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司は凛と共にイレイザーの本拠地に連れて来られた。
当然、司がここに来た事は1度もないはずだが、やはりpHの記憶によるものか司はこの場所に見覚えがあった。
「お前達については協力してもらってる事になってる。抵抗しない限り拘束等をするつもりもないから安心しろ」
それから窪田に案内される形で奥へ進んだ。
そして目的地に着いたらしく、窪田はそこにあった部屋のドアを開けた。
「まだ来てないな……ここで待ってるように言われたんだ。入ってくれ」
窪田の指示に従い、司と凛は中に入る。
司はこの部屋に監視カメラや盗聴器がない事を確認してから話を切り出す事にした。
「時間がないので従いますが、イレイザーはシヴァウイルス……さらにはpHが持っていたとされるイレイザーの機密情報を手に入れたらどうするつもりなんですか?」
司の質問に対し、窪田は動揺しているかのような様子を見せる。
「……先に話した方が良いな。イレイザーは須藤誠二も確保するつもりだったんだ」
「え?」
凛は驚いた表情を見せる。
「どういう事ですか?」
「戦力として使えるなんて意見があったんだ。ガーディアンの佐藤によって殺されたから結局それは無理だったけどな」
「そんな事……」
凛は納得いかない表情をしている。
「上はそんな事をし始めてる状態だ。正直、この先何をするか俺もわからない」
窪田は複雑な表情でそう言った。
それは悪い結果になる事を予想しているからだろうと司は感じた。
「それでも今は言う事を聞いてくれ。協力しないと言えばイレイザーは即座にお前達を殺すつもりだ」
「凛は大丈夫なんですか?」
「そうだな……」
凛はイレイザーを裏切る形を取った。
今は結果的に司を守った事がイレイザーにとっても正解だったと判断されているようだが、裏切ったという事実は変わらない。
凛に対して何かしらかの対応がされるはずだと司は考えている。
「……さっき決まった事だが、凛を休ませる事になった」
「え?」
「これまで危険な状況下に置かれていたため、少し休ませるべきだという判断らしい」
「私は大丈夫です。零次を捕まえる必要もありますし……」
「もう決まった事なんだ。俺に言っても無駄だよ」
どうやら凛をこの件から離そうとする意志が働いているようだと司は考える。
凛もそう感じたようで納得のいかない表情を見せている。
「この先は俺達に任せろ。良いな?」
「……わかりました」
これ以上、逆らう訳にもいかないと考えたのか、凛は渋々了解した。
「だったら、私はこれで失礼します」
そしてこれ以上残っても未練が残るだけと判断したのか、凛はここで引く事にしたようだ。
「駐車場で健斗が待ってる送ってもらえ」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「凛」
司は凛に対して頭を下げる。
「ありがとう。凛のおかげで助かった」
「そんな事ないわよ。私は何の役にも立ってないから……」
「父親の件で真相がわかったら全て伝える」
その言葉に対して凛は特に何も言わず、頭を下げた。
それから凛は背を向け、部屋を出て行った。
「お願いしても良いか?」
窪田は真剣な表情だった。
「何ですか?」
「高野俊之と凛の関係については誰にも言うな」
「初めから言うつもりはないです」
情報収集能力に優れた零次ですら高野俊之に娘がいるという情報を得る事は出来ていなかった。
その背景には窪田が何かしら手を回していたのだろうと司は感じた。
そこで2人の男が部屋に入ってきた。
「この先は私達が対応します」
「わかった。じゃあ、俺は行く」
窪田は最後に軽く頭を下げた後、部屋を出て行った。
「それじゃあ、リライトを始めるよ」
「リライトは特定の記憶に対して行うと聞きました。どの記憶を対象にするんですか?」
司の質問に対し、男は少しだけ考える様子を見せてから答えた。
「pHが高野俊之の研究所を訪れた後を対象にリライトするよ。でも、その記憶をリライトする事によって関連するpHの記憶を全て認識出来るようになる可能性もあるよ」
「わかりました」
pHの記憶をリライトする事で何が起こるか予想は出来ない。
しかし、司は何の迷いもなくリライトを受ける事にした。