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司は零次達が移動を開始してからも少しの間は追跡者がいないか様子を見ていた。

「もう大丈夫みたいね」

司のそばには双眼鏡を手にした凛がいる。

「記憶を持ってるだけでこんな事も出来るのね」

「俺もここまで出来るとは思わなかった」

零次の考えた策は単純だった。

司の代わりに零次が加代子の下へ行き、司と凛はここからそれを援護するだけだ。

しかし、それを達成するためには重要な条件があった。

「こんな所から狙撃出来るなんてね」

2人は地上から数百メートル上空、建物の屋上にいる。

そして、司の手にはスナイパーライフルが握られている。

「凛の指示も的確で助かった」

「窪田さんも狙撃手で、私は観測手としてサポートしてたから慣れてるのよ」

pHの記憶を利用すれば司が狙撃手として動けるはずだという零次の提案は正解だった。

念のため、事前に数百メートル先の標的を狙撃出来るか試したが、司は特に問題なく標的に銃弾を当てる事が出来た。

しかし、1キロも離れた銃を撃ち落とす事まで出来るとは思っていなかった。

「私達もそろそろ移動するわよ」

「ああ、そうしよう」

その時、近くで火花が散り、2人は伏せる。

「何処かから狙撃されてる」

「え?」

司は一瞬だけ顔を出し、何処に狙撃手がいるのか確認する。

その時、また近くで火花が散った。

「ここを除けば1番高いビルの屋上にいる」

「高さを考えれば、こっちが有利だけど……」

凛は双眼鏡を使い、司が言ったビルを確認する。

「……窪田さんよ」

「どうする?」

「このまま逃げようとしても狙い撃ちされると思うし……」

凛の言葉を受け、司はスナイパーライフルを握り直す。

その時、突然司の視界が真っ白になった。


狙撃をする際にも使用しているビルの屋上でのんびりと夜空を見る。

たまにはこんな事をするのも悪くない。

その時、風に乗って煙草の匂いがした。

「また吸ってるのか?」

「煙草の税金で国の財政は助けられてるんです。これは排除しないで下さいよ」

「お前の健康を考えれば排除したいけどな」

そう言ったものの煙草の匂いはそこまで嫌いじゃない。

むしろ好きな方だ。

「今度の仕事はどうするんですか?」

その質問から彼が何を聞きたがっているのかはわかった。

「殺人は罪だ。それは間違いない」

唐突な気もしたが、この話が彼の質問に対する答えになると考え、話す事にした。

「人を殺すと罪を背負う事になると知っているから誰もが人を殺す事に抵抗を持つ。笑いながら人を殺すような奴だって単に自分を騙しているか自らの感情に気付いていないだけで本心……というより本能では強い抵抗を持っている」

これは間違いない事実だと思っている。

「でも、罪を背負う事になると知っていながら、人を殺さなければならない時がある。死ぬべき人間が生きている時だ。誰かがそいつを殺さなければならない」

「そうですね……」

「俺には能力があり、それによって出来る事がある。そしてそれは自分のするべき事でもあると考えている。それをした結果、罪を背負う事になったとしてもだ」

イレイザーの仕事はそういうものだ。

「とはいえ、罪を背負うというのは大変な事だ。だからイレイザーが標的に選んだとしても、そいつを殺すべきかどうかは自分で判断する。今回の仕事も同じだよ」

「はい、わかりました」

そこで彼は軽く笑う。

「今、私がこの仕事をしているのは、あなたの考えに賛同しているからです。ただ……あなたの言う通りイレイザーは暴走しています。だから一緒に止めます」

それは心強い言葉だった。

そして間違った方向に進んだイレイザーを止めるための協力者は彼にしようと決めた。

自分のするべき事はもうあまりない。

次の仕事が終わったら、自分を犠牲にしてでも……。


「司!」

名前を呼ばれたと同時に司の視界が戻った。

「大丈夫?」

「大丈夫だ。とにかくどうにかしよう」

「どうにかって……」

「協力してくれ」

凛は少しだけ迷っている様子だったが、頷いた。

「でも、窪田さんはイレイザーの中で1番技術を持った狙撃手って言われてるの。まともにやっても……」

「相手よりも先に相手の位置がわかれば良い。向こうの癖を知っていれば、俺の取るべき行動もわかるはずだ」

「……言われてみればそうね」

凛は司の言葉を受け、頭を働かせているようだ。

「狙撃手同士の撃ち合いは何回かやった事あるんだけど、基本は陰に隠れながら移動を繰り返して向こうから狙い辛くする事よ。反対にいかに早く相手の位置を特定して狙撃出来るかも重要になってくるけど……」

「向こうは何処にいる? そして俺は何処に移動すれば良い?」

凛は唇を噛み、焦っている様子だ。

しかし、時間を掛けてはいけないと判断したのか、決断した様子を見せる。

「窪田さんはこっちから見て右に移動しているはずよ。司は位置を変えずにそのままの位置から撃って」

「ここで良いのか?」

「窪田さんは司が移動すると思い込んでるはずだから、逆に移動しない方が効果的だと思うの」

「そうか、わかった」

「出るタイミングも私が指示するから」

そして、司は凛の声に集中する。

「……今よ!」

司は立ち上がると少しだけ右にずらして照準を合わせる。

それと同時に窪田が姿を見せた。

司は迷う事なく銃を撃つ。

その銃弾は窪田の右肩を捉えた。

「肩に当てた。今のうちに移動しよう」

司はスナイパーライフルを分解するとバッグに仕舞う。

「窪田さんを相手に勝てるなんて……」

「窪田という人はpHの補佐をしていたらしい。何処かビルの屋上で話をした時の記憶があった」

「え?」

司の言葉に凛は驚いた様子を見せる。

「pHは窪田以上の狙撃手だ。こちらが不利な状況でない限り勝てる」

「pHの記憶、全て認識出来るようになったの?」

「いや、認識は出来ていない。ただ体で覚えるという言葉があるが、あれは感覚で体が勝手に動く程記憶しているに過ぎない。それは潜在記憶に近いものだ。そうした記憶は認識出来ないものの記憶として全て機能しているようだ」

「それで銃を撃ったり出来るって事なの?」

「そういう事になる」

2人はビルを出ると車に乗り、また凛の運転で走り出す。

凛は運転しながら複雑な表情を見せている。

「……こんな事しない方が良かったわね」

「え?」

「記憶のせいとはいえ、司程の実力を持った人、裏の世界でもそんなにいないと思うの。だからたとえ命を狙われなくなったとしても、司の事を放っておかない人がいるはずよ」

凛の言う通り、司は自分が平凡な大学生の域を超えた事をしていると自覚している。

しかし、司の中で決めている事があった。

「全て解決したら平凡な大学生に戻る。pHの記憶をどうにかして消す方法も探すつもりだ」

そこで司は言葉を切る。

「……でも、それまでは生き残るためにpHの記憶を使うつもりだ。それが自分の出来る事で、するべき事だ」

それは先程思い出したpHの記憶により、生まれた考えだった。

司の言葉に凛は何処か納得いかない様子を見せたが、特に何も言わなかった。

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