51
麗美はしばらくの間、忙しくキーボードを叩いていたが、やっと手を止めると笑顔を見せた。
「終わったー!」
「上手くいった?」
「情報収集と情報操作の部分は完全に支配出来なかったから向こうの妨害は出来ないんだけど、ほとんどの機能は利用出来るよー」
麗美がそれから零次に対して説明を始めたが、凛は理解出来なかった。
「すごいね……」
しかし、驚いている様子を見せた零次は全て理解出来たようだ。
「さっきも言った通り、情報収集とか操作はされちゃうから、その辺りは誤情報をばらまいたりして対応してねー」
「わかったよ」
そこで零次は表情を険しくさせる。
「これ、俺が使って良いのか?」
「私、少ししたら裏の世界の仕事辞めるし、もう必要ないからあげるよー」
「これだけの技術があるのに辞めるのかよ?」
「私、表の世界で幸せな結婚をするのが夢だからー」
麗美の言っている事が本心なのかどうか凛にはわからなかった。
「これからどうすれば良いの? 司は無事なの?」
そこで凛がそんな質問をぶつけたが、零次からも麗美からも返事はない。
「ねえ?」
「何をしてるのかわからないけど、司は何処の情報でも見つかってないんだよねー」
麗美は苦笑しながらそう言った。
麗身の話によると、司は現在のところ何処にいるか全くの不明だそうだ。
「セレスティアルカンパニーのシステムを使えば、それこそわからねえ事はなさそうなのにね」
「そうなの?」
「さすがにここまでの話は公表してねえけど、ネットワークに接続された全機器を操作出来るって言っても過言じゃねえシステムだからね」
そんな話を知らなかったため、凛は驚きを隠せなかった。
「それなのに見つからねえとなると、後はどうすれば良いかな?」
「それはそっちで考えてよー。私もこれ以上関わると危なそうだし、引かせてもらうから」
情報収集や情報操作を行う上で麗美が零次以上の実力を持っている事は明らかだ。
そのため、出来る事ならこれからも協力して欲しいと思ったが、麗美の考えを尊重する形で凛は諦めた。
そして凛が車を止めると麗美は車を降りた。
「それじゃあ、頑張ってねー」
麗美はそこで何か思い出したような反応を見せる。
「あ、死神の正体、途中でわかったんだった」
「え?」
「考えてみれば当たり前だったんだけどねー。須藤誠がシステムを捨てて……それにいち早く気付いた人がとりあえず拾ったみたいだよ。その人が持ち主だったって事」
凛はそれだけ言われてもわからなかったが、一方の零次は表情を変える。
「なるほどね」
「わかったみたいだし、私は行くねー」
麗美は軽く手を振って行ってしまった。
零次はパソコンを操作した後、画面を凛に向けた。
「あ……」
その画面に表示された男の顔は正に凛が見た死神の素顔だった。
「誰なのよ!?」
「須藤誠の一人息子……須藤誠二だよ」
零次はそこで考え込むような動作をする。
「整理しよう。まずは加代子ちゃんが隠れ家を後にした理由だけど、死神の正体に気付いた可能性はねえかな?」
その質問に対し、凛は思い当たる事があった。
「一昨日、加代子は研究所で携帯電話を拾ってたみたいなの。何か情報があるかもしれないって……」
「そこに死神が誰かって情報があって気付いたんだよ。須藤誠二は加代子ちゃん達の研究グループに資金を援助しようとしてたらしいし、放っておいたら大学の他の連中まで危険な目に遭う可能性があるでしょ?」
「でも、私達に何も言わなかったのは何でよ?」
「……そこがちょっとわからねえけど、とりあえず奥木大学に行ってみよう」
「え、何で?」
凛は零次の考えがわからなかった。
「考えてみろよ。加代子ちゃんは大学の仲間が危険かもしれねえって考えて、どうすると思う?」
「……注意をしに行く?」
そこで凛はある考えを持つ。
「もしかして……」
「とにかく大学に行ってみよう」
「そうね」
凛はアクセルを踏み、また車を走らせた。