表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/77

63

須藤誠二は劣等感を持っていた。

一流企業であるセレスティアルカンパニーの社長、須藤誠の息子として生まれ、物心がついたときには自分が次期社長候補なのだと自覚して生きてきた。

しかし、勉強が出来る訳でもなければ、スポーツが出来る訳でもなく、誠二はただ社長の息子であるだけだった。

それから父には愛人がいた事を知った。

既にその愛人は亡くなっていたが、父は母よりもその愛人の事を愛していたと宣言し、その事にショックを受けた母は気を病んでしまった。

そして、自分の名に『二』の字が使われている理由を知ってしまった。

誠一と誠二は1歳も違わず、1ヶ月程、誠一が生まれたのが早かっただけだ。

ただ、それだけで自分は『一』ではなく『二』の字を名前に使われた。

しかし、誠一と会ってさらに思い知らされた事があった。

学校の成績は並だったが、誠一は頭が良く、ある目的を達成するための策を考える等、世の中を生き抜くための術を若くして熟知していた。

それだけでなく、高い身体能力も持っていた。

そして父は間違いなく誠二ではなく、そんな誠一の将来に期待していた。

母だけは唯一の味方だと思っていた。

しかし、気を病んだ母はいつしか誠二の事を欠陥品だと言い出し、それから自殺してしまった。

学生時代、誠二は友人が出来ず、いつも1人で過ごしていた。

ある日、誠二は偶然街で誠一を見掛けた。

そして誠一が友人に囲まれて楽しそうにしているのを見て、誠二は惨めな気分になった。

大人になり、誠二は父親の会社に入った。

そこで早くして昇格もしたが、周りからは親の七光りを受けているだけだと噂されていた事を知っていた。

それでも自分が次期社長だという事だけは信じていた。

誠一は大人になってからろくに働きもせず、いい加減な生活をしていると聞いていた。

そのため、その時だけは誠一に負ける訳がないと思っていた。

しかし、父が倒れ、余命が僅かだと宣告された時、病院には誠二だけでなく誠一も呼ばれていた。

そして、父は会社を誠一に任せたいと言い出したのだ。

当然、誠二はその事に納得出来る訳がなかった。

しかし、さらに誠一はそれを受けないと答えた。

誠二が喉から手が出る程欲しがっていた社長という名声をあっさり拒否したのだ。

そして誠一の答えを受け、父は自らの会社を潰してしまった。

それだけでなく、誠一の希望で児童養護施設を守るために多くの金を使ってしまったのだ。

父の死後、遺産として一生暮らせる程の大金を誠二は得た。

しかし、それはただ金目的の者を近付けるようになっただけで、一緒に虚しさを与えた。

自分は必要とされていない。

そう考え、自殺しようと思った事もある。

とはいえ、その勇気もなく、それなら殺し屋に自分を殺させよう等というバカな考えを持った。

そして、情報を探していく中で死神と呼ばれる存在の事を知ったのだ。

それは都市伝説のようなもので、実際には存在しないのだろうと誠二は考えた。

しかし、それは実際に存在しているかのような存在感を持ち、様々な情報が次から次へと入ってきた。

そうして調べていくうちに誠二は自らが死神になれないかと考えるようになった。

死神の事を誠二は必要悪だと感じた。

それはつまり、死神になる事は自分が必要とされるようになるという事だ。

それから誠二は殺人を始めた。

傍から見ればそうした考えは異常と言えただろう。

誠二自身、異常だと感じた事もある。

しかし、止まる事はもう出来なかった。

存在するかどうかもわからない死神に、誠二は知らず知らずのうちに魅入られてしまっていたのだ。

無関係に人を殺す行為そのものに抵抗を覚えない事はなかった。

繰り返していれば、次第に慣れていくと思ったが、それもなかった。

それこそ自分を狂わせなければ、殺人等出来なかった。

そして何処かのタイミングで冷静になった時、自らが行った罪の重さに押し潰されそうになった。

それでも全て死神になるための苦しみと考え、誠二は前に進み続けた。

しかし、それも先程誠一と対峙した事で止められた気分だった。

クライムプランナーのエースについては誠二も知っていた。

それが誠一だったという事で、死神を語っているだけの自分は敵わないとまず思った。

それだけでなく、誠一の言葉が誠二の胸に突き刺さっていた。

誠一は誠二の事を非難する事なく、むしろ期待してくれていたのだ。

表の世界で新たな企業を設立し、父に並ぶ事業家になる事すら期待していたのかもしれない。

そうした思いを先程の誠一から感じたのだ。

今はとにかく逃げている状態だ。

しかし、逃げ切る事等もう出来ない。

自分は多くの殺人を犯した犯罪者だ。

誠一が自分に望んでくれた事はもう出来ない。

後ろからは凛がついて来ている。

凛に初めて会った時、誠二は自分と同じだと思った。

それは裏の世界の人間ではないにも関わらず、裏の世界にいる人物だという事だ。

そして誠二は彼女に自分を止めてもらおうと考えた。

何故、そう考えたのか具体的にはわからない。

ただ自分と近い存在である彼女の手で止めてもらいたいと何となく思ったのだ。

そして、誠二は足を止めた。

凛は少しだけ驚いた様子を見せた後、足を止めた。

それから息を整えた後、凛は銃を向けてきた。

「早く撃って下さい」

「え?」

「私は過ちを犯しました。だからあなたの手によって殺されるんです」

凛は手を震わせ、銃を撃たない。

その様子を見て誠二は気付いた。

自分は凛を裏の世界に落としたいのだ。

既に自分は殺人を犯し、気付けば裏の世界の人間になってしまっている。

しかし、凛は恐らく人殺しをしていない。

だからこそ自分を殺させ、凛を裏の世界の人間にしたいのだ。

様々な手を使って凛を挑発していたのも、全てその目的のためだったのだ。

それは単なる八つ当たりに近いかもしれない。

とはいえ、既に狂ってしまった自分に何が正しいかの判断等出来なかった。

凛は唇を噛んだ後、それから口を開いた。

「いえ、あなたを捕まえます」

誠二にとってそれは期待外れの言葉だった。

「だったら良いです」

そして誠二は銃を取り出し、凛に向けた。

もう凛を生かしておく気等、誠二にはなかった。

そこで銃声が響き渡る。

撃ったのは自分ではない。

凛でもないようだ。

誠二は自らの腹から血が出ているのを確認する。

そしてゆっくりと振り返る。

そこにはガーディアンの佐藤がいた。

佐藤は笑みを浮かべていた。

誠二はその笑みを見て、ある事を思った。

佐藤も自分と同じように狂っている。

その原因を作ったのは恐らく自分だ。

「鈴木の仇だ」

佐藤はまた銃を撃ち、それが誠二の胸に命中した。

自分は何のために存在していたのか。

最後に誠二はそんな疑問を持ったが、その答えが出る前に意識が途絶えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ