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司は頭に器具を付けられていた。

「リライトはすぐに終わるよ。少しの間、夢を見るようなものだからね」

そんな説明を聞かされた後、男が機械の電源を入れる。

司は目を閉じると軽く深呼吸をする。

同時にいつもと同じように目の前が真っ白になった。


彼はそのままゆっくりと背を向けた。

「あんた、pHだよね? 目当ての物はここにねえみたいだし、俺は行くよ」

「お前は何者だ?」

「名乗る程の者じゃねえよ。それじゃ機会があったらまた」

自分が銃を撃たないと確信しているのか、彼は背を向けたまま行ってしまった。

「君もシヴァウイルスを狙いに来たのか? 悪いがデータも含めて全て消去したよ」

そう話す男は高野俊之で間違いないようだ。

「私の目的はシヴァウイルスをデータも含め全て抹消する事と、あなたの殺害です」

高野は観察するような目で自分の事を見ている。

「私を殺す理由は今後、私がシヴァウイルスを生み出す危険があるからか?」

「その通りです。私はイレイザーという組織に所属しています。そしてイレイザーはあなたを殺すように指示を出してきました」

「そうか、自分の死は覚悟していた。1つだけ心残りはあるが……しょうがない」

高野は自分の死が間近にあると知っても堂々とした態度だ。

そんな高野の様子を見て自分がしようとしている事は正しいと確信を持てた。

「私はあなたを殺しません」

その言葉に高野は驚いた表情を見せる。

「イレイザーはあなたを殺すように指示しましたが、私はあなたを殺すべきではないと考えています。なので殺しません」

「良いのか?」

「自分の意思で決めた事です。良いに決まってるじゃないですか」

高野は笑い出した。

「君は面白いな」

「これからあなたの死を偽装します。この先、あなたは身分を偽り、生きていく事になります。その覚悟はありますか?」

質問はしたが、既に高野の答えはわかっている。

自らの死を覚悟していたのであれば、この質問の答えはイエスに決まっている。

しかし、高野は何か悩んでいる様子を見せている。

「どうしました?」

「……君を信用して言おう。出来る事なら娘と一緒にいたいんだ」

「え?」

高野に娘がいる等、全く知らない事だ。

「娘がいたんですか?」

「私も最近知った事だ。会ったのもまだ1回だけだが……」

イレイザーの標的になっている高野を死んだ事にするのは簡単だ。

それは自分が殺害したという事実を偽装するだけで良いからだ。

今までも何度か行い、全て成功させている。

しかし、その存在すら知らなかった高野の娘となると難しい。

少なくとも自分が殺害した事に偽装してはイレイザーが不審に思ってしまう。

つまり高野の娘に関しては事故死のような形の偽装が必要だという事だ。

「……わかりました。やってみます」

しかし、高野の険しい表情を見れば、そうとしか言えなかった。

「ありがとう」

高野は嬉しそうに笑顔を見せる。

その直後、高野は自分の後ろに顔を向け、何か驚いたような表情を見せる。

それが何を意味しているか理解すると共に後ろに向けて銃を撃った。

部屋の出入り口付近には確かに誰かがいた。

しかし、振り向いた時には既に部屋を出て行ってしまったようで誰もいなかった。

「さっきの人物ですか?」

「いや、違った」

「もうすぐガーディアンという組織の者が来る危険があります。早く移動しましょう」

部屋の外で待ち伏せされているかもしれないと考え、慎重に部屋を出たが、誰もいなかった。

それでも警戒を解く事なく研究所を後にすると車に乗り、その場を後にした。

「1つだけ良いか? 多分、自分では回収出来ないから君に託す」

「何ですか?」

高野は険しい表情で口を開いた。

「シヴァウイルスのデータは残ってる」

「え?」

「ただ、来年の7月7日までは回収出来ないんだ」

「どういう事ですか?」

「スターダストタワーを知ってるか? 7月7日だけ使用出来る金庫が置いてあるんだ」

そんなものがあるという話は何処かで聞いていた。

「まさかそこにあるんですか?」

「IDは娘の名前だ。金庫を開けるためのパスワードは07070321……娘の誕生日と私の誕生日を併せたものだ」

「何故そこに残したんですか?」

高野は質問に答えず、顔を下に向けてしまった。

「わかりました。何とかします」

今はそれしか言う事が出来なかった。

それから車を止め、隠れ家に戻ったところでやっと一息吐いた。

「ここは何だ?」

「隠れ家です。誰もこの場所を知らないので安心して下さい」

汗をかいたため着替えをしようと服を脱いだ。

そして、服の背中についていた発信器に気付いた。

咄嗟に銃を持つと入り口に向ける。

同時に入り口が開き、男が入ってきた。

「奥の部屋に入って下さい!」

これは完全に自分の油断だった。

男が何者かはわからないが、その気配から危険な存在である事は明らかだ。

そんな者をここに連れて来てしまったのだ。

銃を向けても男は止まろうとしなかったため、照準を合わせると銃を撃った。

しかし、男が寸前のところで体を横に移動させたため、銃弾は当たらなかった。

自分が銃弾を外す等、ありえない事だ。

狙いが甘かったと考え、すぐにもう1発撃った。

それも男に当たらなかったところで気付いた。

この男は銃弾を避けているのだ。

あり得ないと思いたいが、これではいくら当てようと撃ったところで全て無駄になる。

男は距離を詰めると腕を振った。

一瞬、自らが持っていた銃が飛んでいるのを見て、銃を弾き飛ばされたと思った。

しかし、一緒に自らの指も飛んでいるのを確認したところで右手に激痛が走る。

右手を見ると人差し指から小指までがなくなっている。

咄嗟に後ろに下がると左手で新たな銃を取り出し、撃った。

今度は当てる事を目的とせず、少しでも距離を離そうと男の進路を塞ぐように弾幕を張った。

そのまま高野が待つ部屋に入るとドアを閉め、鍵を掛けた。

「隠し扉から外に出られます。そこから逃げましょう」

「いや、君だけで行ってくれ」

「え?」

「あいつの狙いは私だ。私がここに残れば君は逃げ切れるはずだ」

自分は高野を助けるために来たようなものだ。

そのため、この提案は本来受けるべきではない。

しかし、今は高野の言う通りにする事が最善策だと思った。

今ここにやって来た者に自分は敵わない。

そして高野を連れて逃げる事も不可能だと思っている。

「娘の名前は足立凛だ。頼んだぞ」

「わかりました。シヴァウイルスのデータを回収したら……その娘に渡します」

本来なら自分の手で破棄するべきかもしれないが、自分はこうしようと思った。

「ありがとう……」

高野の笑顔を見れば、こうした自分の判断は正しいと思えた。

その時、ドアが爆破された。

どうやら手榴弾か何かを使ったらしい。

咄嗟に隠し扉を開けたところで男が部屋に入ってきた。

「早く逃げろ!」

そう叫ぶ高野を男はナイフで数回切り付けた。

しかし、そうして付けられた傷は致命傷になるものではなかった。

自分はナイフを使わないが、記憶が確かであれば……動きを止めるための傷の付け方だ。

そこで男の意図がわかった。

男は高野を足止めして逃げられなくした上で先に自分を殺そうとしているのだ。

咄嗟に逃げようと隠し扉を抜けたが、足を切られてしまい、その場に倒れた。

その時、男が自分の頭に触れた。

そこには記憶を常にデータとして保存出来るよう、手術を受けた際に出来た傷跡がある。

「記憶を奪うつもりか!?」

奪ったところで暗号化されているため問題ないと思いたいが、この男は何をするかわからない。

この男の正体は恐らく死神だ。

確実に野放しにしてはいけない存在である事は間違いない。

しかし、自分は今この男に殺されようとしている。

その前に何か出来る事はないだろうか。

今出来る事と言えば……せめてこの男の顔を記憶に焼き付ける事ぐらいだろうか。

そんな事をしてもどうにもならないが、顔を上げ、男の顔を見た。

次の瞬間、頭にナイフを当てられ、それが深く刺さっていく感覚があった。


司は目を開けると前の壁に焦点を合わせる。

「何か思い出したかな?」

「はい……」

司は立ち上がると男の腰にあったナイフを手に取り、2人の男の首を切った。


pHの記憶が途切れる直前。

pHは男の顔を見たが、pHにとっては見覚えのない顔だった。

しかし、司にとってはよく知る顔だった。

pHが最後に見た男の顔は……他の誰でもない神野司のものだった。

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