07
司と凛は大学を出ると足早に移動した。
「車で移動するわよ」
そう言うと凛は前を指差す。
司はその指差した先に目をやり、車がある事を確認する。
「乗って」
凛は運転席の方へ行くとドアを開ける。
同時に司は助手席の方へ行こうとしたが、そこで違和感を覚えた。
そしてその違和感の正体を見つけると、凛が乗った運転席の方へ回る。
「降りろ」
司は凛の腕を引き、無理やり車から降ろすと、その場に伏せる。
同時に銃声が鳴り響き、車のガラスが割れる。
「もう来てるの!?」
その時、物陰から3人の男が銃を持って出て来た。
2人は車が陰になるよう、移動する。
「何が起こっている?」
「思ったよりも早く来たみたいね」
司は顔を覗かせ、男達が近付いて来ている事を確認する。
その時、司は何かが地面を転がる音を聞いた。
「車から離れろ」
司は凛を突き飛ばした後、地面を転がるようにして車から離れる。
同時に車は大きな音を立て爆発した。
「……何?」
「爆弾だ」
手榴弾のような物を車の下に投げ込まれ、それが爆発したと同時に車のガソリンに引火したらしい。
はっきりとした理由はわからないが、司にはそれがわかったのだ。
そして爆発に巻き込まれる事を阻止しただけではまだ安全でない事もわかっていた。
銃声が聞こえ、司達は火を上げている車が陰になるよう、また移動する。
「このままじゃ逃げられない。応戦出来ないか?」
「銃があるわよ」
凛は銃を出すと構える。
しかし、その手は震え、しっかりと照準を合わせられないようだ。
そこでまた銃声が聞こえ、2人のすぐ近くで地面に穴が空いた。
「借りる」
司はいつまでも銃を撃つ気配がない凛から銃を取る。
そして車の陰から飛び出すと、3発だけ撃った。
その銃弾は3人に対して1発ずつ手に持った銃に当たり、銃を弾き飛ばした。
「走れ」
男達が銃を拾っている間に2人は立ち上がり、走り出す。
司は途中で振り返るとまた3発だけ撃ち、銃を弾き飛ばす。
しかし、この銃はリボルバーで6発しか装填出来ない作りだ。
つまり既に6発撃ってしまい、弾切れの状態だ。
そのため、司は銃を仕舞った。
「こっちだ」
司は凛と共に地下鉄へ続く階段を降りる。
「改札を飛び越えろ」
そのまま2人は切符等を通す事なく改札を通過する。
司は大学まで電車で通っているため、定期券を持ち歩いている。
しかし、今回に限って司は定期券を使わなかった。
その理由は時間のロスを防ぐためと、もう1つ理由があった。
「おい、待ちなさい!」
無賃乗車になる司達を止めようと駅員が出て来たが、その直後に3人の男達も改札を飛び越えて通過した。
「待ちなさい!」
当然、近くにいた駅員は男達を止めようと前に立つ。
結果的に駅員は殴られてしまい、男達を止められなかったが、僅かな時間だけ稼いでくれた。
その間に司は電光掲示板で電車の時間を調べると目的の番線を決める。
そして階段を上り下りして目的のホームに着くと停車していた電車に乗った。
数秒後、電車の扉が閉まり、走り出した。
そこでホームに到着した男達が悔しそうな表情を浮かべているのを確認し、司は一息吐いた。
「確かに命を狙われているみたいだ」
司はそう言いながら凛の顔を見る。
凛は肩で息をしながら警戒するような目を向けている。
「銃を撃ったり出来たのは単なる偶然だ。何となく出来ただけで……」
司自身、何故そんな事が出来たのかわかっていない。
ただ、普通の大学生では到底出来ない事をやったという自覚はあり、言い訳のような事を伝える必要はあると考えていた。
しかし、そんな司に対して、凛は笑い出した。
「大丈夫よ。あんな事が出来た理由、私は知ってるから」
「え?」
何故自分の知らない事を凛が知っているのか司には意味がわからなかった。
「でも、まさか反対に助けられるとは思わなかったわよ。ありがとね」
その時、携帯電話が鳴り、司は確認する。
今度の電話も登録していない番号からだ。
そこで凛が険しい表情を見せる。
「携帯電話からこっちの位置を特定されるわよ。私もあなたの位置をその携帯電話から調べたの」
「それは君の電話も同じか?」
「これはこういう時のために用意していたものだからまだ特定されてないとは思うけど、さっきあなたに連絡してるから特定されるのは時間の問題ね」
「だったら置いていこう」
その言葉に凛は少しだけ驚いた様子を見せる。
しかし、すぐにまた笑った。
「確かにその方が良さそうね」
その時、電車が駅に止まる。
司と凛は扉の近くに携帯電話を置いた後、電車を降りた。
「この後は何処に行く?」
「ここで外に出てもしょうがないし、別の路線を経由しながら安全な場所まで移動するしかないわよ」
「安全な場所なんてあるのか?」
「それはちゃんと用意してあるから安心して」
凛はそこで別の携帯電話を取り出す。
時刻表等を調べているのか、凛は忙しく操作をし始める。
「携帯電話、2つ持っているのか?」
「正確には3つよ。2つ捨てちゃったからこれが最後」
そこで司は銃を持ったままでいる事を思い出す。
「これは返しておく。弾が切れているからリロードしておいた方が良い」
司が差し出すと凛は銃を受け取り、弾を交換し始める。
ただ、司の目には凛の動作がおぼつかなく見えた。
司は凛という人物の事をまだほとんど知らないが、自分を殺そうとやって来た者達と近い位置にいる人なのだろうと考えている。
しかし、年齢は自分と同じぐらいに見え、こうした事に不慣れなようにも感じられる。
「それじゃあ行くわよ」
弾を交換し終え、凛は銃を仕舞いながら先へ行ってしまった。
司は自分が凛から逃げる可能性を考えていないのかと思いながら、今はついて行く事にした。