01
身に付けているものはメタルスーツ。
頭にはメタルヘルメット。
右手にはレーザーガン。
腰にはレーザーナイフ。
そして、迫り来る敵を迎え撃つ。
……という設定らしい。
神野 司は特に表情を作る事もなく、レーザーガンというものを眺めていた。
「司、もっと楽しそうにしてよ」
小泉 加代子は司の方を見て笑う。
そんな加代子も司と同じ格好をしている。
客観的に見ると特撮に出てくるヒーローのような格好だ。
「はいはい、もっとやる気出してよ」
そんな司に対して木下 正人は不機嫌な様子を見せる。
とはいえ、司がこんな事をさせられている元凶は正人にあるため、本来は司が怒るべき場面である。
しかし、司が何か言い返す事はなかった。
その時、大音量でBGMが鳴り始める。
「それではシューティングバトル1回戦を始めます!」
元気の良いアナウンスを司は適当に聞き流す。
今始まろうとしているものについて簡単に言ってしまえば、少しハイテクになったサバイバルゲームらしい。
サバイバルゲームといえば通常はエアガン等を使うが、ここでは赤外線信号を用いた武器を使用する。
また、それぞれが身に付けているヘルメットとスーツには赤外線信号を感知するセンサーが付けられている。
それにより攻撃を受けた事が即座にわかる仕組みになっているのだ。
レーザーガンやレーザーナイフによる攻撃を相手に当てれば、相手を撃退した事になる。
反対に相手の攻撃を受ければ、当然自分が撃退された事になる。
そうした状況の中、自分が撃退される事なく、多くの敵を撃退する事が本来の目的だ。
しかし、今回は3対3のチーム戦で先に相手チームを全滅させれば勝ちという事らしい。
「Aチームは、マサト、ツカサ、カヨコ。対するBチームは、エース、コーメイ、フェアリーです」
突然、自分の名前を呼ばれたため、ここだけは司も軽く聞いた。
そして、司はある事を考える。
「それではゲームスタート!」
そのアナウンスによりゲームは始まった。
しかし、司は動かない。
「司、ちゃんと考えてるね」
正人は嬉しそうな表情を見せる。
「ここは闇雲に攻めないで作戦を考えた方が有利だって思ってるんでしょ?」
「いや、エースとかフェアリーとか名前を自由に決められるなら、もっと良い名前に……」
「それは後で考えてくれません?」
正人が呆れた様子を見せ、加代子は笑う。
「司、せっかくなんだから一緒に楽しもうよ」
そんな事を言われ、司はレーザーガンを軽く構えてみた。
「じゃあ……やるか」
「彼女が言うと違うね」
「うるさい」
正人にからかわれ、司はそれだけ返した。
加代子は顔を赤くしている。
その時、司は人影を見つける。
最も人影に気付いたのは司だけではなかったようだ。
「もう来たみたいだね。とりあえず隠れてよ」
「わかった」
正人の指示に従い、2人は物陰に身を潜める。
「正人が全員倒せ」
「初めからそのつもりだったし、攻めてくるね。後で無線を使って連絡するから……」
「無視する」
「お願いだから出て下さい」
そんな冗談を言い合った後、正人は先に行ってしまった。
話に聞くだけだが、正人は頻繁にこのゲームをやっているらしい。
ただ、今回のようなチーム戦となると正人も初めてだと言っていた。
ちなみにチームを作る上での条件として、男2人、女1人の計3人で作る必要があったため、経験がないものの大学で正人と仲の良い司と加代子が誘われた形だ。
「司、どうする?」
「適当に正人に任せれば良いだろ」
言ってしまえば、司と加代子は単に正人から誘われただけの数合わせに過ぎない。
そのため、司はゲームに慣れている正人に任せる事にした。
最も本音を言えば、ただ単に何もしたくないという理由の方が大きい。
その時、唐突に爆発音が響き渡った。
「フェアリーの攻撃により、マサトが戦線離脱しました」
そのアナウンスは正人が何の活躍もする事なく、撃退された事を伝えていた。
そして司はこのまま何もせず、1回戦で敗退してしまおうと考えた。
こんな面倒事にこれ以上付き合う気もないからである。
しかし、物陰からレーザーガンを持った者が姿を見せた時、司はそんな考えとは全く別の行動を取った。
まず、加代子を突き飛ばして物陰に隠れさせた後、数発レーザーガンを撃ち、相手を牽制した。
司の攻撃で相手は警戒したのか、逃げるように姿を消す。
「加代子はここで待ってろ」
司はそれだけ言い残すと移動を始める。
自分が何故ここまでやる気になっているのかはわからない。
むしろ今もやる気はないままだ。
しかし、自然と体が動いているのだ。
そこで司は人影を見つけると、物陰に隠れながら距離を詰める。
相手はどうやら男のようだ。
男も物陰に隠れているため、このままではレーザーガンを撃っても当てる事は難しいが、上手に先回り出来れば相手の裏をかいた攻めが出来そうだと感じた。
司はその感覚の通り行動し、気付けば男を待ち構えるような形になっていた。
男は司に気付いていないようで、あさっての方を向いている。
そのため、司はじっくりと男に狙いを定める。
しかし、司はそこで後ろにレーザーガンを向けると即座に撃った。
同時に先程と同じ爆発音が鳴り響く。
「ツカサの攻撃により、フェアリーが戦線離脱しました」
司の後ろにはいつの間にか女がいた。
どうやら前にいる男は囮で、そちらを警戒しているうちに女が背後から司を倒すつもりだったらしい。
その事に気付き、司は後ろにいる女から倒したのだ。
そのまま、司は前の男もレーザーガンで撃った。
「ツカサの攻撃により、コーメイが戦線離脱しました」
立て続けに相手を倒した事で一気に形勢逆転したが、司は一息吐く事もなく最後の1人を捜す。
司は無事に回避したが、相手は囮を使う等の作戦を立てているため、残り1人でも油断は出来なかった。
その時、またあの爆発音が鳴り響く。
「エースの攻撃により、カヨコが戦線離脱しました」
相手は司ではなく、あの場に残った加代子を攻めたようだ。
司はそこで気持ちを落ち着けると状況を整理する。
この場所は当初考えていたより広く、加代子がいた場所からここまでは距離がある。
つまりここで待っていれば、相手が来るまで少しの時間があるという事だ。
最もそれは加代子があの場所から移動していなかったらの話である。
次の瞬間、司の予想を裏切り、最後の1人は背後から攻撃を仕掛けてきた。
それもレーザーガンによる攻撃ではなく、レーザーナイフによる接近戦を仕掛けてきたのだ。
司は振り返る事なく体を捻らせると間一髪のところで攻撃を避ける。
同時にレーザーガンでの反撃を考えたが、相手が次の攻撃を開始していたため、そのままレーザーガンから手を放した。
そして腰からレーザーナイフを取り出すと相手の攻撃を防いだ。
その直後、司はレーザーナイフを振り、応戦する。
しかし、相手は即座に体勢を低くし、司の攻撃をかわした。
それから相手は低い体勢のままナイフを振る。
司はナイフを持っていない左手を相手の手首に当て、その攻撃を止める。
そしてまた司が反撃に移ろうとしたところで、相手は突然後ろに下がる。
その動きに司は反応出来ず、少しだけ距離が空いた。
相手はレーザーガンを取り出すと司に向ける。
司は既にレーザーガンを地面に落としているため、それで応戦する事は不可能だ。
しかし、レーザーナイフの攻撃射程よりも相手は遠くにいる。
そんな状況で司は一か八かの策に出たが、相手のレーザーガンを撃つ方が早かった。
「エースの攻撃により、ツカサが戦線離脱しました」
そのアナウンスを聞き、司はその場に座った。
「生存者、エース。1回戦はBチームの勝利です」
司はヘルメットを外し、一息吐いた。
それから少しして加代子と正人がやってきた。
「司、後ちょっとだったのに何で負けちゃうんだよ?」
「お前らがすぐやられるのが悪いんだろ」
「でも、司ってホント何やってもすごいね」
司はゆっくり立ち上がると軽く服を叩いた。
「元々、今は遊んでる場合じゃないんだ。早く終わって丁度良いだろ」
「気分転換って大事だよ?」
3人は軽く口喧嘩のような会話をしながら、その場を後にした。
この時、もしも銃やナイフが本物だったとしたら、司は肩に銃弾を受け軽傷を負っていた。
そしてエースという名前を使っていた者は司が咄嗟に投げたナイフが心臓に刺さり、命を落としていた。
その事実に気付いたのは、この場でただ1人だけだった。