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04

加代子達の論文発表は無事に終わった。

元々、加代子達は大学生でありながら多くの研究者と交流を持ち、そうして得た情報の全てを自分達の研究に役立てる実力を持っていた。

そのため、加代子達の研究は様々なところから注目されていた。

それが今回の論文発表により、この先さらに注目を集める事になるのは明らかだ。

途中で司が話した通り、他の多くの研究者がこの論文を基にさらなる研究を進め、今も謎となっている事が少しずつ明らかになっていけば良いと加代子達は思っている。

そんな希望も今日の手応えを考えれば、叶いそうである。

論文発表が終わった直後から加代子の周りには多くの人が集まり、質問をぶつけていた。

実質、加代子はこの研究グループのリーダーであり、こうした質問攻めに遭うのもしょうがないと考えていた。

しかし、そんな考えとは裏腹に緊張してしまい、加代子は相変わらず上手く話せないでいた。

そんな加代子を助けたのは、やはり司だった。

司は次々にぶつけられる質問を整理しながら、順序良く回答している。

その様子は頼もしく、加代子の司に対する思いを強くしたのは言うまでもない。

加代子にとって司は何でもこなし、困った時には必ず助けてくれるスーパーマンだ。

まだ交際を始めて1年程だが、今まで交際してきた者とは違う、心から自慢出来る彼氏でもある。

「そちらについては小泉から回答します」

そこで突然話を振られ、加代子は慌ててしまった。

先程まで加代子は司に見惚れているだけで話を聞いていない状態だった。

そのため、質問の内容がわからなかったのだ。

「大容量の記憶を持とうとした時、想定される懸念事項についてで……」

「あ、はい! 人は何かを記憶する時、今までの記憶との付け合わせをします。その中で既に似た記憶があった際には覚え直す形となり、結果として以前の記憶を消した上で新たな記憶に書き換えるという働きをする事が考えられます。今回の実験で小さな記憶を使ったのもそうした理由からで……」

その質問は先程、発表をしている際にされた質問に似ていた。

先程は論文を発表する事に集中していたため、答える事が出来なかったが、今はたどたどしくなりながらも答える事が出来た。

当然、加代子がこうして答えられる事を司は知っていたのであろう。

司の良いところは1人で解決出来る事でも他の者に振り、花を持たせる事だ。

今は研究グループのリーダーが加代子だと示してくれている。

その事を嬉しく思う反面、そんな司の期待に応えようと無理をしてしまう事も時々ある。

最も無理をしなければ解決出来ない問題を司が振ってくる事は少なく、振ったとしてもフォローしてくれる事がほとんどだ。

そのため、加代子はどんなに緊張していても司がそばにいてくれる限り、何の心配もなかった。


結局、論文発表後の質疑応答が長くなり、加代子達が解放された頃には遅い時間になってしまっていた。

日が長い季節でもあるため真っ暗という事はなかったが、十分夜と呼べる時間だ。

既に片付けも終わり、多くの者は論文発表の成功を祝い、打ち上げをしたいと話している。

しかし、加代子だけは打ち上げ等せずに司と2人きりになりたいと思っていた。

時々、加代子は司を独り占めしたい衝動に駆られる事がある。

今もその時だ。

加代子にとって、司は今まで出会った誰よりも魅力的な人物だ。

ただ、時にはそんな司に引け目を感じる事もある。

今日も司は自分のフォローをたくさんしてくれた。

その姿は頼もしかったが、同時に自分から少しずつ離れていってしまうのではと不安に思った。

むしろ、もう既に自分とは別の世界にいるのではないかと思ったりもした。

現に司は良家の生まれだったらしく、身分という観点では加代子と異なる。

既に亡くなってしまった両親から遺産として多くの財産も受け取っているらしく、そんな司と比べると加代子は単なる庶民だ。

そう考えると、司が自分と一緒にいる事は奇跡とも言える事で、ちょっとしたきっかけで壊れてしまう関係なのではないかと思ってしまう。

そしてそう思った時、加代子はいつも無理を言っていつまでも司と2人きりでいるようにしている。

2人きりでいると司は自分だけを見てくれ、たくさんの愛を示してもくれる。

それによって、司がすぐそばにいるという事を加代子は実感出来るのだ。

そして今もそうした2人きりでいたい時である。

「近くの飲み屋で飲むみたいだけど、加代子も来るよね?」

しかし、そんな加代子の願いは叶わず、今は全員で打ち上げに行かなければいけないようだ。

「うん、行くに決まってるでしょ!」

そして、こんな時に断れないのも加代子だ。

男女共に好かれている自分の事を加代子は好きでいる。

そして司もそんな加代子が好きなんだと信じている。

だからこそ今日の成功を祝う打ち上げを断る事は出来なかった。

ふと加代子は司に目をやった。

司は人前でいちゃついたりする性格ではない。

それは加代子も同じで、道端で抱き合ってキスを交わすカップルに非難の目を向ける事もある。

しかし、今だけは人目を気にせず、司に強く抱き締められ、そしてキスをしてもらいたかった。

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