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pHの考えは単純だった。
自分の出来る事をするべき事と決めた後はどんな手段を用いてでも純粋にそれを実行する。
そうしてpHがやろうとしていた事は大きく分けて3つだ。
まず1つ目はイレイザーを壊滅させる事。
2つ目はシヴァウイルスのデータを手に入れ、高野の娘である凛に渡す事。
そこまでは既に行った。
そして3つ目は死の間際、目の前にいた死神と思われる人物を殺す事だ。
加代子が言っていた通り、pHの記憶を持った事でpHの考えも司のものになっていた。
つまり、今司が考えている事は1つ。
死神である司を殺すべきだという考えだ。
しかし、自ら命を絶つ気はなかった。
その理由は自分を殺すべき人物がいる事を知っているからだ。
自分を殺すべき人物、それは凛だ。
今、凛は司を殺す事が出来、それは凛のするべき事でもある。
司はそう考えたため、銃を凛に渡したのだ。
そして凛は銃を撃った。
銃声は長い反響音を残し、それも消えたところで静かになった。
しかし、司は撃たれていなかった。
ゆっくりと司は振り返る。
そこにはテーブルに銃を向けた凛がいた。
先程までテーブルにはシヴァウイルスのデータが入っていると思われるSDカードが置かれていた。
しかし、今はそこに穴が空き、SDカードがなくなっていた。
「これが私のするべき事よ」
凛は司が残した1発の銃弾を使い、シヴァウイルスのデータが入ったSDカードを撃ったのだ。
「これを生み出したから父は死んでしまった。これを残すという事はこれのために父が死んだのはしょうがないと認めるようで嫌だったのよ」
「……死神としての記憶を認識出来るようになれば、俺はまた無差別に人殺しを繰り返す事になる。ここで止めなくて良いのか?」
pHの考え方を持ったものの、司はその中で理解出来ていない事がある。
それは人を殺す事に抵抗を覚えるという部分だ。
進んで人を殺そう等とは思っていない。
しかし、自分がするべき事をする過程で人を殺しても司は何も感じていない。
ここに来るまでに多くの人を殺したが、pHのように心を痛める事はなかった。
そして、もしも死神の目的が単純に人殺しだったとしたら、その記憶を思い出すと同時に司は無差別に人殺しを繰り返すようになる。
だからこそ司は今、記憶を思い出す前に死ぬべきだと考えているのだ。
「次に会った時、俺は凛を殺す」
凛はその言葉を対し、真剣な表情を見せる。
「だったら……次に会った時、私は司を捕まえる」
凛の目は決意に満ちていた。
「そして何故父を殺したのか聞くわよ。それを目的に私は強くなるから」
それは凛からの宣戦布告だった。
「わかった」
司はそれだけ言った後、笑った。
そして凛に背を向けると司はその場を後にした。
いつの日か2人はまた会う事になる。
それまで自分を生かす。
今はそれが司のするべき事になっていた。
司は上がってくるエレベーターの前に立つと落ちていた銃を拾い、構える。
エレベーターのドアが開くと、そこにはまた司の命を狙う者達がいた。
司はそれを確認すると共に自分を生かすため、銃を撃った。