9. 緑の太陽
曽根井樹(女子11番)が無残な最期を遂げた頃、同じハーレム男の取り巻きの鷹島涼子(女子12番)と御子柴悠(女子21番)は同じ状況の財前響(男子7番)と辻修平(男子12番)、中城順輔(男子13番)らと共に、サイレンのした方向へと草をかきわけていた。
「それにしても、さっきのサイレンの後に聞こえた悲鳴はなんなんだ?」
財前が心配そうな顔をして誰かに返答を求める。
「……中城の……新名を襲ったっていう化けモンの話がマジならソイツの仕業だろうよ」
辻があっさりと答えた。
「さっきのバスの話、見間違いってことはないの?」
「あれが幻覚なんてのはありえねェ。俺はこの目で間違いなく見たよ。新名が喰われるとこ」
御子柴がうっと吐き気をもよおした。
同じ列にいながら、財前も辻も気づいていないのだから、見間違いなんて可能性もまだ残っているには残っていたが……
御子柴は中城の話がにわかに信じられないわけじゃなかった。
事実、この状況がすでにありえないのだ。
街の中を走っていたバスが突然地震にでもあったかのように揺れて、気がついたらどこかもわからないジャングル――密林の中。
はじめは夢や天国かとも思ったが、意識がハッキリしていくうちにそういう陳腐な発想はすべて頭から飛んでいった。
「とりあえず、サイレンのした方向にきっと人がいるだろうよ」
「頼りないわね」
鷹島はツンとした。
もともと鷹島はお嬢様育ちで、宮島和幸(男子19番)にへばりついているのも特に理由はない。
確かに宮島もかっこいいと思っていたが、別段大好きというわけでもなくむしろ話が合うただの友達という印象しかなかった。
だが、今はその宮島や、同じグループの曽根井にも無常に恋しくなっていた。
話し相手の御子柴がいたのは鷹島にとっては幸運そのものだった。
「涼子ちゃん、ちゃんと前見たほうがいいよ。結構枝とかあるし」
「え、あぁうん」
「それにしても頭がどうかなってしまいそうだ。こんなことって」
財前が自嘲気味に笑った。力が入っていない笑いだ。
そのとき、
「……おい、なんだアレ」
と中城が空に向かって指差した。
他の4人も驚愕した。
太陽――いや、それは似たような形をした別のモノだった。
丸い円形のその星はどす黒い緑色をしていて、太陽と呼べるような代物ではなかった。
5人は少なくともあんな緑色の星は見たことがなかった。
それはむやみに世界の終焉みたいなものを感じさせた。
「太……陽じゃないよね、アレ」
「ここは本当にどこなんだ?」
怪物、ジャングル、そして緑の太陽――
5人の心に何か不吉なものを予感させた。
【残り43人】