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06

司達は飲み屋に行く事なく、近くのスーパーで酒等を買った後、大学の研究室で打ち上げを始めた。

当初は近くの飲み屋に行こうとしていたが、近くに飲み屋が少ない事と数人だけいる未成年者が飲みやすいようにという配慮からこうした形だ。

「論文発表の成功を祝い、乾杯!」

既に打ち上げが始まってから1時間は経っている。

しかし、酔った正人は繰り返し乾杯を行い、他の者もそれに応えている。

司はそんな周りの様子を見ながら、マイペースに飲んでいた。

司は酒に強く、酔っ払った事は1度もない。

一気飲みを繰り返す周りと比べれば少ない方だが、既にビールを3缶飲み干し、今は4缶目だ。

それでも司は全く酔えず、大いに盛り上がる周りの者に合わせる事が出来なかった。

「司?」

その時、加代子がフラフラとした足取りでやってきた。

「飲み過ぎじゃないか?」

「だって、みんなが勧めてくるんだもん」

司とは対照的に加代子は酒に弱い。

まだ2缶程しか飲んでいないようだが、すっかり泥酔している。

「司……好きだよ」

加代子はそう言うと司に寄り添う。

「おい、みんないるけど……」

「今日は良いの」

普段、加代子は人前でこんな事をしない。

加代子は人一倍周りの目を気にするようで、司と2人きりになった時にしか見せない表情や態度というものを多く持っている。

ただ、今はそんなものの1つである司に対して甘えるような態度を表に出している。

その理由を探る事なく、司は加代子の肩に手を置く。

「おいおい、いちゃつくなよ」

正人は不機嫌な様子でそんな事を言った。

「加代子が酔ったみたいで介抱しているだけだ。それより加代子は酒に弱いんだからあまり飲ませるな」

加代子以上に酒を飲んでいる酔っ払いにこんな事を言っても意味はないと思いつつ、司はそんな注意をした。

当然ほとんど聞いてもらえなかったが、司は特に気にする事なく、また酒を飲んだ。

その時、加代子がいつの間にか眠ってしまっている事に司は気付く。

そこで司は近くにあった毛布を加代子にかけた。

研究が行き詰まった時等、ここに寝泊まりする事もある。

そうした時のため、こんな毛布が用意してあるようだが、誰がこれを持ってきたのかは知らない。

ただ、加代子は今日の発表に向けて頑張っていた事を司は知っている。

そのため、少しでも休んだ方が良いと考え、そのまま寝かせる事にした。

その時、携帯電話が鳴り、司は確認する。

それは登録していない番号からの電話だった。

最も司にとってこれはよくある事だ。

司は人から連絡先を聞いても登録しないでいる事が度々ある。

加代子や正人から注意された事もあるが、未だにそれは続いている。

そのため、こうした相手が不明の電話が来ても警戒する事はない。

ただ、騒がしいこの部屋で電話に出るべきではないと司は判断し、部屋を出てから電話に出た。

「もしもし?」

部屋から出ても騒ぎ声が聞こえてきたため、司は部屋から離れる。

そこで司は相手から返事がない事に気付く。

「もしもし?」

無言電話かと思い、司は電話を切るべきか考える。

「あなた、神野司?」

そこで相手は突然質問をぶつけてきた。

「そうだけど君は?」

その時、司は足を止める。

騒がしい部屋から離れようとしていた訳だが、電話をしながら歩いていたため、思った以上の距離を歩いてしまっていた。

そして今、司の前に見知らぬ女性がいた。

「あなたが神野司ね?」

その声は電話からだけでなく、直接でも聞こえた。

そこで女は電話を切る。

司もそれに合わせ、電話を切った。

「時間がないから早速本題に入るけど……」

女は電話をポケットに仕舞いながらも顔は司の方に向けている。

そのため、司も目を逸らす事なく、真っ直ぐ女を見た。

「あなた、命を狙われてるの」

「え?」

何を言われたのか理解するまでに司は少しの時間を要した。

「俺を殺そうとしている奴がいるのか?」

そして確認も兼ねて、あえて別の言い方で尋ねてみた。

そんな司の質問に女はすぐ頷いた。

「誰が俺を殺そうとしているんだ?」

「その質問に答えるのは難しいの。1人や2人じゃないから。今はとにかく来て」

司は少しだけ考え、最後にもう1つだけ質問をぶつける事にした。

「君を信用して良いのか?」

その質問に女は少しだけ笑う。

「私はあなたを呼び出したけど、あなたを殺そうとしているなら強襲して仲間ごとあなたを殺してるはずでしょ? その方がずっと楽だから」

「俺だけを殺したいと思っているならこうやって呼び出すはずだ」

「どちらにしろ仲間を巻き込みたくないなら私について行くって選択肢しかないんじゃない?」

司はそこで何も言い返せない。

そんな司に対して、女は溜め息を吐く。

「こんな駆け引きをしてる時間もないの。早く来てよ」

女は背を向け、足早に歩き出す。

何も状況がわかっていない状態だが、司は女について行く事にした。

司がこんな判断をした理由としては単なる勘だ。

特に何の根拠もないが、この女の言う事を聞くべきだと思ったのだ。

司が足を速め、横に並ぶと女は笑顔を見せる。

「名前を名乗ってなかったわね。私は凛よ。よろしくね」

「……ああ、よろしく」

凛と名乗る彼女に司はそれだけ返した。

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