

と武志は他の食材も取り出していた。

「話でもって…。そういえば綾子の両親はまだ仕事?」

と聞くと、

「さあ、両親はイギリスにいるからんからわかんない」

と綾子は言った。

「えー!じゃ、おまえってここに一人暮らしなの?」

と僕が驚くと

「そうだよ」

といかにも当たり前みたいな顔をして綾子はこたえた。

「そんな事より、ちょっと来て」

と綾子は言って僕を隣の部屋に呼んだ。

そんな事よりって…こんなに所に1人で暮らしてるのがそんな事なんて言葉で終わるよう軽い事なのか?って思いながら僕は隣の部屋に入った。

「…スゴい」

僕は部屋中を見渡した。

「マジスゴい」

その言葉しか出て来なかった。

その部屋にはところ狭しとギターが何本も置かれ、キーボード、パソコン、ミキサー、オーディオと大きなスピーカーとラックにはたくさんのCDとノート…ソファーの上にはアンプに繋がれたギターが無造作に置かれていた。

「曲が浮かばなくて…あんた何かアイデアない?」

と言って綾子はソファーに座りギターをならし始めた。

「…綾子って何者なの?」

「は?」

「だってこんなにマンションに1人で住んで、こんなスタジオみたいな部屋持ってて、普通の女子高生じゃないだろ?」

「そうかな?私はただの音楽好きな人間だけど。あ、ギターは好きなの弾いていいからね」

と言いながらも綾子はギターをならしていた。

ただの音楽好きな人間って言ってもこんな部屋作れないだろ?と思いながら、僕はスゴくキレイな青色をしたギターを手に取った。

「これ弾いてみていい?」

「いいよ」

僕は青色のギターを弾いてみた。

「それ、イギリスにいた頃に一番気に入ってたギターなの。良いことも楽しいことも嫌なことも全部知ってる一番の親友なんだ」

と言ったあと、綾子はギターを弾く手を止めて

「武志にも言ってないんだけど、私は日本に逃げてきたんだ」

と言った。


それから綾子は何も言わずまたギターを弾き始めた。

僕は綾子の言葉が気になりながらも僕が一番好きなロックバンドの曲を弾き始めた。

「へたくそ」

と綾子は笑った。

「うるせぇよ。まだ練習中なんだよ」

と僕が言うと

「その押さえかたがダメなんだよ。ほらこうやって…」

と綾子は僕の指を触りコードを押さえさせた。

あのクソ生意気な綾子なのに、不意に指を触られて僕はドキドキしてしまった。

「ほら、こっちの方が押さえやすいでしょ?」

「あ、うん」

「で、次のコードに移るときも」

とまた僕の指を触りコードを移動させた。

「早く移れる」

今日はいろんな事がありすぎて、僕は頭が混乱してるのかもしれない。

頭が混乱していろんな出来事を処理出来てなくて、そのせいで綾子にドキドキしたりしているんだ。

そうじゃなかったら、綾子にドキドキする事なんて女の子として見るなんてこと無いんだから。


「ちょっと、話聞いてる? 」

「え?あ、聞いてるよ」

綾子の不機嫌そうな声で僕は我に帰った。

「ま、一度にいろんな事を教えてもダメたがら、今日はこのくらいだね。さ、曲作らなきゃ」

と言って綾子はまたギターに向かった。

相手は綾子だぞ。そりゃ、ギター上手いしスゲー曲を作るけど、ドキドキはないだろ?

…でも、よく見ると結構…いやいや結構ってなんなんだよ。あり得ないから。

と思いながら、適当にギターを弾いていたら

「それ!」

と綾子が大きな声をだして

「ね、もう一度弾いてみて」

と目を丸くして言った。


「♪♪~」

僕が鼻唄を歌うとそれに合わせて綾子はギターを弾いた。

そしてノートを出してきて譜面を筆記してまたギターを弾いて筆記して…と言う作業を繰り返していた。

あまりにも真剣な顔で曲を作っているので話し掛ける事も音をたてて邪魔しないように僕は本棚を見たり、楽器を見たりしていた。

「?」

シンセイザーの下に割れているCDケースが数枚あった。

気になってそのケースと見てみると、僕がさっき弾いた大好きなイギリスのバンド『Next world』のCDだった。


『Next world』は4人組のバンドで曲もボーカルのジョージの声もスゲー格好良くて新人ながらにグラミー賞候補にまでなったバンド。


どうしてみんな割れてるんだろ?

そんなに嫌いならCD買わないだろうし…。

気になったが、真剣な顔で曲を作っている綾子の気を散らす訳にもいかないし。

「ちょっと暇そうに人の部屋ジロジロ見てないで曲出来たから聞いてみてよ」

と綾子は僕に言った。

「あ、うん」

綾子の側に行き綾子が弾く曲を聞いた。

さっきまでの真剣な顔とは違い、子どもが新しいオモチャを買ってもらったときみたいに嬉しそうな顔をしてギターを弾いている綾子。

「こんな感じなんだけどどうだろう?」

と瞳を輝かせながら綾子は聞いてきた。

「良いけど…。もし俺なら…。サビを強調させるために、サビの前まではもう少しおとなしい感じと言うか優しい感じに持ってきてサビの手前で思いっきり転調させて…」

と僕はギターを手に取り弾いてみた。

が、綾子がじっと僕の方を見ていたので

「あ、ごめん。ド素人と俺が思い付いた事だから、気にしないで。綾子が作ったのでOKだと思うよ」

とギターを置こうとすると、

「待って、確かにあんたの言ってる事の方がインパクトある。あんた、ギターは下手くそなのに曲作る才能はスゴいんだね」

と僕を誉めてるのかけなしてるのか分からない言葉を言いながら鼻歌を歌いながらノートに何かを書き始めた。

「バラードっぽく始まってサビで激しくなって間奏はバラードになってそのままAメロに…で、2番のサビが終わったら間奏をバラードっぽくして中盤から激しくしてそのままサビでエンディングは超寂しい感じ」

そう言いながらノートに何かを書き終えると、

「あんた、ギター以外に何か出来る?」

と僕に聞いてきた。

「中学までやってたからピアノなら少し…」

「じゃあ、私の弾くのに合わせたアドリブで良いからそこのシンセイザー弾いてみてよ」

と綾子は言った。

僕がシンセイザーの前に座ると綾子はギターを弾き始めた。

さっき出来上がった曲とは違いとても優しいけど切なくなるようなメロディーだった。

僕はそれにあわせてシンセイザーを弾いた。

なんだろう?

今まで感じた事のない感覚だった。

綾子のギターに合わせて適当に弾いてるだけなのに、スゴく楽しくて気持ちがよかった。

突然、綾子が演奏を止めると

「スゲー!」

と武志の声がした。

「飯出来たから呼びに来たんだけど、ドア開けたら二人の演奏が聞こえてきて…スゲーな。もっと聞きたいよ」

と武志は興奮ぎみに言った。


「でしょ?これヒデが考えたんだよね」

と綾子は初めて僕の名前を呼んだ。











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