表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/77

21

窪田達は途中で車を調達した後、健斗の運転で街を走らせていた。

「その先にある地下駐車場に入れ」

その指示に従い、健斗は地下駐車場に入ると空いていたスペースに車を止めた。

「じゃあ、行ってくる」

窪田は車を降りると駐車場をさらに奥へ進んだ。

すると途中でゲートがあり、窪田はそれを潜った。

それからまた少し歩き、今度はドアがあった。

窪田はドアの近くにいた警備員に自らが持つIDカードを提示する。

「進め」

警備員はそれだけ言った後、IDカードを返してきた。

IDカードを持たずにここを訪れた者は奥に通されない。

それでも無理やり奥へ行こうとした者に対しては、ここにいる警備員が隠し持っている銃を使い、排除する事になっている。

ドアを抜けてさらに進むとそこには外の警備員と異なり、明らかに武装した者がいる。

そのため、強行突破を試みた者がいた場合、ここで排除される事になる。

窪田はいつもここを通る時、当然良い気分にはなれずにいるが、他に道がないため諦めている形だ。

こうして窪田がやってきたのはイレイザーの本拠地だ。

窪田がイレイザーの本拠地に戻るのは数週間振りになる。

仕事の依頼等は携帯電話を通じて送られるため、ここへ戻らずとも受けられる。

そのため、イレイザーに所属しながらここを全く訪れない者もいる。

窪田は奥へ進むと1つの部屋の前に立つ。

「武器は全てここに置いていって下さい」

そこにいた者からそう言われ、窪田は銃やナイフをその場に残し、それから部屋に入った。

「やあ、よく来たね」

部屋の中には5人の男女がいた。

その中には自分と同じ程度の年齢の者もいれば、初老と呼べるような年配の者もいる。

窪田は以前にもこの者達に会っている。

組織の仕組みとして見た時、イレイザーには一般企業と何ら変わらない部分もある。

彼らは一般企業に当てはめると重役の権限を持っている形だ。

イレイザーの中で標的を決める権限は彼らにのみある。

また、彼らはイレイザーにとって何があっても守らなければならない存在である。

そうした理由で彼らは身の安全を確保するため、外へは一切出ずにここで寝泊まりをしている。

「君の活躍にはいつも助かっているよ」

「pHを超える日も近いかもしれないですね」

彼らはそんな世間話のような事を始めたが、窪田としては早く本題が聞きたかった。

とはいえ逆らう事も出来ず、窪田は黙って話を聞いていた。

「そんな優秀な君だから、pHの記憶の抹消については君が中心になって取り組んでもらえれば良いと思ってたんだけど……」

「引き続き私に任せて下さい」

窪田は真剣な態度で返事をした。

しかし、それに対して彼らはバカにするように笑い出す。

「凛が標的を守っているというのは本当ですか?」

「はい、事実のようです」

「彼女はあなたが推薦してイレイザーに入れただけでなく、今まで補佐として常に近くへ置いてましたね? そんな彼女が裏切り行為に及んでいて驚いていますよ」

「もしかしたら、あなたも裏切るつもりなのではないかと私達は心配です」

どうやら窪田がここへ呼ばれた理由はこれらしい。

「凛がこのような行為に出ている理由はわかりません。しかし、私はイレイザーの意志に従うだけです」

「では先程、標的を逃したのは何故ですか?」

「pHの記憶が入ったSDカードは始末しました」

「私が言っているのは神野司と凛、さらに一緒にいたもう1人の事ですよ」

「彼らは全員逃亡……優秀なあなただったら1人ぐらいは始末出来たはずですけど?」

窪田は自らも疑われている事に気付いている。

下手な事を言うだけでなく、長考して話を止めてしまっても疑いを大きくしてしまうのは明らかだ。

「それは彼ら……特に神野司を甘く見ていたためです」

「あなたの標的は神野司だけではありません。神野司さえ始末すれば、凛が戻ってくる等と考えていたんじゃないですか? だから凛をわざと殺さなかったんじゃないですか?」

「言っておきますが、凛も始末して下さい。彼女はイレイザーを裏切ったんです」

「お言葉ですが、私もそのように考え行動しています」

あまり下手な事は言えないが、ここは強く言うべきだと窪田は考えた。

「彼らの中で最も始末し易く、また始末するべき標的は神野司だと考えていました。pHの記憶を持っているのはただの大学生である彼です。イレイザーに所属する凛や正体不明の協力者より、狙うべきは当然彼です」

「その神野司も始末出来ていないのは何ででしょうね?」

「それは先程も申した通り、彼を甘く見ていたためです。pHの記憶が影響しているのか彼は強いです」

「あなたには荷が重いという事ですか? それでは別の者に任せましょうか?」

自分の話をあまり聞こうとしない彼らに苛立ちを覚えたが、窪田はそれを表情に出さないよう努める。

「私にやらせて下さい。pHの記憶をどれだけ持っているかわかりませんが、神野司を始末する事はpHを始末する事と同義だと思いました。並の者が行けば返り討ちに遭います」

その言葉に彼らは考え込むような様子を見せる。

「わかりました。pHの補佐をしていたあなたにお願いするのが1番という事ですね」

「ありがとうございます」

「ただ、それ程の相手であるという事を考慮して他の者にも協力させます。良いですね?」

「……信用されていませんね。私が始末する事になるので無駄になるかと思いますが、それでも良ければ構いません」

「では、頑張って下さい」

窪田は最後に頭を下げてから部屋を出ようとしたが、ドアの近くで足を止めた。

「念のため確認しますが、pHが生きている可能性はないと考え、神野司を始末して良いんですね?」

pHの遺体は未だに見つかっていない。

しかし、既にイレイザーの中でpHは死亡したという事にされている。

「1年間、我々に見つからずにいる等ありえません」

「まさか、そんな事を考えて神野司を見逃したんですか?」

「念のため聞いただけです。そういう事でしたら始末します」

窪田は最後にもう1度だけ頭を下げた後、部屋を出た。

ここには彼らの他にオペレーターや情報分析を行う者、各技術を発展させようとする研究者等がいる。

しかし、どれもここの常識に捕らわれているように見え、窪田は好意的に思っていない。

そのため、長居する事なく早足で歩き、数分程でここを出てしまった。

「どうでしたか?」

健斗は駐車場に止めた車の中で待っていた。

凛がいなくなり、窪田の下には新たな補佐として健斗がやってきた。

健斗は凛と同様に経験が浅く、戦力としては乏しいと考えている。

しかし、空手と柔道を用いた近接戦闘は優れているとの話も聞いている。

先程、司達と対峙した時は不意打ちを受ける形になったため、その実力を発揮出来なかったようだが、近接戦闘が苦手な窪田としては心強いパートナーになる可能性もあるため、育てがいがあると考えている。

「他の者が協力するそうだ」

「そうなんですか? やりましたね」

喜んでいる様子の健斗を前にして、自分が信用されていないためだと窪田は言えなかった。

こうした状況を理解出来るようにする事も今後の課題と思いながら、今は健斗に合わせて笑った。

そして2人はその場を後にするとまた移動を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ