表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/77

10

司と凛は電車で少しだけ移動した後、本来では関係者しか入れないような場所でしばらく待機していた。

人の姿は当然なく、ここなら司の命を狙う者に見つかる心配もなさそうだった。

ふと司が目をやると、凛は険しい表情で携帯電話を操作していた。

「問題発生か?」

「予想してたんだけど、あなたを捜そうと組織が動いてて下手に動けないの」

「組織?」

司が聞き返すと凛は軽く笑う。

「そういえば、まだ説明してなかったわね」

凛は何から話すべきか考えているようで少しだけ間を空ける。

「イレイザーという組織については知らない?」

「イレイザー?」

「やっぱり知らないみたいね……」

凛が何処か残念そうな様子を見せたが、その理由が司にはわからなかった。

「イレイザーというのは存在している事が危険だと思われるものを排除する組織よ」

凛の言う『存在している事が危険だと思われるもの』がどんなものか司にはわからなかったが、さらに詳しい話を聞き、少しだけ理解した。

例えば、人や物に危害を与える兵器やそれに関する情報。

人殺しを繰り返す犯罪者等も該当するらしい。

そうしたものを排除する事を目的とするイレイザーという組織に司は狙われているらしい。

そうして話を聞いていく中でわからなかった事は司がそうした組織の標的になっている理由だ。

自分が生きている事で何かしら危険があるという事になるが、平穏な大学生活を送っている司としては心当たりがない。

とはいえ、今はそれよりも気になる事があり、それを先に聞くことにした。

「君は何者なんだ? そのイレイザーという組織について何でそんなに詳しい?」

そんな司の質問に凛は少しだけ困ったような表情を見せる。

しかし、すぐ笑顔になった。

「私はそうした組織のやり方に反対してるの。組織があなたの命を狙ってるから私はあなたを助ける。ただそれだけの事よ」

凛がそう言ったが、司はそれだけでは納得出来なかった。

イレイザーという組織についてまだ何も知らないも同然の状態だが、場合によっては殺人も犯す組織との事だ。

そんな組織を敵に回して、ただで済むとは到底思えない。

それだけのリスクを負ってまで司を守ろうとする理由として、組織のやり方に反対しているの一言では不十分だ。

そのため、司はさらに質問をしようとしたが、そこで凛が表情を変えたため止めた。

「予想通り、いつまで経っても見つからないから捜索範囲を広げたみたい。今ならある程度は動けそうね」

「さっきから何を調べてる?」

「組織の連絡を盗聴して捜索範囲をどうしてるか調べてるの。ここから離れるためには必須だからね」

簡単に説明を聞き、司は凛が今のような状況になる事を予測し、備えていたようだと感じた。

むしろ、今までもこうして組織を相手にしていたのではないかとさえ思わせた。

それは銃の扱い等に不慣れな様子からは決して想像出来ない事だ。

そうした疑問を解決したいとも思いつつ、今は移動する時だという事で司は後で詳細を聞く事にした。

思えば、自分が命を狙われている理由も聞けていない状況で凛に聞きたい事がどんどん増えている。

しかし、それらは全て落ち着いてから聞けば良いと考え、今は諦めた。

「じゃあ行くよ」

ホームで電車を待つ時間を減らすために寸前まで待機した後、2人はその場を後にし、足早に移動する。

そして丁度やってきた電車に乗り込んだ。

「何処に行くつもりだ?」

「目的地は一応あるけど、今はとりあえず遠くに行くのが先決よ。この辺りにイレイザーの本拠地があるし、危険過ぎるから」

そう言いながらも凛は携帯電話を確認する。

どうやら司を捜すために多くの者が動いているようで、その隙を潜り抜ける事は至難の業らしい。

そこで司は不吉な事を考える。

凛がイレイザーの情報を盗聴している事が既に知られていて、今は不十分な情報しか見せていないのだ。

そして今、イレイザーはこうして出て来た2人を見つけ出し、殺そうとしている。

そんな考えが生まれた瞬間、司は辺りを警戒する。

その中で司は1人の男と目が合う。

司はその人物に見覚えがある気がしたが、誰なのか思い出せなかった。

しかし、司は確信した。

その人物は凛等と同じように自分とは異なる世界の人物だ。

「次の駅で降りよう」

「え?」

司はその人物から目を離したが、いつ襲い掛かってきても対処出来るよう、気配に集中する。

そして電車が駅に到着し、司は降りようとした。

しかし、ホームにいた2人の男を確認すると後ろに下がる。

その男達も普通の人物が持つ雰囲気とは違った雰囲気を持っていた。

「こっちから行こう」

凛の手を引き、司は先程目が合った人物とは別の方向へ歩き、隣の扉から出ようとした。

ただ、その扉からも別の2人が乗り込んできたのを確認し、立ち止まる。

結局、司達が降りられないまま電車は走り出した。

「司?」

「こいつら組織の人間じゃないのか?」

「え?」

凛はそんな危険な気配を感じていなかったようで驚いた表情を見せる。

司は単なる思い過ごしだと思いたかったが、どうやら違うようだ。

4人の男はゆっくりと司達に近付いてきた。

「神野司ですね?」

「こんなところで俺を殺すつもりか?」

周りには他の乗客もいる。

いくらなんでもここで殺人を犯すとは考え辛い。

しかし、相手が相手なだけに確信は持てなかった。

「私達の目的はあなたの命じゃありません。だから殺しませんよ」

「じゃあ何が目的だ?」

「あなたが持つ記憶ですよ」

その言葉の意味がわからず、司は少しだけ考える。

「記憶?」

「あなた達、ガーディアンね?」

凛の質問も司には理解出来なかった。

「ガーディアンって何だ?」

「この国を守るなんて目的を言い訳に様々な兵器等を所持する組織よ。イレイザーとは敵対関係にあるの」

「平和のために武器は必要です。平和を歌うこの国にこそ私達のような存在が必要なんです」

どうやら凛の言っていたイレイザーとは別の組織のようだが、司にとってはどうでも良かった。

それより今の状況を打開する方法を模索する。

前後に2人ずついるため、戦闘になれば片方を倒している間に背後からまともに攻撃を受けてしまう。

凛が片方の相手をしてくれれば構わないが、そうした戦闘に凛は向いていないように見える。

そんな事を考えていた時、前にいた2人のうち1人が背後から蹴りを受け倒れる。

その間に司は振り返ると2人の男を殴り、気絶させた。

当然そんな事をすれば他の乗客は驚き、騒ぎ出した。

「次の駅で降りよう」

前にいた2人を倒したのは先程目が合った男だった。

「あなた……誰?」

「あんたらを助けに来た正義の味方だよ」

凛の質問に対し、彼はふざけたような態度を見せる。

「何か楽しそうだし、俺も一緒に行かせてよ」

「見ず知らずの人間を信じる気はないからダメだ」

司がそう言うと彼は笑う。

「あれ、その人は見ず知らずの人間じゃねえの?」

彼は凛を指差した。

「それに俺はあんたと会った事あるんだけど?」

「え?」

「昨日、シューティングバトルに出てたでしょ?」

そこで司は気付いた。

昨日、シューティングバトルで対戦したエースという人物が今目の前にいるこの男なのだ。

「昨日今日と会うなんて奇遇だよね。これも何かの縁だし助けてあげるよ。キレイな彼女ともお近付きになりたいし」

そう言われたものの、司はやはり彼を信じる気になれなかった。

はっきりとした理由は自分でもわからないが、勘のようなものが彼を信じるなと警告していた。

「悪いがお前の事は信用出来ない」

そこで丁度電車が駅に停止したため2人は降りる事にした。

「ガーディアンはそこら中にある監視カメラの映像から標的を探し出してるし、何の策もねえんじゃすぐ捕まるよ」

彼の言葉が気になり、2人は足を止める。

「俺はガーディアンの目を逸らす方法を知ってるよ。むしろ俺の協力がねえとガーディアンから逃げるなんて無理じゃねえかな?」

「……彼の言う通り、ガーディアンの情報は手に入れられないから逃げるのは難しいかもしれない」

凛の言葉を聞き、司は少しだけ考えた後、彼と行動を共にする事にした。

「どうやって逃げるつもりだ?」

「とりあえず電車を降りようか」

彼に従い、司達は今にも扉を閉めようとしていた電車から降りる。

「そうだ、俺は久城零次。零次って呼んでよ」

零次はこうした状況に慣れているのか、楽しんでいるような雰囲気だ。

「私は凛よ」

「俺は司だ」

「うん、よろしくね。とりあえず、監視カメラの死角に移動するからついて来てよ」

どうやら凛も零次を信用していないようで不審な目を向けている。

しかし、今の状況では彼に従う他なくついて行く事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ