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05

凛は自宅に帰ると、まず初めにシャワーを浴びた。

ここ数日、仕事の関係で凛は自宅に帰れないでいた。

仕事が解決し、今夜はこうして自宅に帰れた訳だが、凛が晴れやかな気持ちを持つ事はなかった。

シャワーを浴び終えると、凛は簡単に体を拭いただけで浴室を出る。

凛は特に出掛ける予定がない時、自宅では裸でいる事が多い。

当然、来訪者があれば困る事になるが、ここに来るのはセールスマンぐらいで居留守を使う事がほとんどのため、問題ない形だ。

そこで凛は特に見たい番組があった訳ではないが、テレビを点ける。

丁度『7月に行きたいデートスポット』という特集が始まったが、凛は興味を示す事なくタオルで髪を拭き始める。

ショートヘアのため、髪はすぐ乾く方だ。

そのため、いつも簡単にタオルで拭いた後は自然に乾くのを待つようにしている。

今日もタオルで拭くのを途中で止めると凛は携帯電話を操作した。

途中、凛は手を止めると携帯電話の画面を凝視する。

それから数秒後、凛は残念そうに溜め息を吐いた。

「続いてはスターダストタワーの紹介です。ここでは7月7日だけ利用出来る金庫があり、大切な人との思い出を……」

凛はそこでテレビのチャンネルを変えた。

その行動は簡単に言えば拒絶だ。

そしてニュース番組を見つけると、そこで手を止めた。

「記憶のメカニズムが完全に解明される日は近いかもしれません。今日、奥木大学の研究グループが論文を発表しました。その内容は……」

そのニュースに凛は興味が湧き、テレビのボリュームを上げる。

そのまま凛は音だけ聞けば良いと考え、テレビから目を離した。

しかし、目を離す直前に見覚えのある顔を見つけたため、すぐテレビに目を戻した。

そして慌てて携帯電話をまた見た。

情報が入ってきたのはついさっきだ。

それは凛がずっと待ち望んだ情報だったため、来た時は喜び、思わず凝視してしまう程だった。

しかし、よく調べてみると関係のない情報だったようで凛は落胆したのだ。

ただ、この件については今までそうした役に立たない情報すら1つも入ってこなかったため、凛の記憶にしっかり刻まれようとしていた。

それが今、別の形で凛の前にまた現れたため、大きなインパクトを与えたのだ。

凛はそこで1つの仮説を立てる。

それは役に立たないと思われた情報を重要な情報に変えるものだ。

そして凛は服を着ると、出掛ける準備を始める。

推測の域を出ない結論だったが、凛にとってはこれがやっと手に入れた初めての手掛かりだ。

今までは何の動きもなく、ただ待ち続けているだけだった。

ここで何もしなければ、それはまた変わらない。

それなら散々追求したところで結局何も得られずに苦労を味わうのも悪くないと思えたのだ。

凛はまだ少し濡れていた髪を無理やりドライヤーで乾かした後、家を出た。

そして駐車場へ行くと車に乗り込む。

携帯電話を操作すると凛は自分の行くべき場所を確認し、車を発進させた。

本音を言えば、何をやっているのかと問い掛けてくる自分もいる。

しかし、そんな自分よりもとにかく行動しろと命令する自分の方が今はずっと強かった。

また、目的地まで車で行けば30分程で着く。

その程度の苦労なら大した事ないとも思えた。

その時、携帯電話が鳴る。

どうやらメールが来たようで凛は信号待ちの間に内容を確認する。

「え?」

それは凛を驚かせる内容だった。

そして携帯電話を置くと、信号が青になると同時にアクセルを強く踏んだ。

元々30分程で着くとなれば近い方であるため、特に急ぐ事なく、ゆっくり行けば良いと考えていた。

しかし、そんな状況はあっという間に変わってしまった。

凛は1分でも1秒でも早く目的地に到着しなければならなくなってしまったのだ。

そこでまた携帯電話が鳴り、凛は運転しながら携帯電話を手に取る。

今度はメールではなく電話で、相手は窪田だった。

凛は一瞬、出るべきかどうか考えた後、車の窓を開ける。

そして携帯電話を外へ投げ捨てた。

散々追求したところで結局何も得られずに苦労を味わう。

先程まではそうなるだろうと考えていたが、今はそんな結末にならないだろうと凛は感じている。

今、凛がずっと待ち望んでいた『その時』がやってきたのだ。

凛はそんな確信を胸に目的地へ急いだ。

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