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02

買い物をしている親子。

手を繋いで歩くカップル。

大袈裟なリアクションをしながら話をする女子高生。

道に迷っているのか地図を片手に辺りを見回す老人。

人の話し声や何処かの店で鳴らしているBGMといった様々な音が存在しているものの、それらは混ざり合ってしまい1つ1つは聞き取れない状態だ。

そんな街の中心に足立アダチ リンはいた。

何故ここに凛がいるのか。

その事を凛自身も知らない。

ここにいる理由も目的もわからないまま、何故かいるのだ。

ただ凛は目の前に広がる、こうした光景が好きだ。

うるさいと文句を言う人もいるが、こうした人の作り出した騒がしい光景を見ると、凛は元気をもらえるのだ。

そのため、自分がここにいる理由を考える事なく、凛はただこの光景を眺めている事にした。

その時、1つのノイズが視界に入る。

全身血だらけで右手にはナイフを持った男がやってきたのだ。

男は周りにいる人を見てはニヤニヤと笑っている。

そんな不審な人物がいるにも関わらず、他の者は何の反応も見せない。

それはまるで、その不審者が他の者には見えていないかのようだった。

凛が凝視していると、その男は1人の女の子に狙いを定めたのか、ゆっくりと近付いて行った。

咄嗟に凛は男を止めようとしたが、何故か足が動かない。

そのため、凛はどうする事も出来ないのかと悔しそうに唇を噛む。

しかし、そこで凛は気付いた。

足は動かないが、両手は自由に動く事。

さらに右手には銃が握られている事。

凛が銃の存在に気付くと同時に腕が勝手に上がり、男に照準を合わせた。

今ここで凛が引き金を引けば、男は死ぬ。

そして女の子は助かる。

凛はそう理解し、真っ直ぐ男を見た。

男は既に女の子のすぐそばに立ち、今にもナイフで切り付けようとしている。

凛は決心するように大きく深呼吸をした。

……しかし、引き金を引く事は出来なかった。

その直後、男はナイフを振り、女の子の首から血が飛び散るのが見えた。

そんな事が起こっているにも関わらず、凛以外の人物は気付いていないのか、何の反応も見せない。

思わず凛は目を閉じてしまった。

それから数秒後、凛はゆっくりと目を開ける。

「……え?」

そこは静かな世界だった。

人は全て倒れ、血を流している。

建物も全て壊れ、BGMも聞こえない。

そんな静かな世界の中心にあの男がいた。

「あなたが私を殺さなかったからこうなったんですよ」

男は相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべている。

「そうだよ……」

ふと足下に目をやると、先程の女の子が血だらけになり、自分を睨んでいる。

「お姉ちゃんのせいだよ」

「お前のせいだ」

「あなたのせいです」

そんな声が周りから聞こえ、凛は耳を塞ぐ。

「わかってる! わかってるから止めて!」

いくら耳を塞いでも、入ってくる声を抑える事は出来ない。

ここから逃げ出そうとしても、相変わらず足は動かないままだ。

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

凛は何度も謝罪の言葉を叫ぶ。

しかし、声は消えなかった。

その時、いっそう大きな声が凛の耳に入る。


「おい、起きろ!」


凛は目を開けると周りを見た。

そこはビルの屋上で下を見ればキレイな夜景が広がっている。

一瞬、凛は何が起こったのか理解出来なかった。

「大丈夫か? うなされてたぞ?」

その言葉で凛はやっと夢を見ていたのだとわかった。

気付けば、全身汗だくで気持ちが悪い。

顔を上げると、窪田クボタが心配そうな表情をしている。

「大丈夫です。すいませんでした」

凛の言葉に窪田は納得していない様子だったが、特にこれ以上言ってくる事もなかった。

ふと凛は自分の腰に手を当てる。

そこには先程の夢にも出てきた銃がある。

もしも先程のような状況になったら自分は引き金を引く事が出来るだろうか。

それとも『あの時』と同じように、今度もまた撃てないのだろうか。

凛はそんな質問を自分に投げ掛けてみたが、答えは出なかった。

「そろそろ時間だ。標的は3つ。しっかりフォローしろよ」

「はい」

凛は軽く頭を振ると覚醒させた。

そして双眼鏡を手に取り、神経を集中させる。

それから数分後。

双眼鏡を通し、凛はワゴン車を確認する。

「標的を見つけました」

その言葉に反応するように窪田はスナイパーライフルを構える。

「3台とも確認出来てるか?」

「今、確認出来るのは2台……いえ、3台目も来ました」

2人の標的は3台のワゴン車だ。

1台が少しだけ遅れていたが、それも追い付き、今は3台が1列に並んで移動している。

「建物の陰に隠れられると厄介だ」

「わかっています」

凛はワゴン車を追うだけでなく、道の状況等も併せて確認する。

幸い今は深夜で人通りも少なく、無関係な者を巻き込む危険はないと思われる。

しかし、それは同時に標的にとって逃げやすい状況を作り出しているともいえる。

昔のスナイパーライフルに比べれば今は連射も出来るようになり、標的を狙撃し易くなってはいる。

しかし今、狙撃手は窪田1人しかいないため、下手に狙撃を開始すれば2人の存在を察知され、逃げられてしまう可能性がある。

その事をよく知っているからこそ2人は慎重になる必要があった。

「一本道に入ります。ここで止めましょう」

凛は3台が脇道のない一本道に入った事を確認し、タイミングを計る。

窪田も凛の指示により、すぐに撃てるよう銃を構え直す。

「……先頭のワゴン車を撃って下さい」

その言葉と同時に窪田は数発だけ撃った。

銃弾は的確にワゴン車を捉え、フロントガラスを割った。

さらにそのうちの1発がワゴン車の中にあった、本当の意味での標的に当たる。

同時に爆発が起こり、ワゴン車は大きな炎を上げる。

「窪田さん、3台目のワゴン車がバックして逃げようとしています!」

「わかった」

窪田は凛の指示を冷静に聞いている様子だ。

そして窪田が引き金を引くと、また爆発が起こった。

「最後の1台は何処だ?」

「無理やり1台目の横を通り抜けたようです。一本道を抜けて今はその先の信号を超えて……いえ、曲がろうとしています!」

その先には建物があり、狙撃が難しくなってしまう。

その事を察知し、凛は窪田に出すべき指示を瞬時に導き出す。

「煙草の看板を確認出来ますか? その手前で止めて下さい」

ワゴン車が通った道を追う形では窪田が見つけられないまま、ワゴン車を逃がしてしまう可能性がある。

そのため、窪田には先回りするように標的を探させた。

結果的にそうした凛の指示は的確だった。

「見つけた」

窪田はまた引き金を引き、3度目の爆発が起こった。

同時に窪田は構えを解き、スナイパーライフルの分解を始める。

「止められましたね」

「作りの悪い爆弾で良かった。銃で撃ち抜いても爆発しないものもあるからな」

「もしそうだったらどうしたんですか?」

凛の質問に窪田は手を止める事なく笑う。

「乗ってる奴を順番に狙撃して殺したよ」

そんな事が出来るのかと一瞬感じたが、窪田の腕なら容易い事なのだろうと凛は納得した。

現に窪田は3台のワゴン車の中にあった、それぞれの爆弾に銃弾を命中させている。

「よし、誰か来る前に行くぞ」

誰かがここに来る可能性等、ほとんどない。

しかし、凛はその指示に従い、窪田と共にその場を後にした。

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