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女は逃げていた。

ここが何処なのか女は知らない。

何故ここにいるのかも女は知らない。

そもそも追ってきている者が何者なのかすら女は知らない。

それでも女は逃げていた。

そこで女はドアを見つけ開けようとしたが、何かに塞がれているのかビクともしない。

ここは何処か無機質な印象を与える場所だ。

また、部屋や廊下は複雑な作りで迷路のようになっている。

女はここから出ようと中を駆け回っているが、行き止まりや開かないドアが多く、出口に辿り着ける気がしないでいる。

そこでまた足音が聞こえ、女は先に進む。

先程から聞こえる足音の正体も女は知らない。

しかし、この足音に追い付かれてはいけないと思っている。

廊下にはいくつもドアがある。

女はそれを1つ1つ確認したが、なかなか開くドアを見つけられなかった。

このまま廊下を進んでも先で行き止まりになっている。

開くドアが見つからなければ、足音に追い付かれるのは確実なため、女は焦りを持った。

そこでドアが開き、女は中に入る。

しかし、中に灯りがなかったため女は足を止めた。

これまで廊下等には灯りがあった。

それも眩しいぐらい強い灯りが多かった。

そのため、女の目は暗闇に慣れず、何も見えない状態だ。

代わりに何なのかわからないが、鼻を突くような匂いがして女は顔をしかめる。

しかし、ここで止まっている訳にもいかないと女はゆっくり奥に進んだ。

そこで何かにつまずき、女は転ぶ。

そこにあったのは小石のようなものではなく、何か大きなものだった。

真っ暗で何なのか見る事が出来ないため、女にはそれが何かわからない。

最も本当はそれが何なのか確信に近い推測を持っていた。

しかし、そんな訳がないと否定する気持ちが強く、その推測を自ら拒否していたのだ。

そこで突然灯りが点き、辺りが明るくなる。

同時に女は悲鳴を上げる。

女がつまずいたものは男の遺体だった。

それだけでなく、この部屋にはいくつもの遺体があった。

中には腐乱が進んでいるものもあり、それが鼻を突く匂いの正体だったらしい。

「皆さん、最後はこの部屋に辿り着くんです。あなたもそうでしたね」

そんな男の声が聞こえ、女は振り返る。

そこには仮面を被った男がいた。

顔はわからないものの、女は男の声に聞き覚えがあった。

そして今夜、何があったのかを思い出した。

女はインターネットを通して参加者を集っていた飲み会に参加し、そこで出会った男性と2人で抜け出したのだ。

それからの記憶は途中で消えてしまっているが、目の前にいる男はその飲み会で出会った男に間違いなかった。

「どうして私をここに連れて来たの?」

「そうですね、どう答えましょうか……」

男は今の状況を楽しんでいる様子だ。

それが女には怖かった。

「遠回しな表現を避ければ、あなたを殺すために連れて来たと言えますね」

それは聞かなくてもわかっていた事だ。

しかし、こうしてはっきり言われるとは思っていなかったため、女は混乱する。

そして、恐怖から体が震え出した。

「お願い、何でもするから助けて……」

女は溢れる涙を拭う事なく、男を見る。

「何でもすると言うなら……」

どんな事をさせられるかはわからないが、時間稼ぎが出来れば、そのうち誰かが助けに来てくれるかもしれない。

女はそんな淡い希望を持っていた。

しかし、男の笑い声が聞こえた瞬間、そんな希望は消えた。

「私に殺されて下さい。私は人を殺す事が目的の……死神ですから」

男はそう言うと腕を振る。

女は何が起こったのか理解するまでに少し時間を要した。

初めは喉が熱いと感じた。

それから呼吸が上手く出来ない事に気付いた。

目の前には赤が広がっていた。

それが液体である事と、自分の首から出ている事を知ったところで女は漸く自分がどうなっているのか理解した。

ここまで時間を要した理由は女がそれを否定していたからだ。

自分の首が切られ、血が溢れ出している事を認識した瞬間、女はその場に倒れる。

しかし、まだ意識はあった。

痛いというより苦しいという感覚が強く、女は早く楽になりたいと思った。

「君は後どれくらい生きられるんですかね?」

しかし、男はそんな事を言うだけで何もしてこない。

人は死を前にすると走馬灯のように今まであった事を思い出すと聞いていたが、女はそんな事を思い出す余裕等ない程、苦しかった。

そしてそれから意識がなくなるまでの数分間は今までの一生の中で最も長く感じる数分間だった。


女が動かなくなってからしばらくして、男は女の体に数回ナイフを刺す。

そして女が何の反応も見せなかったため、死んだのだろうと判断した。

男は部屋に転がる遺体を見回した後、部屋を出る。

それから数歩先にあるドアを開けた。

そこには数メートル程の廊下があり、突き当たりにまたドアがあった。

男はドアまで近付くとそれを開ける。

「ここまで来れば助かるんですけどね」

ドアの先は外だった。

男は軽く背伸びをした後、携帯電話を取り出す。

それからしばらく携帯電話を操作していたが、途中で手を止めると笑みを浮かべる。

「面白い事をしていますね」

それから男は大きな声を上げて笑い出した。

男が持つ携帯電話の画面には司と凛についての情報が載っていた。

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