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窪田は袖を破くと肩に巻き、止血した。
「大丈夫ですか?」
「大した事はない」
心配している様子の健斗に窪田は笑顔を見せる。
「記憶というのはすごいんだな。pHの記憶を持っているだけであそこまでやるとは思わなかった」
「すいません、何の役にも立てなくて……」
「確かに観測手として優秀な凛が向こうにいたのは厳しかった。とはいえ、それがなくても結局負けていたよ」
窪田の心には完敗という言葉が浮かんでいた。
イレイザーに入った時から窪田はpHの補佐を任されてきた。
そして、当時の窪田はスナイパーとしての実力をほとんど持っていなかったが、pHの技術を自然と自分の中に吸収していった。
初めは窪田が観測手としてpHをサポートする事が多かった。
それがある日、pHが観測手をやると言い、窪田が標的を狙撃する事になった。
当然、その時は緊張で手が震えた。
しかし、窪田は無事に標的を狙撃出来た。
その事をきっかけに、どちらが標的の狙撃を行うかはその時の気分で決めるようになった。
時にはpHと2人でどちらも観測手にならず、複数の標的を狙撃した事もある。
そうした経験を経て、窪田はスナイパーとしての実力を鍛えていった。
しかし、pHの実力に追い付く事はいつまでも出来なかった。
pHが行方不明になり、次第に窪田はイレイザーで最も優秀なスナイパーと言われるようになった。
それでも窪田はpHを超えた気になれなかった。
そして今、pHの記憶を持っている司と対峙し、窪田は完敗した。
窪田はその事を悔しいと思う反面、嬉しいとも思っていた。
pHがいなくなってからしばらくが経ち、自然と目標を見失っていた。
しかし、自分はまだまだpHには届いていないと自覚出来、また目標が出来たのだ。
「今から追っても逃げられるだろう。作戦の練り直しだ。あいつらの行動を先読みするぞ」
「……はい!」
窪田の言葉に健斗は嬉しそうな表情を見せる。
その事が窪田は嬉しかった。
イレイザーに入った頃、窪田はまだ若かった。
そして若いからこそ持てる向上心のようなものを持っていた。
今の健斗は正に若い自分そっくりだ。
司はpHの記憶だけでなく、その実力すら持っているため、相手をするのは困難だ。
しかし、だからこそ本気を出せる相手とも言える。
そこで窪田は左手で右肩を強く握った。
傷を負っているため、そんな事をすれば当然激痛が走る。
その痛みにより窪田は頭を覚醒させた。
「よし、行くぞ」
窪田は改めて胸に決意を抱き、その場を後にした。