12. 見捨て
半分潰されたバスの中で浜島は困惑した。
外にはあの怪物がいる。
かといってこのままでるのは間違いなく自殺行為――
浜島の胸の中で雪藤は震えていた。
浜島のすぐ近くで佐藤も唸ったまま顔を上げていない。
――あれ?
このバスには7人いたはずだ。
西島は喰われて、蛍を追いかけて木村もここにはいない。
浜島は恐怖のこともありなかなか誰がいないか思いつかなかった。
そうだ、白州がいないんだ。あの天然の――
浜島は狭くなったバスの中を見回したが、どこにも白州はいなかった。
さっきの衝撃で下に落ちた? それとも――
浜島は運転席のほうを見て、気がついた。
西島を襲ったあの運転席がポッカリと口をあけている。
怪物は間違いなく、浜島がいる壁の向こうにいる。
おそらく蛍たちを喰っているのだろう。
グシャバキグチャグチャと恐ろしい音がそれを物語っている。
――逃げるなら今しかない。
「詩歌、佐藤! あの運転席まで走れ!!」
浜島は詩歌の手を強く握り、運転席まで猛ダッシュした。
だが、浜島に佐藤はついてこなかった。
いや、ついていけなかったのだ。
見ると、佐藤の足がジーンズごと大きくパックリと割れており、そこからおびただしい量の血液が溢れ出ていた。
西島が襲われたときか、下にバスが落下したときか定かではないが、とても歩けるような状態ではなかった。
すぐ目の前で佐藤は怪物の頭の影により見えなくなった。
怪物はまだあの蛍を襲った穴からしつこく頭を突っ込んでいる。
どうやらこちら側の、運転席の穴には気づいていないらしい。
「うぅ……」
浜島は心を鬼にして、詩歌と共に運転席から外へと飛び出した。
【残り41人】