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警察の簡単な事情聴取が終わった後、勉は麗美と共に近くのレストランで話をしていた。
「さっきの店長の話、どうするんですかー?」
先程、勉はコンビニの店長から感謝されると共に、アルバイトとして働かないかと提案された。
そこには多少の冗談も入っていたようだが、元々アルバイトを募集していたらしく勉も今は特にアルバイトをしていないため丁度良いと思っている。
「せっかくですから、始めましょうよー」
何より麗美と一緒の時間が増えるのは嬉しい。
「そうですね……始めようかと思います。前にコンビニでバイトした事があるので、すぐに出来ると思いますし」
「ホントですかー!? だったら明日また来て下さい。私、明日もバイトしてますからー」
麗美が嬉しそうにしている事が勉は嬉しく感じた。
「そういえば、勉君は大学生ですかー?」
「はい、そうですよ」
「じゃあ、私と一緒ですね。あ、いつも自転車ですし、もしかして近くにある奥木大学に行ってるんですかー?」
「あ、そうです」
その答えに麗美は驚いたような反応を見せる。
「奥木大学って、今日論文発表してましたよね!?」
「あ、はい……」
麗美が興奮している様子だったため、勉は少しだけ圧倒されてしまった。
「私は全然理解出来ないんですけど、興味はすごいあって……!」
それから麗美は一方的に話を続ける。
他人の記憶を持てるようになるなら、誰の記憶を持つか。
様々な知識を詰め込む事で優等生になれるかもしれない。
そうした夢を麗美は思い付く限り話しているようだった。
そこで麗美は何か気付いた様子を見せると話を止める。
「ごめんなさい、興奮してしまって……こんな話してもつまらないですよね?」
「いえ、そんな事ないですよ! すごい楽しいです!」
今まで勉は麗美の事を大人しい性格の人物だろうと勝手に想像していた。
しかし、こうして話してみると麗美は明るく活発な性格に感じた。
自分から話題を振って話す事が苦手な勉としては麗美のこうした性格は助かる。
「もっと色々な話をして下さい」
「はい、わかりましたー」
麗美の癖なのか時々語尾を伸ばす話し方も勉にとっては新鮮で、もっと話を聞きたいと思わせている。
「そういえば、今日の論文発表を勉君は見ましたかー? 私はテレビで見たんですけど……」
「僕も見ましたよ」
「発表してた女性の方、カッコ良かったですよね」
「小泉加代子さんですよね? 僕、小泉さんと高校も一緒だったんですよ」
「そうなんですかー!?」
麗美の大げさな反応に勉の方が少しだけ驚いてしまった。
「そうは言ってもクラスが一緒になった事もなくて、顔見知り程度の仲ですけど……」
「今度、機会があったら小泉さんと話してみたいんですけど、無理ですかー?」
「わからないけど……頼んでみるよ」
そうは言ったものの、実際に頼めるかどうか勉自身もわかっていない。
しかし、麗美のためを思えば、その願いを聞かない訳にはいかなかった。
「あれ?」
突然、麗美は窓の外に目をやり、首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「あの人、小泉さんですよね?」
麗美がそう言うため、勉はそちらに目をやる。
確かにそこにいるのは小泉加代子に間違いなかった。
加代子は車の後部座席に座り、眠っているように見える。
また、加代子の隣と運転席に誰かが座っているが、その者達には見覚えがなかった。
「何かおかしいですね」
「え?」
麗美が何故そのように言ったのか、勉はわからなかった。
少なくとも勉はこの状況を見て、おかしい等とは感じていない。
しかし、麗美は何か考え込むように険しい表情を見せている。
「麗美さん?」
「ちょっと行ってきますね」
麗美はそう言うと席を立ったが、そこで車が行ってしまったため諦めるようにまた席に着いた。
「麗美さん、どうしたんですか?」
「ごめんなさい、ちょっと気になっちゃって……」
勉は麗美の事をほとんど知らない状態だ。
しかし、この時麗美が何かを隠しているような、そんな雰囲気を感じた。
とはいえ、今は麗美と話せる事が楽しく、そんな事はすぐ気にならなくなってしまった。