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逃げ道はひとつじゃない  作者: 他紀ゆずる
逃げ道はひとつじゃない
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 華やかなメンツと会話の一致しない恐ろしいお茶会は、波乱ありまくりでまだまだ続いていた。

 とびとびの話から読み取れたのは(話題が変わるのよ、ひっきりなしに)歌織さんがいなかったのは道楽のピアノがコンクールで好成績残したせいで、有名な音楽大学に留学してたからってことと、大嗣さんと将彦さんがあたしと結婚する気になった訳。

 隆人さんの邪魔するのが面白いのと、お嬢様は見飽きたからだそうな。

 似たような台詞を、遙か昔に聞いた気がするのは何故かな…。

 兄弟そろって人を珍獣扱いしてんじゃないっての!


「まぁめぼしい女は財産目当てか、お父様に勧められてって言うからな」

 ようやく着替えてきた大嗣さんは、ケーキをほおばりながら出会った女性達を思い出して顔をしかめてる。

 金持ちは普通の恋愛できない環境なのかっ?!今時、親の勧めに従って結婚決める女がいるとはおそれいるよね、こりゃ。

「個人的には女性はみんな好きだけど、出会ったことがないタイプを落としてみたいと思うのは僕の本能なんだ」

 そんな腐れた性根は捨ててしまえ。

 お話にならない将彦さんはおいといて、取り敢えず二人とも真剣に惚れた腫れたで結婚の二文字を出してたんじゃないことはよーくわかったわ。


 どいつもこいつも、ため息誘ってくれるじゃないの。

 この人達も近衛氏と同じく、女性に恨みでもあるんですかね。

「全く、家の男共ときたらそろいも揃って唐変木ばかり」

 あたしの心中を代弁するように、盛大に肩をすくめた歌織さんが言い切った。

 そう、そうなんですよぉ。

 近衛氏といい、こいつらといい、人の一生に責任を持とうとか、相手に尊敬と思いやりを示そうとか考えてる人いないの。

 嫁をもらうのと、骨董市で掘り出し物を見つけるのとが同列にあるって価値観は、どう転んでも理解できない代物なんだから。


 激しく頷いて歌織さんに縋る目を向けたあたしに、彼女はにこりと笑ってみせると不満げな兄達を一掃すべく冷たい視線を送った。

「早希ちゃんはまだ16なのよ。夢も希望もいっぱいのお嬢さんに面白いから付き合えだの、変わり種だから退屈しないだの面と向かって言う人がありますか。プロポーズは形から入るものよ。大嗣兄さんなら宝石店ごと買い占めてくるとか、将彦君なら庭の薔薇を一本残らず切って捧げてみせるとか、それなりの誠意を示さなきゃ」

…気のせいかな?誠意の示し方が、果てしなく間違ってる気がするのは…。

 形から入られても嬉しくないです。気持ちから入って下さい。

 ピカピカの石だの、処理に困る切り花の山だの貰っても困るだけです。

 しかし、困惑顔のあたしを無視して歌織さんの演説は続くんだな、これが。

「嘘でもいいのよ、オッケーをもらうまでは相手を大事にしてる素振りが大事」

 嘘は…いやだなぁ。

「彼女の望みを徹底的にリサーチして合わせるの」

 恋愛に興信所は必要ないような…。

「好みの男になりすまして、胸焼けするくらい甘い言葉を囁いて」

 作りもんじゃないですか、それは。

「結婚したらこっちのものよ、愛はその内生まれるわ!」

 生まれないって。


 誰かー、助けてー。救世主だと思った人は、近衛氏以上の悪魔でした!

 しかもそれ、本人の前でばらしてどうする。見てみなって、兄ちゃんズもご両親も固まっちゃってるじゃないの。

 末っ子の悲しさか、近衛氏を越える見事な性格なのに詰めの甘い歌織さんに頭痛を覚えたあたしは、痛むこめかみを指で押さえて諦めにそっと首を振った。

 ダメだ、この人達。

 どれをとってもまともな所がありゃしない。金持ちったっていろいろいるだろうに、よりにもよってこの家に当たるとは…あたしって運がないんだ、きっと。

 得意げにふんぞり返る歌織さん見てると、近衛氏とケンカしてるのがバカらしくなってきた。

 信頼の1つや2つなんだって言うの。少なくとも彼は恋愛する努力はしてるし、何を企んでたとしてもそれを他人に悟らせるようなドジは踏まないじゃない。

 上手に騙されるなら本望よ。選択の余地のない結婚なら近衛氏とするのが得策。


「そうかぁ…。早希ちゃんと結婚するには、手順がたくさんあるんだねぇ」

 そこー!納得して頷くんじゃない!

 策を聞いた以上、どんな搦め手で来たって落ちるわきゃないでしょうが!

「嘘は得意じゃないんだが、面白そうなゲームだな」

 得意じゃないならつくなー!!

 そう言うのは弟に任せとけばいいのよ。近衛氏は生まれつき上等な二枚舌を所有してんだから。

「ちょっと、3人とも…」

 怒りに体を小刻みに震わせるあたしに気づいたおば様の警告は、しかし誰も正確に理解することができなかった。

「ほら、早希ちゃんも喜びにうちふるえてるわよ」

「そうか。よし、明日好きなだけ宝石を買ってやるからな」

「うーん、花を切るのはやっぱり僕の主義じゃないから、花屋を一軒プレゼントではどうだろう」

「いらんわ!!」


 とうとう怒りを爆発させたあたしは、辺り構わず怒鳴り散らしたい欲求を抑えてギロリとアホ家族を睨みつけた。

「小手先の策を弄す暇があったら自分を磨け!心は高価な商品で買うんじゃなくて、熱い思いで動かすのよ!あんた達と結婚するくらいなら、明日にでも近衛氏と籍を入れてやる!!」

 肩で息しながら宣言した声を、支持する拍手が聞こえたのはこの時。

 計算ずくのタイミング、背筋の凍る間の良さ。

…今、勢いに乗って絶対言っちゃいけない一言、声に出さなかった…?

 ギギギギギッと効果音がつきそうなくらいぎこちない動きで振り返った背後には、満面の笑みを浮かべた近衛氏が…。

「しっかり聞いたからね、プロポーズの返事」

 固まるあたしに歩み寄りながら、誇らしげに掲げて見せた薄っぺらい紙には近衛氏の署名捺印が輝いている。

 茶色い文字で書かれた『婚姻届』の3文字がなんと目に痛いことか。


「弾みで言っちゃった…ってだめ?」

 上目遣いに可愛らしく聞いてみたんだけど、だめっとにべもない返事。

「宣言通り明日籍を入れようね、奥さん。証人はたくさんいるし」

 不機嫌に曇る瞳が2組、喜びに輝く瞳も2組。

 気になるのは不敵に微笑む瞳が2組あるって事実、かな?

「早希ちゃん、隆人君と渡り合うならもっと狡猾にならなくちゃ」

 ぐる?歌織さんもぐるなの?

 あたし、まんまと策に嵌ったのー?!


 悪魔が二人になったら、エクソシストって呼べないもんかしら…?


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