59
7月7日の早朝5時。
司達は誠二がいると思われる建物に来ていた。
「ここが……?」
衛星写真で見るのとは異なり、凛は圧倒されている様子だった。
ここに来るよう指示していた伝言は1時間程前から来なくなっている。
その事から誠二が寝ている事を零次等は期待している。
「まあ、入れば確実に誠二は気付くから、どちらにしろこっちのが不利だけどね」
場合によっては誠二が外に出てくれる事を零次は期待したようだが、それは無理だった。
またシヴァウイルスのデータが今日回収出来るという情報もあるため、これ以上時間を延ばす事も難しいと判断した。
つまり零次の期待通りとまではいかなかったものの、今この瞬間が最善の時間であるという事だ。
「出入り口はここにある1箇所のみだね」
司はそこで入り口のドアに233と書かれている事に気付いたが、その意味はわからなかった。
「それじゃ入ろうかね」
零次を先頭に3人は中に入る。
まずそこにあったのは細い廊下だった。
突き当たりにドアがあり、零次は早足で近付くとドアを開ける。
「この先はいくつもドアが並んでて、やっぱり迷路みたいになってるよ」
司も先へ進み、今度は463とドアに書かれている事を確認したが、やはり意味はわからなかった。
そのまま先を確認すると零次の言う通り、そこはいくつものドアが並び、何処へ進むべきかわからなくなっていた。
「どう進む?」
「手当たり次第ってのは危険過ぎるし、何か良い手が欲しいよね」
そこで司は天井に付けられたカメラに目をやる。
カメラは自分達の方に向けられている。
「俺達の姿、映らないようにしていないのか?」
そこで零次は携帯電話を確認する。
「電波ジャックだね……。こっちはシステムに触れねえみたいだよ」
「大丈夫なの?」
「まあ、想定内だよ」
その時、何処からかノイズが聞こえ始める。
司は辺りを確認し、至る所に設置されたスピーカーからノイズが発せられている事に気付く。
「よく来てくれましたね。でも、こんな時間に来るとは思っていなかったので少し驚きましたよ」
スピーカーを使った放送が始まり、司達は声に集中する。
「あなた方のためにゲームを用意しました」
ゲームという言葉からは悪い予感しかしなかった。
「ゲームと言ってもルールは簡単です。あなた方の望みは私を捕まえ、シヴァウイルスのデータを手に入れる事ですよね? それを達成出来ればあなた方の勝ちです。私はそれを防ぐために面白いものを用意しました」
その時、司達が入ってきた方の廊下でガスが噴き出す。
「まず、入り口を塞ぎます。それは催涙ガスなので逃げないと大変ですよ。ただし、間違った道を進めば行き止まりに当たる可能性もあるので気を付けて下さいね」
「とりあえず、ドアを閉めようかね」
「早朝に攻めても意味なかったじゃない」
「初めから有利には出来ねえって思ってたよ」
零次は相変わらず落ち着いた表情だ。
「とはいえ、勘を頼りに奥へ進めと言ってもつまらないのでヒントも用意してあります。各ドアには数が書かれています。それはある法則で奥へ進むドアとそれ以外を表しています」
その時、閉めたドアの隙間からガスが漏れ始める。
「そこを抜けるドアについては正解を教えましょう。613と書かれたドアが正解です。その先からは皆さんで考えて下さい。私の所まで来るのを楽しみにしてますよ」
そこでスピーカーからノイズも消え、どうやら放送が終わったらしい事がわかった。
「とにかく613と書かれたドアを探そう」
「あと、手分けして613以外の数で何が書かれているかもギリギリまで見た方が良さそうだね」
3人は手分けしながらドアに書かれた数を確認する。
「613って書かれたドアはこれみたいよ」
「司、もう限界だから行くよ」
「わかった」
司は2つだけ数を確認し、凛の下まで走った。
そして3人はドアを開けて通過すると、すぐにまた閉めた。
「俺が見た数は492と169と512だったよ」
「私は他に800って数しか見てないわよ」
「俺の方は567と899だ。あと入り口のドアに233と書かれていて、2つ目のドアには463と書かれていた」
零次は何か調べるつもりなのか携帯電話を取り出す。
「使えないんじゃないのか?」
「これに入ってるツールはとりあえず使えるよ。とりあえず233と463と613にだけ当てはまる法則があるって事だよね?」
司はその間にここにあるドアを確認する。
ここにあるドアは5つで、それぞれ書かれた数字は812、100、589、347、221だ。
「1の位が3の数じゃない?」
「ここに1の位が3のドアはない」
司はこれまでにあった数を思い返し、法則を探す。
「共通点としては……全部奇数だな」
「じゃあ、試しに589のドアを開けて先に続いてなさそうだったら、また別のドアを探せば良いんじゃない?」
凛はそう言いながら589と書かれたドアのドアノブを回す。
そこで司は咄嗟に凛を引っ張り、その場から移動させる。
同時に数本の槍がドアを突き破り、後ろの壁に刺さった。
「……トラップ?」
「下手に開けるだけでもまずいようだ」
「てか、全て3桁の数でそこからある法則の数だけを選択しようと考えた時、1番良いのは……」
零次の言葉を聞き、司は閃いた。
「素数じゃないか?」
「そっか! ちょっと待ってね。計算してみるよ」
司の言葉から零次は携帯電話を取り出すと、忙しく操作を始める。
「うん、例えばさっきトラップがあった589は31×19だから素数じゃねえよ」
「ガスが来てる。ここの正解はどれだ?」
「偶数は確実に違うとして……347と221のどちらかだね」
零次はまた携帯電話を操作する。
「うん、221は13×17だから違うし、347だよ」
3人は347と書かれたドアを開けると奥へ進む。
「とりあえず数を調べよう。司は手前からよろしく」
「わかった」
零次が奥へ行ったため、司は手前のドアから数を確認し始める。
そして1つ目に見た167という数を計算し、素数である事を確認する。
「あ、この727が素数だよ」
「すぐに見つかったわね」
零次の言葉を聞き、凛は奥へ行った。
しかし、そこで司は疑問を持った。
「167は素数じゃないのか?」
「え、ちょっと待ってね」
零次が携帯電話で調べている間、司はその場で待機していた。
「それも素数だね。数合ってる?」
「道が分岐しているのかもしれない。必ずしも正解が1つという訳じゃないらしい」
考えてみれば迷路のようになっているとはいえ正しい道が1つしかないという事は考え辛い。
「それじゃどっちに……」
その時、何か機械が動く音が響き渡る。
そして司と零次達の間に金網が下り、道を塞いだ。
「分断させられた?」
「悪いね。俺の方が女運あるから凛ちゃんと一緒になれたよ」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ」
金網を破れないかと思ったが、ガスが来る前にそれを行うとなると難しい。
ガスは入り口付近からだけでなく、自分達が通過した場所から随時噴出する仕組みになっているらしい。
つまりどんなに早く進んだとしても1箇所に長居する事は出来ないという事だ。
とても金網を破る時間があるとは思えない。
「どちらに行っても最終的に到達する場所は同じはずだし、一旦お別れかもね」
「わかった。銃は持っているし大丈夫だ」
「司、気を付けてね」
凛が心配している様子だったが、ガスも迫ってきているため、司は167と書かれたドアを開けると奥へ進んだ。