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凛は目を覚ますとすぐに起き上がり、耳を済ませた。
この時既に凛は何かしらかの異変が起こっている事に気付いていた。
しかし、その正体が何なのかはわかっていなかった。
時計を見ると深夜の3時だった。
凛は服を着ると部屋を出た。
途中、零次がいるであろう部屋のドアノブを捻り、鍵が掛かっている事を確認する。
そのまま凛は司と加代子の部屋へ向かった。
そしてドアノブを捻ると、鍵が掛かっていなかったようでドアが開いてしまった。
「2人とも起きてる?」
声を掛ける事で2人が起きればと思ったが、返事はない。
凛は少しだけ考えたが、胸の内にある不安を解決させようと中に入った。
そして司と加代子がいない事に気付いた。
何処か別の部屋にいるのかと思い、凛はすぐに部屋を出た。
しかし、そこで彼の存在に気付いたのだ。
凛は銃を取り出すと彼に向けた。
「お久しぶりですね」
そこにいたのは仮面を被ったあの男、死神だった。
「司達は何処にいるの?」
「神野司はいないんですか? 残念ですね」
場合によっては司達が彼に殺されてしまっているという最悪の事態も予想出来た。
しかし、少なくとも司がいない原因は彼にないようだと知り、凛はひとまず安心した。
とはいえ、このまま彼を放っておく訳にはいかない。
「何しに来たの? そもそもどうやってここに来れたの?」
凛は自分の中にある疑問をぶつけた。
「私の目的は1つです。あなたに殺されに来たんですよ」
その言葉の意図が凛にはわからなかった。
「何で私なのよ?」
「あの時、私は油断していたんです。1人しかいないと思っていたので一緒にいた男を倒してそれで満足してしまったんです。つまりあの時、あなたがその気になれば私は殺されていました」
確かにあの時、凛は彼を殺せた。
その事は凛が1番わかっている。
「私はあの時ミスをしました。この世界のルールではミスをしたら死ぬんです。しかし、あなたのせいで私はルールに従う事が出来なかった」
仮面を被っているため表情は見えないものの、彼は怒っている様子だ。
「私にとってこれは屈辱です。だからあなたに殺されないといけないんです。あれから多くの人を殺しました。これからもそれは続けるつもりです。早く私を殺さないと犠牲が増えますよ?」
凛は唇を噛むと引き金に掛けた指に力を入れ、銃を撃った。
しかし、手の震えで銃の照準がずれたため、彼に銃弾は当たらなかった。
「ちゃんと狙って下さい。今ここで私を殺さなければ、次は神野司を殺します」
彼はそう言うと前に出て凛の持つ銃の銃口を自らの胸に当てる。
それはあの時と同じ状態だった。
「凛ちゃん!」
その時、銃声を聞いたからか零次の声と駆け寄る足音が聞こえてきた。
「邪魔が入りましたね。残念です」
彼はそう言うと銃を取り出した。
「零次、相手は銃を持ってるから来ちゃダメ!」
凛が叫ぶと零次は近くの部屋に身を潜める。
「長居する訳にもいかないので行きます。私はあなたに殺されるために存在しています。それまでの残された時間でまた人を殺しましょう」
彼は最後にそう言い残し、行ってしまった。
「凛、大丈夫?」
零次は凛に駆け寄ると辺りを警戒するように見回した。
「死神がいたの……。でも、また殺せなかった……」
凛は銃を握った手をそっと下ろした。
「俺、裏の世界の人間は一目でわかるんだよね」
零次は真剣な表情で話し始めた。
「でも、凛ちゃんは裏の世界の人間に見えねえんだよ」
「え?」
「今だって表の世界の人間に見えるし」
零次の言葉に凛は何となく納得した。
自分は裏の世界の人間として相応しくないと時々自覚しているからだ。
しかし、そこで零次は笑顔を見せた。
「だから人が殺せねえで当たり前なんじゃねえの?」
「でも……」
「裏の世界の問題は裏の世界の人間が解決する。だから凛ちゃんはそんな風に悩む必要ねえよ」
その言葉に凛は嬉しさと悔しさが混ざったような不思議な感覚を持った。
「さっきの奴はどうやってここを突き止めたのかわからねえし、とにかくここを出よう。もしかしたらイレイザーやガーディアンが来る可能性もあるしね」
「そうね」
「司と加代子ちゃんは?」
「それが何処に行ったのかわからないのよ」
零次は凛の返事を聞く前から携帯電話を操作し、2人を捜し始めていた。
「ミスったね。セキュリティが一時的に止まってたみたいで加代子ちゃんはその間に外へ出たみたいだよ」
「何のために?」
「それはわからねえよ。あと、司は……いつ出たのかわからねえし。セキュリティも途中で勝手に起動してるし、訳がわからねえよ」
「セキュリティが起動してるのに死神はここに入れたの?」
「そういう事になるね……」
想定外の事が多過ぎるようで零次は混乱している様子だ。
「しかもイレイザーやガーディアンがここに向かってるみたいだから、荷物をまとめたらすぐに出発するよ」
「わかった、ちょっと待っててね」
凛は部屋に戻ると荷物をまとめた。
当初からここを拠点としていた事もあり、必要なものはほとんどここにある状態だ。
その中から凛は必要最低限のものだけを選び、バッグに仕舞った。
そして、凛は零次と共に外へ出ると車に乗り込んだ。
「忘れ物はねえかな?」
「あっても後は何とかするしかないでしょ」
凛はそう言うと、車を発進させ、この場を後にした。