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逃げ道はひとつじゃない  作者: 他紀ゆずる
立ち止まってる暇はない
32/69

あたしはその後、精神的労と肉体疲労が一気に襲ってきて、眠り込んでいたらしい。

 それでも食べ物の匂いにつられて起きちゃう辺り、自分の卑しさってば天晴れだねっ。

「…お腹すいた…」

 くるまってた布団をそろそろ下げて美味しそうな香りの誘惑に鼻先を出すと、トレー片手に立っている近衛氏と目があった。

「起きられる?」

 Tシャツにジーンズ…なんだか若いお兄ちゃんみたいな格好してるな、近衛氏。

 いやまあ、25は若い内に入るんだろうけどさ、この人いっつもスーツ姿で実年齢より老けて見えるもんだから忘れてた。

 寝起きのちょっと乱れた感じの髪も、セットされてる堅苦しさがなくて、いいんじゃない?いつもそんな感じにしてれば、悪魔イメージも少しは和らぐのに。


「見とれてるの?」

 ぼーっと見上げてた自分に気づいたのは、その得意げなセリフで。

 あいっかわらず自惚れが強いんだから。ホントに見とれてたんだとしても、なんか認めたくなくなるじゃん。

「違う、着る物がなくて起きられないだけ」

 ふくれっ面で言うのは、脱がした本人がご丁寧にもパジャマ諸々をソファーに運んでくれちゃってたからだけど、照れ隠しが入ってるとしても、本音だから。

 うら若い乙女が、日の光も眩しい室内を裸で闊歩できるかっていうの。


「今更でしょ。見てるのは僕だけだよ」

 この場合、枕元までお着替え一式をデリバリーして、その後は部屋を退出するのが紳士ってもんじゃないでしょうか?

 なのに今更ってあなた…たった1回でそこまで開き直れるかってーのっ!まだ全然ですよっめちゃめちゃ恥ずかしいに決まってんでしょうが!


 ところが、さっさとベッドに腰を下ろして人の膝の上にトレーをセットした行動から見ても、近衛氏があたしに着替えをさせないつもりなのは一目瞭然。つーか今更なんとかって発言もそれを誤魔化すためと見たね。

 楽しいか?こんな嫌がらせが、あんたの秀麗な顔を意地悪く歪ませるほど楽しいのか?!

「…着替えをされちゃ困るわけでもあるんで?」

 湯気立ち上るフレンチトーストの誘惑に必死で抵抗しながら睨みつけると、近衛氏は爽やかに笑った。

「ただの嫌がらせ。早希こそ下世話な勘ぐりはやめないと、また襲って欲しいみたいだよ」

「誰が!ってかなんで話をそっちへもっていく!」


 理解できないね、人の意見無視して強硬にコトに及んだくせして、まだ不満?まだいじめ足りないの?

 なのに、あたしの叫びにギラリと目を光らせた悪魔は、低ーい声でおっしゃるわけだ。

「人の優しさを、男としての本能の欠落みたいに言ったこと、忘れた?」

 うーわーぁ、しつこく覚えてるなぁ。粘着質な男は嫌われるんだぞぉ。

「…さっきのでチャラじゃないの?」

 窺い見ればにこりともせずにきっぱり首を振る。

「まさかあれだけで証明できたとは思えないね。理解力の乏しい早希には一生かけて実証しないと」

 随分長い道のりじゃないの…うっかりさんの一言は贖罪に一生かかるほど重かったですかね?


 楽しげな近衛氏見てたら、なんだかどっと疲れが襲ってきた。

「もういいや、とにかくお腹すいたし」

 反論の気力が湧かないのは、きっと空腹が思考の邪魔をしてるに違いない。うん、そうだ。

 だったら力を蓄えないとね。冷めたフレンチトーストはまずいに違いないんだから、これ食べてエネルギーにするぞっ。


 一方的に会話を放棄してフォークを口に運んだ直後、近衛氏が呟いた。

「取り敢えず子供を作ろう。それまでには早希の誤解も大分解けてると思うよ」

 気管に流し込んじゃった食べ物に、大きくむせた。てか、どうやっていれたんだ?気管にフレンチトースト。

 それよりなにより、昼日中から女子高生とする話なの、それ?淫行罪で捕まるがいいよ!


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