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09

加代子は目を覚ました時、自分が何処にどのような状況でいるのか、わからなかった。

「もう起きたんだ?」

正人の声が聞こえ、加代子は頭を覚醒させる。

そして今は打ち上げ中である事や30分程眠ってしまったようだという事を理解した。

その時、加代子は部屋の中を見回し、ほとんどの者がいなくなっている事に気付く。

「打ち上げ終わったの?」

加代子の質問に正人は軽く笑う。

「いや、まだ続いてるよ。さっき外で事故があったみたいで車が燃えてるんだよ。みんなそれを見に行ってるよ」

加代子はまた部屋の中を見回し、司の姿がない事に気付く。

今もまだ酔っているが、眠ってしまう前に司がそばにいた事は覚えている。

それがいつの間にかいなくなってしまっていて、加代子は寂しい気分になった。

「司も外にいるの?」

「うん、多分そうじゃないかな」

加代子は今夜、司と2人きりになりたいと思っていた。

その思いがまた大きくなり、加代子は溜め息を吐く。

「加代子、司と一緒にいて無理してない?」

そんな質問を投げ掛けた正人の表情は加代子を心配しているのか不安げなものだった。

それに対して、加代子は笑った。

「そんな顔しないでよ。私は別に……」

正人の言葉を否定しようと思った加代子だったが、考えてみれば正人の言う通りかもしれなかった。

少なくとも正人を含む、周りからそのように思われるのはしょうがないと感じている。

特に正人とは中学からずっと一緒で、幼馴染みと言う程ではないがお互いの事をよく知っている。

加代子が今までしてきたものとは全く違う恋愛をしている事も正人はわかっているらしい。

「……今の私じゃ司と釣り合いが取れないから、もっと頑張らないといけないし」

今までこうした話をした事はなかったが、加代子は正人に弱音を吐いた。

そうした理由について酔った勢いというものが多少ありもしたが、それ以上に加代子の中だけでは抑え切れない程、思いが大きく膨らんでいたという事がある。

「加代子、この先も司と上手くやっていけるの?」

その質問に加代子は少しだけ考える。

ただ、加代子の考えている内容は正人の質問に対する答えではなかった。

加代子は恋愛について鋭い部分があり、誰が誰に好意を持っているかは大体わかってしまう。

そのため、正人が自分に寄せている思いにも気付いている。

それは日常を通して1つ1つの動作から感じられた。

正人は恋愛上手ではないようで直接思いを伝えてきた事はない。

ただ、アピールのような事は頻繁にしている。

例えば、好きな人がいると相談してきて、どんな人か尋ねると加代子の特徴を挙げる。

自分達が付き合ったらどうなるかという仮定の話を振る。

そして今のように恋愛の相談に乗ってくる等だ。

最もそれらのアピールに対して、加代子はずっと気付かない振りをしている。

理由としてはただ単に面倒だという事もあるが、正人とは今のような関係のままでいたいと思っているからだ。

今も含め、時々相談に乗ってもらい、加代子はそれなりに助かっている。

最も自分に思いを寄せているためか、正人のアドバイスはいつも別れるように言う事がほとんどだ。

しかし、逆にそれが加代子にとっては助かるのだ。

「無理してばかりだと持たないと思うし……」

「でも、司のために頑張ろうと思って、私はどんどん変われてると思うよ?」

性格なのか、加代子は周りから反対されるとそれに対して反発したくなるのだ。

そしてどんなに辛い思いをしていたとしてもその中にある良い事を探しては反論し、結果的に何のアドバイスも聞かない。

そうした事を繰り返し、少なくとも正人のアドバイスによって加代子が彼氏と別れた事は1度もない。

加代子が彼氏と別れる時は正人が諦め、何も言わなくなってからだ。

ただ、そんな邪険な扱いをしているにも関わらず、今でも自分を好きでいるらしい正人に対して、加代子は感謝の気持ちも持っている。

「確かに加代子は変わったと思うし、これからも変わると思うけど?」

「そうでしょ? だから司と一緒にいて無理しちゃうのはしょうがないんだよ!」

「でも……」

今日もいつもと同じで段々と正人の口数が少なくなっていき、数分話しただけで諦めたようだった。

そんな正人との話を終えたところで、外に出ていた者が戻ってきた。

どうやら警官がやってきたらしく、未成年の飲酒を注意される前に逃げてきたとの事だ。

考えてみれば、車が燃えているところを実際に見た事は1度もない。

映画やドラマで見た程度だ。

話によると火は既に治まりつつあるようで、加代子は見に行かなかった事を少しだけ後悔した。

ただ、そんな後悔よりも気になる事があった。

「司は?」

加代子の質問に他の者はそれぞれ周りに目をやる。

「いないね」

「トイレじゃない?」

全員、心配していない様子だったが、加代子は何かあったのではないかと心配になった。

そして携帯電話を取り出し、電話を掛けた。

「心配し過ぎだよ」

正人がそんな事を言ったが、加代子は一言でも司の声が聞きたいと思い、電話を耳に当てた。

しかし、そんな加代子の願いも叶わなかった。

「もしもし?」

電話に出た声は司の声ではなかった。

「今、この携帯を電車の中で拾ったんですけど……」

「電車?」

何処に向かう電車か確認したところ、司の自宅に向かう電車ではなかった。

加代子は簡単な事情を聞いた後、その人が携帯電話を駅員に渡すとの事だったため、電話を切った。

「どうしたの?」

「うん……」

加代子は混乱してしまい、何も言えなかった。

その時、加代子の中で司に会いたいという思いだけが大きくなっていった。

そして、気付いた時には部屋を飛び出していた。

そのまま廊下を走り、加代子は大学を出る。

話に聞いた通り、そこには燃えた車があったが、加代子は構う事なく通り過ぎる。

「あ、小泉加代子さんですよね?」

しかし、そんな声を掛けられ、加代子は足を止める。

「私、佐藤サトウと言います。刑事をしていまして……」

佐藤は警察手帳を取り出し、見せてきた。

「神野司さんはあなたの恋人ですね?」

「……そうですけど?」

刑事からこんな質問を受ける理由がわからず、加代子はますます混乱してしまった。

「突然で申し訳ないですが、彼の事で伺いたい事があるんです。一緒に来て頂けないでしょうか?」

「司に何かあったんですか?」

「それも含めて移動しながら話します」

加代子はろくに働かない頭で考えた後、佐藤の言葉に従う事にした。

車の運転席には既に女性が座っていた。

「彼女は鈴木スズキです」

加代子が後部座席に座り、佐藤もその隣に座ると鈴木は車を走らせた。

そこで加代子は少しだけ頭が働き、具体的に何が原因によるものかはわからないが、違和感を覚える。

「確保出来たね」

「これで後は彼を捕まえれば良い。彼女がいれば言う事を聞くだろう」

そんな会話を2人が始め、加代子は確信した。

「すいません、降ります!」

ここから逃げないといけない。

加代子の頭の中にはその考えしかなかった。

「いや、来てもらう」

突然、加代子は口にガーゼを当てられる。

そのまま睡魔に襲われ、加代子の意識は遠のいていった。

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