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加代子は相変わらず部屋の中で資料の確認をしていた。

しかし、新たな手掛かりは見つからず、完全に行き詰まってしまっていた。

加代子は途中で作業を切り上げると伸びをした。

それから部屋を出ると凛の部屋に向かう。

気分転換も兼ねて凛と話でもしようと思ったのだ。

加代子は凛の部屋に着くとドアをノックした。

「はい?」

「あ、加代子ですけど、何か話でもしませんか?」

加代子がそう言うとドアの鍵を外す音が聞こえ、それから凛が顔を出す。

「構わないわよ。入って」

「あ、お邪魔します」

加代子は部屋に入り、そこで凛が服を着ていない事に気付く。

「あ、すいません、着替え途中でしたか!?」

女同士とはいえ、加代子は慌ててドアの方へ目をやる。

「ああ、1人でいる時はこうしてる事が多いの。気にしないでよ」

「いや、気にしますよ」

「じゃあ、服を着るから少し待って」

加代子はドアの方を向いたまま、凛が服を着るのを待った。

「お待たせ」

凛はTシャツにジーンズだけというラフな格好だった。

「急に来てごめんなさい」

「ううん、私も気分転換したかったから良いのよ」

加代子は部屋の奥に通され、そこにあった椅子に座った。

「いつも服着てないんですか?」

「ドアに鍵を掛けてしまえば誰も入らないし、司や零次に見せなければ問題ないでしょ?」

「そうですけど……」

ハプニングのような形で万が一、司が凛の裸を見てしまったら……という想像をし、加代子は心配になってしまった。

凛はスタイルが良く、女の加代子から見てもキレイだと思っている。

そんな人の裸を見て、司はどう感じるのだろうかと考えると加代子は気が気じゃなかった。

「じゃあ、ここにいる間は服を着るようにするわよ」

加代子の心情がわかったのか、凛は笑顔でそう言った。

「あ、そうしてもらえると助かりますけど……そもそも何で服を着ないんですか?」

その質問に凛は少しだけ考えているような様子を見せる。

「1人でいる時はそのままの自分でいようと思ってるのよ」

「え?」

「父の件がなかったら、私もあなた達と同じように平凡な大学生活を送っていたはずなの。イレイザーに入ったりする事もなくね」

加代子は黙って凛の話を聞いている。

「イレイザーとしての私は偽りだと思ってるのよ。だから1人の時ぐらいはそのままの自分でいようと思って何も着ないでいるの」

「そうなんですか……」

凛の考えを知り、加代子は複雑な気持ちになった。

そして凛から父親の話を聞いた時から気になっていた事を改めて思い出した。

「……あの、癇に障ったら言って下さい。すぐに話を止めます」

そう前置きをしてから少しだけ時間を置き、加代子は口を開く。

「凛さんは……お父さんの事が好きだったんですよね?」

その質問を聞き、凛は表情を曇らせた。

その表情から凛が質問の意図を理解したのだろうと加代子は思った。

「ごめんなさい、やっぱり止めます」

「ううん、私も誰かに話したいと思ってたから、丁度良いわよ」

凛は笑顔でそう言った。

「私の両親は交際を反対されていて、無理やり別れさせられたの。でも、別れた後になって母はお腹の中に子供がいる事に気付いて……当然、産む事に反対はされたみたいだけど母は反対を押し切って産んだの。わかってると思うけど、その子供が私よ」

加代子は凛の話を真剣な表情で聞いた。

「母は私が幼い時に亡くなって、それから祖父母に育てられたんだけど、父は私が産まれる前に亡くなったって聞かされていたの。だから父親というものがどんなものか私はわからないまま成長したのよ」

「どうやってお父さんと会えたんですか?」

「偶然……いえ、運命だったのかもしれないわね」

凛はそう言うと笑った。

「父がアルバイトのような形で助手を募集していたの。それで私は友人に誘われてそれに応募したの」

その事をきっかけに凛は父とメールでやり取りをする事になった。

「父は私の苗字が母と一緒だったから、もしかしたら母の娘かもしれないと思ってメールしてくれたのよ」

「自分の娘だって気付いたんですか?」

「ううん、別れた後、他に良い人を見つけて今は娘もいる幸せな家庭を築いているのかもしれないって考えたみたい。私の母の事を知っても、まさか自分との間に産まれた娘だとは夢にも思わなかったそうよ」

ただ、凛にとって父は母の事を知る数少ない人物だったため、メールを介して母の事をたくさん聞いた。

そして、メールのやり取りを繰り返す内に会った事もない父の事をいつの間にか好きになってしまっていたのだ。

「血の繋がった親子なんだって気付いたのは父の事を好きになって少ししてからよ」

凛はその事を知り落胆したものの、この時はまだ気持ちの切り替えが出来た。

「私の誕生日に会ってくれる事になって、スターダストタワーに行くのも私がお願いしたの」

「凛さんって7月7日が誕生日なんですか?」

「うん、そうなの」

そして、去年の7月7日に父と会い、凛は自らの気持ちに気付いてしまった。

「私は父の事を1人の男性として好きになっていたの。会ったら、その気持ちを抑える事が出来なかった……」

加代子は何を言えば良いかわからず、ただ黙っていた。

「それからすぐに父が死んで……私は絶対に真相を突き止めようと思ったの。父のために私は何も出来なかったから……イレイザーに入って、裏の世界で生きていく事にしたのも後悔してないわよ」

「そうですか……」

「こんな話してごめんね」

「あ、いえ、私から聞いたんですし、私の方こそごめんなさい!」

加代子が焦りながらそう言うと凛は笑った。

「でも話せて良かったわ。ずっと胸に仕舞っていた事だから……」

「私なんかが聞いて良かったんでしょうか?」

「そんな風に言わないで。あなただから話したのよ」

凛にそう言われ、加代子は少しだけ嬉しくなった。

「今の問題が解決したら、あなたと司は普通の生活に戻ってね」

突然そんな事を言われ、加代子は驚いてしまった。

しかし、少しだけ考え、加代子は溜め息を吐く。

「私は大丈夫だと思いますけど、司は難しくないですか?」

司は裏の世界と言われるような場所でも生き抜く実力を持っている。

そんな司を他の者が放っておくとはやはり思えない。

「大丈夫よ」

しかし、凛は笑顔でそう言った。

「裏の世界にいた人が表の世界で暮らし始めるって話を聞いた事があるし、そもそも今は2人とも巻き込まれているだけでしょ? 確かに難しいかもしれないけど……2人だったら大丈夫よ」

凛が何を思ってそう言うのか、加代子にはわからない。

しかし、凛の言葉を信じる事が出来た。

「ありがとうございます」

加代子は素直に嬉しい気持ちを感謝として伝えた。

「でも……」

そこで加代子はその先を言って良いのかと迷ったが、言う事にした。

「凛さんもお父さんの件が解決したら表の世界に戻って下さい!」

加代子は大きな声で言った。

「私、いつか凛さんと買い物に行きたいです。何処か食事に行ったりもしたいです」

何故そう思っているのかはわからないが、加代子は凛と友人になりたいと思っている。

今はこんな状況だが、凛に対して加代子は親近感を持っている。

零次は何処か隙がなく、本音を見せていないようにも感じているため、その事で距離があるような感覚を持っている。

そして司についても元からではあるが、自分では釣り合いが取れないのではないかという不安がますます大きくなっている。

そんな中、凛だけは自分と近い場所にいるように思えるのだ。

そのため、今後も友人として付き合いたいと思った訳だ。

「私は……」

「難しいかもしれないですけど、凛さんも大丈夫ですよ!」

その言葉には何の根拠もない。

イレイザーという組織に入ってしまっているため、加代子達のように簡単にはいかないだろうとも思っている。

しかし、加代子は自信に満ちた声でそう言った。

「……頑張ってみるわね」

凛は笑顔でそう言ってくれた。

ただ、その笑顔が無理やり作った笑顔である事に加代子は気付いていた。

「そろそろ……戻りますね」

そこで加代子はある事を思い出す。

「あ、USBケーブル持ってないですか?」

「何に使うの?」

「昨日、あの研究所で何か情報があれば良いと思って携帯電話を拾ったんです。ただ、電池が切れていて……」

「ああ、良いわよ」

凛からUSBケーブルを借り、加代子は部屋を出た。

そして自分の部屋に戻ると携帯電話の充電を始めた。

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