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凛は目を覚ますと、しばらくの間、ぼんやりと天井を見ていた。
それから頭を覚醒させ、昨夜はいつの間にか眠ってしまっていたんだという事を自覚した。
そのまま凛は起き上がり、伸びをした。
家にいる時と同じように部屋にいる間、凛は服を着ずに裸でいる。
司と零次がいる訳だが、部屋のドアに鍵を掛けているため、特に裸を見られる心配はしていない形だ。
凛は服を着ると部屋を出た。
数日が経過し、特に誰かが決めた訳ではないが、全員が集まる場所は1番広い部屋になっている。
凛はその部屋に行き、既に零次がいる事に気付く。
「戻ってたのね。あと零次はいつ寝てるの?」
休めるように準備した部屋があるにも関わらず、零次がその部屋を利用しているところを見た事はない。
そのため、零次が全く休む事なく、ずっと起きているかのような錯覚を凛は覚えていた。
「途中で切り上げて数時間は部屋で寝てるよ」
「それなら良いけど……」
そこで零次は少しだけ真剣な表情になる。
「昨夜、司達と話して決めたんだけど、今日はpHが行ってた場所に行こうと思うんだよね」
「え?」
「その場所に行く事でpHの記憶が認識出来るんじゃねえかって話だよ」
零次の話に凛は納得した。
今出来る事として多少の危険はあるものの1番良い方法だとも思っている。
「ただ全員で行くのはさすがに危険でしょ? だから俺と司の2人で行くよ」
「え?」
「あ、銃とかはいくつか持って行くからね」
そこで凛は司と零次を2人にするリスクを考える。
まだ零次の事を全て信用した訳ではない。
零次が何か企んでいるようだという考えもまだ持っている。
「2人だけで行く必要あるの?」
「逆に考えようよ。加代子ちゃんを連れて行くのは危険でしょ? だから加代子ちゃんは残るとして、後は誰が残るかって考えたら凛ちゃんが残るべきでしょ?」
そこで零次はニヤリと笑う。
「俺と加代子ちゃんを2人きりにするってのも俺はありだけどね」
「わかったわよ」
零次に反論する言葉が見つからず、凛は諦める。
そこで司と加代子が起きてきたため、零次と話した事を2人にも伝えた。
「私も一緒に行ったらダメですか?」
加代子は司と離れるのが嫌なようで不安げな表情だ。
「加代子にはここでリライト等について引き続き調べて欲しい。もしかしたら何か別の手が見つかるかもしれない」
しかし、司が説得をする形で加代子も納得した。
「それじゃ行く場所についてだけど、pHが狙撃に使ってた場所なんかを順番に回って行くよ」
「そんな所、どうやって特定したのよ?」
「本気で探せば見つかるよ」
零次の説明で納得は出来なかったが、凛はいつも通り詮索しない事にした。
「イレイザーやガーディアンに見つからねえように行くから多分時間が掛かるだろうし、ちょっとしたら行くよ」
「あ、待って」
凛は少しだけ考えてから口を開いた。
「出来たら父の遺体が発見された場所にも行って」
父の遺体は道路に捨てられるようにしてあった。
何処か別の場所で殺された後、遺体を移動したのだろうと言われているが、そうした理由は謎だ。
ただ、もしもpHが父を殺した犯人だとしたら、その場所に行く事で何か記憶に変化があるかもしれないと考えたのだ。
「わかった、行ってみるよ」
零次も凛の考えを理解したようですぐに了解した。
「じゃあ、気を付けてね」
「凛ちゃん、俺が無事に帰ってきたらデートしてね」
「そんな事言ったら死ぬわよ?」
そんな冗談のようなやり取りに零次は笑った。
そして司と零次は簡単に支度をした後、出掛けて行った。