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ここは様々な高さの建物がいくつも繋がっている形だ。
それは上に立った事ではっきりと確認出来た。
多くの段差があり、一般人では移動するだけでも困難と思われる。
しかし、零次とそれを追う司は段差を飛び越えながらここを走っている状態だ。
通常、逃げている者よりも追っている者の方が有利だ。
今の状況も司は零次が進んだ場所を辿れば良いため、有利と言える。
それでも零次は追い付かれる事なく逃げ続けている。
何処を進むべきか考える必要があるため、その都度足を止める必要もあるはずで、零次の速度は異常と言える。
その事から司は零次がこうした事を全て予想していただろうと考えた。
誠二がここを通って逃げようとする事も、自らがここを使って逃げる際にはどのルートを進むかも全て零次は準備していたのだ。
イレイザーを呼んだ事も自らが逃げるチャンスを作るためだったと思える。
そこで司は集中力を高めると零次が目指す場所が何処かを考える。
それから零次の後ろをついて行くのではなく、その場所へ行くための最短ルートを割り出し、そこを進む事にした。
零次は後ろを振り返る事なく走っているため、司のそうした行動には気付かないはずだ。
そして、司は零次との距離を確実に縮めた。
しかし、足音から司が迫っている事に気付いたようで零次は振り返ると蹴りを繰り出してきた。
司は体勢を低くしてそれをかわす。
その直後、司が体勢を戻す前に零次は振り下ろすようにパンチを繰り出し、司は咄嗟に腕で抑えたもののその場に倒される。
そのまま零次から追撃を受けそうになったため、司は素早くその場を転がり移動する。
そして零次の攻撃を受けながらも司は少しずつ立ち上がり、体勢を整えた。
「チェックメイトだと思ったのにやるね」
「お前が高野俊之を殺したのか?」
「pHの記憶に聞けば良いじゃん」
零次のパンチを避けたところで司は反撃に転じる。
まず、左手で顔目掛けて軽いパンチを繰り出す。
その攻撃を零次は体勢を反らして避けたが、司はさらに一歩前に出ると右手でパンチを繰り出した。
既に体を反らしているため、零次が後ろに距離を取る事は難しい。
しかし、零次は体を横に捻るようにしてパンチをかわし、反対にボディを狙って右手を振っていた。
司は咄嗟に体を横にしてその攻撃をかわす。
その時、司はシューティングバトルで零次と対戦した時の事を思い出す。
そこで零次は後ろに下がると銃を取り出した。
しかし、司はその動きを読んでいたため、追い掛けるように距離を詰めると銃を弾く。
それから体をぶつけて軽く零次の動きを止めた後、銃を拾い構えた。
そこで零次は止まるだろうと思っていたが、予想に反して距離を詰めてきた。
そのため、司は零次の足を狙って引き金を引く。
しかし、銃弾が発射される事はなく、銃口から火が出た。
それによりこれがライターであると気付いたが、零次が繰り出した攻撃を避けられず、司はまともに受けてしまった。
「それじゃまたね」
零次は司が落とした銃の形をしたライターを拾うと行ってしまった。
司は追い掛けようとしたが、先程の攻撃で足下がおぼつかなくなっていたため、諦めた。