20
加代子が目を覚ました時、そこは何処かホテルの一室だった。
部屋の中には自分しかいなかったが、外に出ようとしてもドアが開かず、閉じこめられている状態だった。
携帯電話があれば誰かに連絡する事も出来たはずだが、当然のように持ち去られていたため、それは無理だった。
そして加代子は特に何もする事なく、半日程過ごした。
冷蔵庫を開ければ食べ物もあったが、加代子は食べる気になれず、手を付けなかった。
次第に加代子は自分がどういう立場にいるのか考え始めた。
そして、ここへ連れて来られる前の事を思い出す。
記憶が確かであれば、刑事を名乗る者から車に乗るように言われ、それから意識がない。
ただ、そこで何か重要な事があったような気がしたため、必死に記憶を呼び起こした。
そして自分を車に乗せた者が司の話をしていた事を思い出す。
彼らは司を捕まえ、何か言う事を聞かせようとしている様子だった。
そのために加代子を人質として誘拐したのだ。
そこまで思い出したところで加代子はここを出ようと行動に移る。
それはここに自分がいる事で司に迷惑を掛けてしまうと思ったからだ。
加代子は部屋の中にあった椅子を手にすると、ドアに向けて思い切り叩き付けた。
しかし、ドアはビクともしなかった。
「開いてよ!」
加代子は力を込めて何度も椅子をぶつけたが、状況は変わらない。
次第に疲れてしまい、そうした行動を加代子は止めた。
それから少しして、鈴木と名乗ったあの女性がやってきた。
「気分はどう?」
加代子は逃げるチャンスかと思ったが、部屋の外で待機している者がいるようだと知り、素直に言う事を聞く事にした。
「何も食べてないの?」
鈴木は冷蔵庫の中に目をやり、そんな事を言った。
「何か食べた方が良いよ」
「私をどうするつもりですか?」
「別に危害を加えるつもりはないから安心してよ」
そこで加代子は核心に迫る事にした。
「じゃあ、司をどうするつもりですか?」
そんな質問をぶつけると、鈴木は笑い出した。
「彼にも危害を加える気はないよ。ただ……」
そこで鈴木は加代子を怖がらせようとしているかのように睨み付ける。
「どちらも言う事を聞いてくれたらの話だけどね」
丁寧な言い方がさらに加代子を不安にさせた。
「何が目的なんですか?」
「それは別にあなたの知らなくて良い事よ」
そう言われ、加代子はこれ以上詮索出来なくなってしまった。
「あなたが心配する事は何もないの。だからそんな顔しないでよ」
鈴木はそう言うと笑顔を見せる。
「それじゃあ私はもう行くけど、もうしばらくここで大人しくしてもらえる?」
鈴木は最後にそう言うと行ってしまった。
鈴木が部屋を出て行く際に無理やり外へ出ようとも考えたが、下手な事をして司に迷惑を掛ける危険もあったため止めた。
今、加代子は言う通りにすれば危害を加えないという言葉を信じるしかなかった。