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3人は途中で車を盗むとそれに乗り換え、隠れ家に戻った。

「昨日来たばかりだけど、ただいまって言いたくなるね」

零次はそう言うと伸びをした。

凛は特に何も言わず、椅子に座る。

「話、聞いてもらっても良い?」

「ああ、むしろお願いしたいぐらいだ」

司も椅子に座り、凛の方を向いた。

「あなたが朝言っていた高野俊之という人物はpHが姿を消した時に標的となっていた人物なの」

「何で標的になったんだ?」

「彼はウイルスの研究をしていて、ある日シヴァウイルスと呼ばれるウイルスを生み出す方法を見つけてしまったの」

「シヴァ……神話に出てくる破壊神の名前か?」

「シヴァウイルスは高い感染力を持ちながら発症までの1週間程は何の症状も出ないの。だから感染しても発症までは気付かずに感染を広げる危険があるのよ」

「発症するとどうなる?」

凛は険しい表情を見せ、その質問にはすぐ答えなかった。

「……内臓を破壊して死に至らしめると言われてるの。発症してからすぐにウイルスを除去出来たとしても破壊された内臓は元に戻らないから、気付いた時には手遅れである事がほとんどみたい」

凛の言うシヴァウイルスがどれ程危険なものなのか、司は理解した。

「と言っても、シヴァウイルスは感染力を下げた試作段階のものが生み出されただけで、実際にはこの世に存在しないウイルスだから安心して」

「でも、高野俊之はそれを生み出す事が出来たんだろ?」

「そこからは確かな情報がなくて、その可能性が高かったとしか言えないの。ただ、イレイザーは彼を危険だと判断したのよ」

後に殺人ウイルスを作り出してしまう危険があるとして、イレイザーは高野俊之を標的にしたらしい。

「今から約1年前、去年の7月10日に高野俊之は遺体として見つかって、pHは姿を消した」

凛はそこで言葉を詰まらせる。

それは何かを言うべきかどうか迷っているように見えた。

「私は高野俊之の……死の真相を知りたいの。pHが関わっている事はほぼ確実だから、今までpHの行方をずっと追っていて、それであなたを見つけた」

「何でそこまで高野俊之という人物の死に固執するんだ? そのシヴァウイルスと何か関係があるのか?」

その質問に凛はなかなか答えなかった。

司はその様子から凛が言うべきかどうか迷っている事の答えが司の質問の答えなのだろうと気付いた。

「別に言いたくないなら……」

「親子なんでしょ?」

口を挟むようにして言った零次の言葉に凛は驚いた様子を見せる。

「どうやって調べたのよ!?」

「あれ? ホントにそうだったの?」

その言葉で零次が鎌を掛けていたんだとわかった。

しかし、凛は弁解する事を諦めたのか溜め息を吐く。

「戸籍上は赤の他人でしかないけど……高野俊之は私の父なのよ。母の両親に交際を反対されて一緒になれなかったんだけどね」

凛は少しだけ間を空けた後、また口を開く。

「私が幼い時に母が亡くなって、私はずっと母方の祖父母に育てられたの。それで父は私が生まれる前に死んだと聞かされていたのよ。だから私は父がいるなんて知らなかった。でも、偶然お互いの存在を知る事が出来て1度だけだったけど会う事も出来たのよ」

司は特に何も言わず、凛の話を聞いていた。

「今まで赤の他人だったけど、これから親子として過ごせると思った矢先、父が死んだの。私は悔しくて……父の遺体が見つかった場所でずっと泣いてた。そこでさっきいた窪田さんに会ったの。それでイレイザーに入らないかと誘われて……」

「何で窪田という人物は君を誘ったんだ?」

「窪田さんに声を掛けられた時、私は高野俊之の娘だと名乗ったの。そしたらそれを誰にも言うなって言われて……それからイレイザーに入って父の死の真相を追わないかって提案をされたのよ」

「命を狙われる危険があったからだろうね」

零次の言葉に凛は驚いた様子を見せる。

「私が命を狙われるって事?」

「高野からシヴァウイルスを預かった奴がいるかもしれねえって考えた時、娘である凛ちゃんがまず候補に挙がるでしょ?」

司も零次の考えに同感だった。

「てか、シヴァウイルスに関するデータが見つかってねえみたいだけど、それはおかしいでしょ? 全て破棄したのかもしれねえけど、何処かにデータが残ってるって可能性も否定出来ねえし」

「でも、私はそんなもの預かってないわよ?」

「実際はどうかなんて関係ねえんだよ。消えたシヴァウイルスのデータを持ってるかもしれねえって思われた時点でイレイザーなんかに狙われる理由としては十分だよ」

零次は携帯電話を操作し始める。

「でもすごいね。あの窪田って人が情報操作してたのか、高野俊之に娘がいたなんて情報は何処にもねえみたい。あの人、凛ちゃんにとっては味方なのかもしれねえよ。といっても……」

零次はそこで携帯電話の画面を見せてきた。

「どっちにしろ今は司だけでなく、凛ちゃんもイレイザーの標的になっちゃってるけどね」

いつの間に撮られたのか、そこには司と凛とさらに零次の顔写真があった。

「あなたの写真も載ってるじゃない」

「まあ、俺はまた後でイメチェンするよ」

その言葉から、こうした事を想定して零次は変装しているのだろうと司は考えた。

「それよりおかしいんだよね」

零次はわざとらしく首を傾げる。

「さっき俺達があそこにいるって情報だけじゃなく、pHの記憶が入ったSDカードを持ってるって情報も流れてたんだよ。おかげで吹っ飛ばされたし……」

その言葉に司も疑問を持つ。

「どうしてそんな事まで知られたんだ?」

「そんなのわからねえよ。どっから情報が漏れたのかも載ってねえし。とりあえず、SDカードの件はイレイザーとかにとっても盲点だったみたいで、だからこそ今まで残ってた訳だし、それが急に存在を明らかにされたと同時に標的にされるなんて違和感あり過ぎなんだよね」

「とにかく、これからどうする? pHの記憶もないし、打つ手なしだろ?」

その言葉に対し、零次は笑みを見せる。

「そんな事ねえじゃん。pHの記憶は司の頭の中にあるんだから、それを探れば良いだけだし」

「あ……」

そこで凛は何かを思い出した様子だった。

「リライトすれば良いんじゃない?」

リライト。

それは元々ある記憶を覚え直す事だ。

これにより微かな記憶を明確に思い出せるようになる。

「イレイザーも記憶に関する技術を独自に研究しているって話したけど、リライトの技術についても優秀なのよ」

「だからってイレイザーに捕まる訳にはいかねえし、どうするの? 何処かそのリライトってのが出来る場所は他にあるの?」

零次の質問を受け、司は考える。

「とりあえず、うちはリライトの研究をしていないから無理だ」

「他人の記憶を入れられるんなら、自分の記憶を入れ直すって事も出来るでしょ?」

「それが全然違うんだ。当初はリライトの仕組みを利用しようしたけど、全く使えなくて別の手段を使っている。だからリライトの研究はそこまでやっていないんだ」

「だったら、誰か他の人にお願いするしかないわね」

そこで、司は加代子の事を思い出す。

「他の研究者とのやり取りは加代子が中心になっていたんだ。加代子なら協力してくれる人を知っているかもしれない」

「あ……」

加代子の話をしたところで零次が見せた反応が司は気になった。

「どうした?」

「さっきナンパしてる時に聞いたんだけど、司の彼女が昨夜車に乗せられてるのを見たらしいよ」

「え?」

「しかも眠らされてるようで、見ようによっては何処かに連れてかれてるようだったって」

凛は慌てた様子で携帯電話を操作する。

「いくら何でもイレイザーがそこまでする訳ないし、現にそういった情報もないけど?」

「俺はガーディアンがやったと思ってるよ」

司は正人から聞いた加代子の携帯電話番号を思い出す。

「加代子の携帯電話に電話を掛けたい。どの電話から掛ければ良い?」

「それならこれを使いなよ。人工衛星なんかも中継させるからここが特定される事はねえし」

零次から携帯電話を借り、司は加代子に電話を掛ける。

しばらくコール音が鳴った後、相手が電話に出た。

しかし、相手は自らを名乗る事すらせずに黙っている。

その時点で加代子ではないと司は確信した。

「神野司だ。加代子をどうした?」

「やっと連絡してくれましたね。私は佐藤と言います」

司はそこで佐藤と名乗る男からどれだけ情報を得るかという事に努める。

「目的は……俺の記憶か?」

「その通りですよ」

「イレイザーに所属していた狙撃の記憶なんて何の役に立つ?」

イレイザーがpHの記憶を狙う理由はpHが持っているとされる機密情報が外部に広まる事を防ぐためと考えられる。

その事を考えれば、自ずとガーディアンの目的も予測出来たが、確認のため直接聞く事にした。

「イレイザーを潰そうとでも考えているのか? そのためにpHの情報を使おうとしている。違うか?」

「何を探ろうとしているんですか?」

「加代子の無事を保障してもらいたい。そのために何を求めているのか、さらにはその求めているものを提供出来るかを知る必要がある」

司は下手に出る事なく、強気な態度を示す事で主導権を握る事に成功していた。

「そうですね……」

そこで佐藤は何か考えているのか、黙ってしまった。

そのため、司は考える時間を与えないよう、さらに話をする事にした。

「そもそも、お前はガーディアンの中で地位を持っているのか? もし違うのであれば、今ここで加代子の無事を保証出来る奴に代われ」

「それなら私が出来ます」

「だったら言う。加代子の安全が保証出来ないのであれば俺は銃で自らの頭を撃つ。知ってるかもしれないが、もうpHの記憶はデータとして残っていない。俺が死んだ時点でpHの記憶を入手する事は出来なくなる」

その言葉に対し、佐藤は笑い出す。

「あなたに何かあったら、彼女は……」

「解放するだろ? ガーディアンの目的は人殺しじゃないはずだ」

佐藤が何も言い返してこないのを確認し、どうやら図星のようだと司は判断する。

「お前達の目的は俺ではなく、pHの記憶……さらに言えばpHが持っていた特定の情報のはずだ。それが何なのか教えて欲しい」

そこでしばらくの間、お互いに黙ってしまった。

「今夜9時に二和木公園の中央広場へ1人で来て下さい。そこで小泉加代子に会わせます。私達の目的についてもそこで話しますよ」

それだけ言われ、電話は切れてしまった。

「どうするの?」

「今夜9時、二和木公園の中央広場に1人で来いと言っていた」

「その公園、通常は夜に入れないわね」

「しかも中央広場って事は見晴らしも良いし、俺達がついて行けば確実にばれるね。まあ、確実に司1人で来させたいって事でそうするんだろうけど……」

零次はそこで酒を取り出す。

「また飲む気なの?」

「待ち合わせは9時だし、策を考えるよ」

そのまま零次が酒を飲み出したため、凛はまた呆れた様子を見せる。

司はそんな零次達とは別に1人でどうするべきか考えていた。

そこで司はスナイパーライフルに目をやる。

「そっか、そういう策もありだね。司、試して欲しい事があるんだけど良いかな?」

司を見て何か閃いたのか、零次は笑った。

その時、司は零次が何を考えているのか、すぐに理解した。

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