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勉は麗美と共に深夜のバイトに入っていた。
勉はまだ研修に近い形で今夜は麗美に教えてもらいながら就いている形だ。
シフトを考えた時、大学へ午後から行けば良い曜日であれば、その前夜から朝までのバイトにも出られるだろうと考えていた。
バイトが終わった後、家に帰ってから少しだけ寝て、それから大学に行けば問題ない。
しかし、頭ではそう考えていたものの実際にやってみるとやはり眠かった。
「勉君、眠そうだけど大丈夫?」
麗美は笑顔でそう言った。
慣れているためだと思うが、昼間に麗美は子供達と遊んでいた。
それにも関わらず、この時間帯のバイトを難なくやっている事に勉は感心していた。
そこで勉は麗美が児童養護施設に通っている理由が何なのか疑問に思っていた事を思い出す。
「麗美さん、今日行ってた所にはよく行ってるんですよね?」
「あ、話そうと思ってたんだー」
今は客もあまり来ないため麗美は丁度良いと考えたようで話を始めた。
「あそこには友達の誘いで行って、それから通うようになったんだけど、少し不思議な話があるの」
「不思議な話ですか?」
「正体を明かさずにあの施設を支援してる人がいるんだよ」
それから勉は麗美からあの施設に関する話を聞いた。
「じゃあ、麗美さんは足長おじさんの正体を追っているんですか?」
「うん、そうだよー。多分、須藤誠が支援してくれたのもその人のおかげだと思うしね」
麗美は笑顔で話を続ける。
「足長おじさんの正体、過去にあの施設にいた人だと思ってるの。だから……もう日が変わって今日だね。今日の夕方に以前施設で働いていたって人に会って話を聞くつもりなの」
そこで勉は単純な疑問を持った。
「何でその人を追っているんですか?」
その質問に麗美は少しだけ考えているようだった。
「感謝したいからかなー」
「え?」
「私、あの場所が好きなの。あそこにいる子供達は色んな事情で親と一緒に暮らせない子ばかりでしょ? それなのにみんな幸せそうにいつも笑ってるんだよー」
それは勉も感じていた。
「だから、あの場所を守ってくれてる足長おじさんに直接感謝したいって思ったの。ただそれだけだよ」
まだ麗美についてはわからない事ばかりだ。
しかし、麗美のそうした気持ちは勉でも何となくわかった。
何より、あそこにいた時の麗美が子供達と同じぐらい幸せそうだったのだ。
そんな場所を守ってくれている人に麗美が会ってみたいと思うのも無理はなかった。
「見つかると良いですね」
「うん」
勉の言葉に麗美は嬉しそうに返事をした。
「あ、話してたらこんな時間になっちゃった。そろそろゴミを捨てに行かないと」
気付けば外にあるゴミ箱の袋を交換する時間になっていたらしく、麗美は慌てた様子を見せる。
「だったら、僕がやりますよ」
「ホント? じゃあ、袋はこれを使って」
麗美はレジの近くにある棚からビニール袋を出した。
勉はそれを受け取り、外に出た。
ゴミ箱の袋を交換するといった作業は以前バイトしていたコンビニでも当然あった。
勉は難なく袋を交換すると溜まったゴミを裏の倉庫へ持って行く。
そして、『それ』に気付いてしまった。
初めは酔っ払いが寝ているのかと思っていた。
しかし、それが女性であったため、悪いと思いつつ勉は近付いて確認した。
面倒事に巻き込まれたくないとも思いつつ、このままにしておくのは危険だ。
そのため、場合によっては誰か呼ぼうかと思ったのだ。
そして近くまで行き、勉は倒れている女性が加代子だと気付いた。
勉はその場にしゃがむと加代子の体を揺すった。
しかし、加代子は何の反応もしなかった。
そこで勉の体が震え出す。
それは加代子が死んでしまっていると気付いたからだ。
「勉君、大丈夫?」
その時、勉が戻らない事を心配したのか麗美がやってきた。
しかし、勉は何も答えられなかった。
「……え?」
麗美も加代子の存在に気付き、驚いた様子を見せる。
「勉君、救急車と警察を呼んで!」
「え、あ……うん」
麗美の指示に従い、勉は携帯電話を取り出す。
そこで足音がしたため、勉は振り返る。
「あ……」
そこにいたのは神野司だった。
司は加代子に駆け寄ると首に手を当て、どうやら脈を測っているようだった。
「悪い、後は頼む」
司は立ち上がると何処かへ行こうとした。
「待って」
そんな司を麗美は呼び止める。
「あまりここにいると危険なんだ」
しかし、司はそれだけ言うと行ってしまった。
「勉君、携帯電話借りるね」
勉は混乱してしまい、まともに電話も出来ない状態だった。
麗美はその事に気付いたようで、勉の代わりに警察等へ電話してくれた。
勉は何も出来ない自分を情けないと思いつつ、そんな麗美をただ見ていた。