50
司は奥木大学の研究室でデータの管理がどのように行われていたのかを調べていた。
ここに来るまでは当然、多くの監視カメラがあった。
防犯目的でカメラがある事をあえて示しているものもあれば、中には隠しカメラのような形で看板等に隠されているカメラもある。
その数はあまりにも多く、全てを用いれば街中、全てを監視出来ると言っても過言ではない程だ。
しかし、司はその全てのカメラに自らの姿を映す事なく、ここまでやってきたのだ。
そんな事が出来た理由は司自身、わかっていない。
むしろ、どうやっているのかもよくわかっていない形だ。
ただ何処にカメラがあり、自分はどのように動くべきかが何故か理解出来た。
ふと司は加代子の事を思い返す。
隠れ家から姿を消した加代子の行き先として、司はいくつか候補を立てた。
その1つにこの奥木大学を挙げ、司は移動を開始した。
途中のコンビニで加代子の遺体を見つけたのは全くの偶然である。
司は加代子のそばに残るべきかとも考えたが、それはしなかった。
その理由は自分だけでなく周りも含めて危険に晒す可能性があった事と、加代子が奥木大学を目指していたようだと予想出来た事がある。
加代子が何の目的を持っていたのか、ここで調べればわかるのではないかと司は考えている。
そして、調べていくうちに司はある事に気付いた。
数時間前、何者かがこのパソコンを使用し、司と同じようにデータの管理について何かを調べていたのだ。
そして、さらに調べたところでその人物は加代子だという事もわかった。
つまり昨夜、加代子はここに到着していたのだ。
司は徒歩でここまで来たが、タクシーを使う等すれば、ここへ来るまでにそれ程時間は掛からない。
そうして加代子はここに到着すると何か調べ物をしていたのだ。
司はそれだけでなく、さらに気付いた事があった。
実験に使われたデータは当然1つではなく、それを記憶した人も複数いれば、覚える記号も複数あった。
そのため、どのデータに何の記憶が入っているのかわからなくならないよう、データの容量等を含め管理していた。
それにより、想定と異なるデータが入ってくれば、直ちに検知出来るようにもなっていた。
しかし、その中で1つだけ明らかに改ざんされた跡を見つけたのだ。
それにより、pHの記憶が紛れ込んできても検知出来なかったという事だ。
司はここまで調べた上で、ある人物に話を聞く必要が出来た。
そこで司は研究室に設置された電話に目をやる。
恐らく、加代子も自分と同じものを見つけ、今から行おうとしている事を既に行っているはずだ。
そう考え、司はリダイヤルを押した。
電話に誰も出ないまま、留守電になってしまったが、その際のメッセージで相手先が誰であるかは特定出来た。
司は特に伝言を残す事なく、電話を切る。
今時、18歳を過ぎればすぐに運転免許を取りに行く者がほとんどだ。
特に大学生であれば、近々ある前期試験の後等、しばらく休みが続く。
そのため、司と同学年の者であれば去年か一昨年のうちに運転免許を取得している。
先程電話を掛けた相手も同じで、電車のない深夜であっても車を運転してここまで来る事が出来たはずだ。
そこまでわかったところで司はパソコンの電源を落とし、研究室を後にした。