30
加代子はベッドで寝ている司を不安な気持ちで見ていた。
司が倒れた後、寝室として使われていたと思われるこの部屋を見つけ、ベッドに司を寝かせた。
それから既に3時間程が経過しているが、まだ司は目を覚まさない。
「加代子、大丈夫?」
時々、凛が様子を見に来てくれる事が加代子は嬉しかった。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「零次に調べさせたけど、機械は壊されてて使えないみたい」
「誰がこんな事をしたんですかね?」
加代子の質問に凛は表情を変えた。
「……ちょっとわからないわね」
凛はそう言ったが、何か隠しているような態度だった。
「そうですか……」
しかし、加代子は特に詮索しないでおいた。
その時、司が軽く動いた後、目を開けた。
「司、大丈夫?」
「倒れたのか……」
司は何が起こったのか頭の中で整理しているようだ。
「大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ」
そこで司は何か思い出そうとしているのか考え込むような仕草をした。
「……シヴァウイルスが何処かに残されている」
「え?」
「怪我を負った男からシヴァウイルスは渡さないと言われたんだ」
凛は驚いている様子だ。
「今回はいつもと見え方が違った。断片的にそれだけが見えたんだ」
「もしかして……」
凛は少しだけ迷っているような様子を見せた後、1枚の写真を取り出した。
そこには凛と男性が写っていた。
凛は男性の腕に自らの腕を絡ませ、幸せそうに笑っている。
加代子はこの写真の場所に見覚えがあった。
「もしかしてここってスターダストタワーですか?」
「ええ、そうよ」
加代子は司と一緒に1度だけここを訪れている。
そこは高層ビルで屋上は展望台になっている。
司と行った時はその展望台から夜景を見るだけだったが、七夕に当たる7月7日は違う。
そこには7月7日にだけ利用出来る金庫があるのだ。
そして、その中に何かを保管すると共に1年後も一緒にいようと誓い合う事が恋人達の思い描く理想のデートプランとして毎年特集されている。
当然、加代子もこのデートプランに憧れを持ち、今年の七夕は司とここへ行く予定だった。
そのため、そうした話題を加代子は話そうと思ったが、凛の表情が暗かったため止めた。
「司が見た男の人って……」
「この人だった」
「そう……」
凛は悲しそうな表情を見せた。
「もしかして、この人が……?」
加代子はその先を言って良いのか迷ってしまい、言えなかった。
「私の父よ」
凛は落ち着いた口調だった。
「父はシヴァウイルスを何処かに残しているって事なの?」
「ガーディアンの者が言っていた通り、シヴァウイルスに関するデータがあるという事なんだと思う。最もそれが今もあるかどうかはわからない」
「もし、何処かにあるんだとしたら放っておけないわね……」
凛は目を閉じると深呼吸をした。