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凛はイレイザーの本拠地を後にし、ゲートを抜けたところで背伸びをした。
まだ全てが解決した訳ではない。
父が生み出したシヴァウイルスが本当に残されているか。
もしも残されているとしたら何処にあるか。
それが凛にとって1番の疑問になっている。
それだけでなく、零次がどういう形で関わっていたのかもわからない。
もしかしたら零次が父を殺した犯人の可能性もある。
とはいえ、そうした事を考えるのは一旦止める事にした。
これからはイレイザーが真相を解くために動き出す。
納得はいかないものの代わりに自分は休みをもらった。
そのため、凛はここで一息吐く事にしようと思ったのだ。
その時、1台のバイクが凛の近くに止まる。
「彼女可愛いね。これからデートでもしね?」
その声と言葉で凛はこの男の正体に気付いた。
そして銃を取り出すと男に向けた。
「おいおい、ナンパされてそんな対応してたらもてねえよ?」
「大丈夫、あなたにしかこんな対応しないから……」
凛がそう言うと男はヘルメットを外す。
「俺だけ特別扱いなんて嬉しいね」
凛の予想通り、彼は零次だった。
今まで零次は様々な変装をしていたが、どういう意図か今は初めて会った時と同じにしているようだ。
「バイクから降りて」
「良いよ。凛ちゃんと話したい事もあったしね」
零次はすんなりとバイクを降りる。
それがあまりにも素直だったため、むしろ凛は不審に思ってしまった。
「父を殺したのは零次なの?」
そこで零次は笑みを浮かべる。
「いきなり答えを言ったらつまらねえじゃん。凛ちゃんはどう思ってるの?」
「ふざけないで!」
凛は思わず叫んでしまった。
「ごめんごめん、答えるよ」
零次は慌てた様子を見せた後、真剣な表情になる。
「俺は殺してねえよ。司が言う通り、pHが来るより前に俺はあそこにいたし、情報を聞き出すために凛ちゃんの父さんに銃を向けてたよ。でも、pHが来て俺はすぐに逃げたんだよ」
「それ本当なの?」
「そもそも俺がそこで凛ちゃんの父さんを殺しちゃったとしたらpHはシヴァウイルスの情報を手に入れられなくなるじゃん」
「逃げた後、また奇襲を掛ける事だって……」
「信じられねえって言うなら俺はもう弁解しねえよ」
そこまで言われ、凛は零次の言っている事が本当なのだろうと思った。
そしてそれは凛にとって複雑なものだった。
零次の事をずっと信用していなかったものの、時には自分を助けてくれたりもした。
そんな零次が犯人ではないと知り、安心した気持ちがまずあった。
それからまだ真相に辿り着く事は出来ないのだと自覚し、残念な気持ちも生まれた。
「凛ちゃん、何も気付いてねえんだね」
「え?」
「司が言ってた事をよく思い出してよ。凛ちゃんの父さんが血だらけになって倒れていて、自らの手には血塗れのナイフが握られていたって。あの記憶、偽りの記憶なんかじゃなくて間違いなく凛ちゃんの父さんを殺した犯人の記憶だよ」
司がその記憶を思い出した時、pHが犯人だと考えた。
しかし、pHの思想等を司が思い出すに連れ、pHが犯人と考えると違和感を覚えるようになった。
そして自然とpHは犯人じゃないと考えるようになっていたが、司が話したあの記憶の真相は結局偽りの記憶であったのかどうか定かではない。
「やっぱり、pHが父を殺したって事?」
「それはねえよ。pHの考え方からして凛ちゃんの父さんを殺す訳ねえし、そもそもpHはナイフを使わねえはずだし」
零次も同じ考えだった事がわかったものの、凛はその先を考える事が出来なかった。
「誰が犯人なのよ? そもそもあの記憶は何なの?」
「わからねえかな? 司は犯人の記憶を持ってる。でも、それはpHの記憶じゃねえって事だよ」
そこまで言われ、凛の中にある考えが生まれた。
「司はpHの他に父を殺した犯人の記憶も持ってるって事?」
「そこまでだと半分正解ってとこかな。誰が犯人かまで特定しねえと」
零次の言葉から凛はさらに考えたが、やはりわからなかった。
「それじゃ俺が考える真相を話すよ。凛ちゃんの父さんを殺した犯人は裏の世界で死神と呼ばれている人物だよ」
「それって……」
「誠二は違うからね。あいつは死神を名乗ってただけだよ」
「じゃあ、誰なのよ?」
「犯人……というより死神の正体は……」
零次はもったぶるようにゆっくりとその先を話し始めた。